きれいにカゴの中に収納されている白い食器や、フックに吊るしてあるフライパン。飲み干した数本の缶ビールと、灰皿の中にあるタバコの吸い殻。そして、白いまな板の上に乗ってある包丁が私の瞳に映った。

「僕のことを好きだと言ってくれ、千春」

顔を真っ赤にして興奮した様子で、さらに私に詰め寄る中年の男性。その差、二メートル。

「やめて。近寄らないで!」

私は細い首を左右に振って、拒絶した。

「どうして………どうして、僕のこの気持ちをわかってくれないんだ。こんなに僕は、千春ちゃんのことが好きなのに………」

私にフラれたことが相当ショックだったのか、中年の男性はぽろぽろと泣き始めた。

「………もう終わりだ」

「え!

中年の男性はボソリとなにかをつぶやいたが、私ははっきりと聞こえなかった。

「こんな世界、もう終わりだ。千春ちゃんと一緒に幸せになれない世界なんて………」

そう言って中年の男性は、泣きながら胸ポケットから折りたたみ式ナイフを取り出した。