それを察したのか、涼が美鈴に尋ねる。


「このケーキ屋のパティシエは今日は不在ですか?」


「なにか良い食材が手に入るとかで、今少しだけ出かけてるの、何か用だった?」


「いや、……なんでもないです」


涼は、流石に美鈴に話すのはまずいと思い、それ以上のことを話すことはやめた。


柑菜を見ると、目の表情が落ち込んでいるのが分かった。


涼は何を話せば良いのか分からずに、黙ってしまう。


少しの沈黙の後、美鈴はケーキ屋の接客の仕事に戻る。


「今日は何に致しますか?」


「ええと、ザッハトルテ、2つお願いします。いいよね?」


前から食べたいと思っていたそれを、柑菜は選んだ。


「ああ」