「先輩? 職員室、ここですよ?」


ビクッ。

反射的に足を止める。


危うく通り過ぎるところだった……。


あたしは「あぁ……」と情けない返事をしたあと、鍵を返しに中へ入っていった。



***



「お待たせー!」


靴箱に着くと、美保ちゃんが向こうへ声を飛ばした。

その先には、同じマネージャーの後輩である澄香ちゃんの姿。

この二人がいつも一緒に帰ってるってことは、学年が違うあたしでも知っている。


澄香ちゃんは、あたしに気づくなりぺこりと頭を下げた。


「梓先輩、さようなら」

「うん、ばいばい」


軽く会釈して言った美保ちゃんに、ひらひらと手を振る。

あたしは駆けていくその後ろ姿を見つめながら、そーっと手を下ろした。


……結局、訊けなかった。


あのあと職員室から出ると、美保ちゃんは全く別の話題を振ってきて。


『さっきのって、どういう意味?』


なんて尋ねるタイミングは、どこにもなかったんだ。



美保ちゃん、もしかして怜佑のこと……。