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「彩、無理言って悪かったな」

「大丈夫ですよ。気にしないで下さい」

玄関の壁に寄りかかり、ジーンズのベルトに片手をひっかけた凌央さんが少し申し訳なさそうに謝った。

今日から泊まり込みでアシスタントだ。

「もうあらかた出来てるんだが、連日のハードスケジュールでストレス溜まっててな。仕上げの追い込みは彩の料理を食べながらやりたいんだ」

嬉しい、素直に。

「私の料理でいいなら、喜んで作りますよ」

「荷物かせよ。運ぶから」

「はい」

今日は23日。

本当は明日からの約束だったけど、私は朝から凌央さんの家へと出向いた。

だって……圭吾さんとは気まずいままだし、私がいない方が花怜さんと上手くいくような気がしたから。

「凌央さん、私買い出しに行ってきます」

「分かった。朝食はコンビニで済ませたから俺は作業に入る」

「わかりました」

私は凌央さんに微笑むと、自分の仕事に取りかかった。


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料理を作り掃除をして洗濯をすますとあっという間に夜がやって来た。

凌央さんは食事と僅かな休憩時間以外はアトリエに籠りきりだった。

私はといえば家事以外はやることがなく、テレビやスマホを見て過ごした。