「見た目ほどじゃないよ」
「ごめん、持ってあげたいんだけど、どっちも手がふさがってて」
「いいよいいよ、ありがとう。日向君って本当に優しいよね」
 そう言うと、日向君は真顔で首を横にぶんぶんと振って、全然そんなことないと呟いた。
「男子はセットづくりどう? 順調?」
「……順調、かな」
 日向君は首を少し傾げながら、そう答えた。
「よかった、お疲れ様です」
 私はそう返事したものの、日向君の表情に曇りがあった気がしたのは考え過ぎかな。
 ガサガサゴミ袋を揺らしている日向君と歩いていると、いつの間にか足音が増えていたことに気づいた。よくよく耳を澄ますと、奥の階段から、複数人の笑い声と怒鳴り声が聞こえてきた。
「あー、これ多分、伊(い)藤(とう)君とかの声かな。というかなんか問題発生中……? ケンカ?」
 さっきまでの穏やかな時間が嘘みたいだ。日向君は、わずかに眉間にしわを寄せていた。
「……さっき、もめてたんだ。大道具をつくってたら、いきなり伊藤の彼女が来て……もめ事とか、怒りとか、そういう強い感情はオフにしてても聞こえる。だからゴミ捨てに来たんだよ、今。離れれば聞こえないし、そういう話は絶対読んだらいけないと思ったし」
 日向君はうつむいて途切れ途切れに話した。さっきの表情の曇りは気のせいなんかじゃなかったんだ。
 そうこうしている間にも伊藤君たちの声は近づいてきた。あまり前を通りたくないけれど、ゴミ捨て場までの道はここしかないから仕方ない。
「マジウケるよな、伊藤。教室の中心で別れ話とか」