「ちょっと、それはないでしょう。そんな簡単な理由でいいの?」

これから一緒に働こうっていうのに、採用する理由もないなんて。

「いいじゃないか。これから知っていけばいいんだし」

雄也は笑った。彼の白い歯を初めて見た私は、驚きのあまり固まってしまう。

手元の契約書に目を落とした。

あの朝ごはんから、なにかが変わり始めている。

それは私の心かもしれない。

ペンを持つと、迷いなく自分の名前をインクに託した。

奈良のど真ん中に位置する奈良市、その観光名所である『ならまち』のはずれの名前もない朝ごはん屋。

ここで、今、私の新しい一日が始まった。