ギッと奥歯を強く噛んだ。だけど尚も続く、汚い言葉の暴力に私は思わず耳をふさぎたくなった。
「さっきもさ、一人だけゴミ捨てに教室抜け出しやがって。本当はだせぇ奴って盛大に笑ってたんだろ?」
「もういーじゃん。行こうぜ、伊藤」
「早く帰ろう。日向様は伊藤とは話す価値もないって」
「そうやって、一生俺は他のバカとは違うって勘違いして生きてってください、どうぞ」
 乱暴にゴミ箱が蹴られる音がした後、伊藤君たちの声は段々と聞こえなくなっていった。あんまりな言葉にショックで体が動かない。遠ざかる足音とは反対に、私の中の怒りがふつふつと燃え上っていく。私はひざに顔を埋めてうつむいた。そのままうずくまっていると、うっすらと誰かの気配を感じた。顔を上げると、そこには苦笑している日向君がいた。
「やっぱりここにいた。帰っていいって言ったのに」
 私はその瞬間、なぜか目頭が熱くなった。
「なんで、なんで何も言い返さないの日向君」
「はは、なんで中野が怒ってるの……ていうか泣きそう?」
 ごめん、俺なんかした? と思い切り慌て出す日向君に、私は首を横に振った。
「もし私がケンカが強くて男だったら、絶対殴り倒してたよ、今の奴」
「気持ちだけもらっておくよ」
 日向君は困ったように笑って、私の肩をポンと叩いた。困らせているって分かってても、納得いかないよ。あんな一方的な八つ当たりの仕方、許せないよ。
「なんで。なんで日向君があんなこと言われなきゃなんないの……」
 「ありがとう」って、日向君が小さく呟いた。私は納得のいかない表情のまま、日向君の声に耳を澄ました。
「すかしてるように思えたのも、この能力を持ってる限り、仕方のないことなんだよ。人と距離を詰め過ぎても、お互い傷つくことになるしね、最終的には」
「仕方なくない!」