ここで働き始めて七日間も過ぎたなんて信じられない。働いてみてわかったのは、このお店は常連さんで成り立っているらしく、ほぼ一見さんはいないってこと。それもそのはず、看板を出していないからだ。私がそうだったように、ここが店だとは普通思わない。

私の仕事はお茶出し、それにお会計。簡単な調理もやり始めてはいたけれどまだ練習段階だから味つけはしてないし、時期尚早だとも思う。

覚えることは次から次にあって大変だったけれど、意外に楽しんでできている自分がいる。

─キイ。

ブレーキ音が聞こえ左を見ると、常連さんのひとりが自転車をとめるところだった。

「夏芽ちゃんおはようございます」

カゴを持ったまま立ち上がると、夏芽ちゃんもカバンを荷台からおろして、

「詩織さんおはよう」

と、いつものように明るい声で言った。おそらく最年少の常連客である夏芽ちゃんは、中学二年生。毎朝ここで朝食をとってから学校に行くらしい。普通なら家でごはんを食べそうなものだけれど、詳しい事情は知らない。あたりまえのように毎朝やって来て、『行ってきます』と爽やかに去ってゆく。

「なにそれ、絹さや?」

ボブの髪を揺らしながら竹かごを覗きこむ夏芽ちゃんに、

「おしい、これは大和野菜の碓井えんどうです」

と、知ったかぶりの知識を披露する。

「詩織ちゃんこそおしい。碓井えんどうは大和野菜じゃないよ。奈良で昔から育てられているけれど、分類はただの野菜だよん」

「え? そうなんですか?」

昔からある野菜なら大和野菜だろう、と思いこんでしまっていた。まぁ、まだ来て早々の私だから仕方ない。

ひとりで納得している私に夏芽ちゃんは「しょうがないよ」と、笑う。

「どちらも奈良特有の野菜だし、それが正式に大和野菜と認められているかどうかの違いだからさ。他県から来た人は同じに思えちゃうよね。碓井えんどうも有名だけれど、あたしも見たのは初めてだし」

「奈良に住んでいる人でもそうなのですね」

夏芽ちゃんのフォローにホッとした。こういう気づかいができる彼女は年齢以上に大人に感じてしまう。

うなずいている夏芽ちゃんに、

「今、下ごしらえが終わったところです」

と報告する。小柄で大きな目の夏芽ちゃんは運動部らしく、まだ四月だというのにすでに日焼けしている。