雲ひとつない空に輝く月が、この町に光を降り注いでいる。

「せっかくだしさ、やっぱり燈花会を見に行こうよ」

気が変わってねだる私に、雄也は顔をしかめた。

「さっき断ったばっかだろうが」

「いいじゃん。雄也の言う『これが奈良だ』を、もう一回見たくなったの」

腕を引っ張って誘う私に、雄也はあきれたように、

「まったく」

と、つぶやきながらも笑顔を見せてくれる。

ここは、『ならまちはずれの朝ごはん屋』。

明日からも、たくさんのお客さんが訪れるだろう。

様々な人生を背負った人たちが、温かい料理で少しでも元気に・新しい一日・を過ごせますように。

そう、願った。



【完】