「サエちゃん、ばいばい」
「またね、紫苑さん」
 ドアを明けるカランという音とともに、宮本さんの姿は奥へと消えた。
「また日向君の秘密ゲットしちゃった」
「ここで働いてること、内緒にしてほしい……困るんだ、あそこで働けなくなったら」
「分かってるよ、秘密ね」
 中野はへらっと笑ってグーで胸を叩いた。本当に、ことごとく中野には秘密がバレてしまう。なんでだろう。警戒心、もっと強めなきゃダメだな……。それにしても、俺の秘密を知って昨日の今日だって言うのに至って普通な中野にびっくりだ。
「かっこいいね、バーでのバイト! 私もバイトやりたいけど、お母さんとお父さんが高校生のうちは勉強に専念しろってさ」
「……ましてやバーでのバイトなんて、大反対だろうね」
 他(た)愛(わい)もない会話をしているうちに、ようやくあの路地から抜け出せた。チェーンのファミレスやコンビニが立ち並ぶ通りに出ると、道が明るくなり、人通りも多くなった。
「そういや、中野って家どこなの。電車通学?」
 そう問いかけると、中野はなぜか口をつぐんで念を送るように俺を見つめた。
「……西(にし)堺(さかい)駅で、自転車通学?」
「すごい、本当に伝わった!」
 興奮し切っている中野を見ていると、この能力がまるでただの特技のように思えてくる。思っていることを覗かれるなんて、俺だったら気持ち悪くて絶対に嫌だ。一緒にいたいなんて、絶対に思わない。
「そういえば、日向君って学校ではぼうっととしてること多いよね」
「え、そう?」
「もし私も日向君みたいな能力持ってたら、今、日向君が何考えてるか分かるのになー」