俺はもう一度うざったいというように質問を遮ったが、中野は嬉しそうにすぐに返答した。
「天才君とか、変人君とか、色々言われてますよ。日向君、本当に学校じゃあんまり話さないから」
「へぇ、でも話さなくてもそんな風に言われるってことは、存在は気にされてるってことなんだ」
「そうですね、日向君、容姿が整ってて目立つから」
「だってよ、よかったな、佳澄」
 何がよかったんだよ、一々背中を叩くなバカ力……と睨みつけたが、よほど学校内での俺の情報が聞けたことが嬉しいのか、宮本さんは楽しそうに中野と話し込み始めた。中野もよくこんなに見た目がヤクザみたいな男と、臆せずに世間話ができるな。そう感心し切っていると宮本さんが声のトーンを少し落として話題を変えた。
「それにしてもサエちゃん。もう、この店には二度と来ちゃダメだよ」
「えっ、せっかく紫苑さんと仲よくなれたのに」
「うーん俺も残念だけど危ないし、それに、なあ……? 佳澄」
 心を読まなくても宮本さんが何を言いたいか分かった。ブラウンのサングラスから透けて見える、鋭い瞳。ここで働いている俺を見たら、きっと今度こそ中野は俺に幻滅する。
「やっぱりここ、危ないんですか……」
 ぽつりと中野が呟いた。
「そう。危ないよ。佳澄みたいに獣染みた奴がいっぱい来るからね。さっきも絡まれそうなところから逃げてきたんじゃないの?」
 宮本さんは、中野の頭を優しく撫でてそう言った。
「誤解を生むようなこと言うなよ」
「佳澄、ちゃんと家まで送れよ」
「分かってるよ」
 俺は机に荷物を雑に置いてから、中野に帰ろうと促した。彼女はもう少しこの場にいたそうな瞳をしていたが、俺は首を横に振った。