会えるはずのない人に会いたいと手紙を書いた。
会えないのが当たり前。
だから会えたとき、私は先延ばしにしていた事を実行しないといけない。
会いたいけど会いたくない。
矛盾している心。
一度でいいからほんの一瞬だけでいいから私のためだけに会いに来てくれますように。
何気なく積み重なっているファンレターを見た。
今時手紙なんて珍しい。
機械的な文字じゃないところが僕は好きだった。
その中の一つが目に留まった。
いつもはただ目を通すだけなのにそれだけは僕が読まないとって思った。
手紙をあけてみる。
会いたいとかありきたりで絶対ダメなのに何故かこの子には会いに行かないとって思った。
見知らぬファンの子が書いた手紙。
一回でも会いに行かないと。
よし。この子に会いに行こう。
今日はちょうどOFFの日だし。
そっと手紙をポケットにしまおうとしたとき誰かが声をかけてきた。
「海琉。その手紙見せて見ろ。」
声をかけてきたのは僕の事務所の社長で僕の親代わり。
三島俊之。
すっとしまおうとした手紙を見て名前を確認する。
「別に会いに行こうかと思ってないから」
僕はとっさにウソばればれで言った。
そうすると社長から思わぬ返答が返ってきた。
「この子には会いに行って良いぞ。」
「え?社長の知り合い?」
「まぁ。」
社長には珍しく曖昧な言葉だった。
「この子はいいの?だっていつもうるさくスキャンダルはダメだって言うじゃん」
「この子は大丈夫。」
「はー?」
「行くなら今日行ってこい。俺は忙しいじゃぁな。くれぐれもその子に嫌な思いはさせるなよ。」
そう言って颯爽と去っていく。
色々突っ込みたいところだけどお許しもでたし会いに行こう。
その子の名前は「海ちゃん。」
今日も退屈ー。
佐和子さん来ないと話し相手がいなくて暇。
病室から外を見る。
はぁー。出掛けたいなぁ。
勝手に抜け出しちゃうかな。