「美梨花ぁ~!」
あの後も数々の失態を犯したあたしは、帰る時刻になると真っ先に美
梨花の元へ駆け込んだ。
「も~ヘコミすぎ愛音~。あっそうだ!今度さ、近くのフルーツパー
ラー、2人で行かない?」
「えっフルーツパーラー⁈行きたい行きたい!!!」
「じゃあ今度の日曜日ね♪」
この時のあたしは、まだ知らない。
このあと、最初のハプニングが起こることを…
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・・・・・・・・・
「ただいまぁ~~~~!」
「あっ愛音!ちょっと話があるんだけど、いい?」
家に帰ってきてすぐ部屋に入ろうとするあたしを、お母さんが呼び止
めた。
何の話なんだろう…?
不思議に思いながらもリビングのいすに向かい合わせで座ると、お母
さんは唐突にこう言った。
「愛音。お母さんね、出張で1ヶ月ぐらい家を留守にするの。」
「ふーん…ってぇぇぇぇえええええええ~~~!!!!!!!!」
意味不明!バカなの、アホなの?あたしに一人暮らしさせるの?家に
置き去りにするつもり?
ん?でも待てよ。1人=何でもできる。
何でもできる=…自由を手に入れられる!素晴らしいじゃないか!
「うん!わかった!1人で留守番できるから、行ってきていー…」
「だいじょーぶよ愛音!」
お母さんのやけにテンションの高い声があたしの言葉をさ
えぎった。
「1人になる心配はないわ!お母さんの知り合いの桐谷さんとこの息
子さんに一緒に住んでもらうから!愛音と同い年よ!」
「はああああああああぁぁぁぁぁぁ???????!!!!!」
おおお男と住む⁈
しかも同い年⁈
うちのお母さん思考回路やられてるわ~。
てか待って、桐谷さんって…ハ…いや、ちがう。きっとステキな王子様
だよね。うん。…ル…なわけ…ないよね、そうだよね。
「じゃあお母さん、5時半になったら家出るからね、よろしく。あっそれから桐谷さんの息子さん、15分に来るはずだからね!」
えっ15分?今の時刻は…10分⁈
あと5分だぁ!
必死になって部屋を整理していると、チャイムが鳴った。
「はーい♪」
相変わらず呑気なお母さんがそれに応対する。
…来たんだ。
ごくりと唾を飲む。
「これから1ヶ月間、よろしくお願いいたします」
えっ?
この声は、まさか…
「あっ、自己紹介遅れてすみません。桐谷 晴です」
…あぁ、終わった…。
「あれ、藤澤?」
なんで?なんでよりにもよって、同居人が
「ここ、藤澤の家?俺、これから藤澤と暮らすの?」
こいつなんですか?
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☆彡~☆彡~☆彡~☆彡~☆彡~☆彡~☆彡~☆彡~☆彡~☆彡~☆彡~
ー俺の初恋は、7歳の時だった。
その子はもう引っ越してしまって、どこにいるかわからないけども、
「また会えるよ!」って言った時の笑顔が忘れられなくて、
ずっと、想い続けてる。
…それなのに。
それなのに、高校の入学式、ある娘に目を奪われた。
初恋の人に似ていたから。
そう、その娘は…
藤澤愛音、だった…。
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「晴。すまないが、父さんの知り合いの藤澤さんの娘さんところで1ヶ
月間、住んでもらうことになった」
父さんから意味不明なことを言われたのは、2日前。
「はっ?なんで?」
「詳しいことはともかく、もう決まったことだ。悪あがきはよすんだ
よ」
「…。」
勝手に決めんなよ、父さん…。
しかも女と一緒に住むんだぜ?意味わかんね…
てか待て、藤澤さんて…
いや、あいつじゃない。絶対ちがう。
でも、そうだったらちょっとうれ…いやいや、嬉しくねえ。女と一緒なんてぇ~‼
「あら晴、嬉しくないの?せっかくアーちゃんと会えるのに」
「アーちゃん⁈」
俺は目を輝かせた。
ーアーちゃん。
俺の初恋の人。
お互いにアーちゃん、セーくんって呼んでたから名前は憶えていない
けど、俺にとって特別な存在だったことに変わりはない。
7歳のとき、母親に連れられて俺の家に来たアーちゃんは、可愛らし
くて、でも簡単に崩れてしまいそうで…
守ってあげたいって、思った。
その日から俺の家に住むことになったアーちゃんははにかみ屋さん
で、何を聞いても答えてくれなかった。
だから俺は、そんなアーちゃんが俺に何でも話せるようになるよう努
力したんだ。
そして、ある朝。
「…セーくん…///」
聞きなれた声が聞きなれない言葉を発しているのが聞こえて、俺は振
り返った。
そこには、顔を真っ赤にしてうつむいているアーちゃんがいた。
「えっ…」
アーちゃんは真っ赤な顔をあげて、照れたように笑った。
「へへっ…///『桐谷くん』は堅苦しくてやだから、『セーくん』にし
ちゃった…///」
その天使のような笑みに、恋に落ちたんだ…。
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・・・・・・・・・
ピンポ~ン
緊張しながらチャイムを押す。
「はーい♪」
中から、アーちゃんの母親が出てきた。
「これから1ヶ月間、よろしくお願いいたします」
俺はきちんと挨拶をした。
…おっと、自己紹介を忘れていたな。
「あっ、自己紹介遅れてすみません。桐谷 晴です」
あら~晴君!これからよろしく~♪などと1人で喋っている母親に適当
に相槌を打ちながら部屋の中を見回してみると、奥の方で呆然として
俺をじっと見つめている藤澤と目が合った。
…藤澤?
「あれ、藤澤?」
思わず声が出た。
なんでお前がここにいるの?
「ここ、藤澤の家?俺、これから藤澤と暮らすの?」
藤澤。お前が『アーちゃん』なのか?
ふと、入学式のことを思い出した。
藤澤を見て、確かに俺はアーちゃんに似ていると思った。
あの時の俺の直感は、正しかったんだ…
「なんでハルが同居人なの⁈あたし、絶対認めないんだからっ‼‼」
藤澤が騒いでる。
「もう決まったことなの、仕方ないでしょう」
藤澤の母親は娘をたしなめると、俺に向き直った。
「晴君、愛音とお友達?」
友達じゃな~い‼と抗議する藤澤を無視して、俺はお得意の営業王子
様スマイルで答えた。
「友達っていうかですね…クラスメートです」
すると藤澤の母親は、とんでもないことを口にした。
「へぇ~。見た目仲良さそうだし、大きくなったら家に来てもらおうかしら。愛音のいい旦那さんになりそ…」
「「はあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!??????」」
俺たちは思いっきりハモッた。
「ねえお母さん、ハルはやだよ。絶対やだよ。1人で留守番できるか
ら、今すぐにこいつを家に戻してよ、ねえ…」
あたしがお母さんに懇願していると、
リリリリン♪
電話が鳴った。
「もしもし?」
よそ行きの声でお母さんが対応する。
電話の間、あたしはこの5分間の間に起きたことを一から思い出した。
まず、ハルが同居人になった。
…この時点であり得ないことしてるんですけど、お母さん。
そして、ハルに「愛音のいい旦那さんになりそう」と言った。
あたしの大っ嫌いなハルに、「旦那さんに」とか頭狂ってるでしょお
母さん!ふざけるな!←母親にそんなこと言っていいのかなぁ~?