屋上に向かう階段を上りきると、そこにはあの頃と変わらぬ景色があった。
国道から学校に続く細いでこぼこの一本道。
カラフルなパラソルの屋台。
その周りには褐色の肌の子供たちが、はしゃいでいる。
あの頃には無かったモノレールが走る市内と比べ、この一帯はまるで時を巻き戻したかのように、私を迎えてくれた。

ここに、確かに14歳の私はいた。

灼熱の太陽がジリジリと肌を焼く。たまらず階段を下り、今度は室内体育館の脇の階段を下ると、教室のドアが見えた。
今日はもう下校の時間を過ぎたと、守衛室のガードマンが身振り手振りで教えてくれた通り、シンと静まり返って、私の知っている学校じゃないみたいだ。
自然と足がある場所へと向かわせ、今は1年1組の表札があるクラスの前に立つ。
「失礼しまーす」
かつてここは、私が通った日本人学校の2年4組があった。
机と椅子はさすがに新しくなっているけど、他は変わっていない。
思い出のかけらを繋ぎ合わせるように、窓際の後ろから2番目の席に座る。
窓を開けると、東南アジア独特のムッとした風が、私の頬をなでた。
埃っぽい空気が、私を一瞬であの日にタイムスリップさせる。
目を閉じると、窓の外に鮮やかなピンク色をしたブーゲンビリアが風に揺れている。
後ろからツンツンと背中をつつかれて振り向くと、真っ黒に日焼けした男の子が、ニーッと笑って言った。
「俺、坂口圭。ケイって呼んでな。リコ」
女子校に慣れてしまっていた私は、耳まで赤くなりながら
「よろしく…」
と返すのが精一杯だった。
転校初日のこの出会いが、この先2人の人生にどれだけ大きく関わるのか、この時にはまだ知る由もなかった。