「なぁ、お吸い物に入ってるのって、白玉?」

園子ちゃんの質問に私はうなずいた。

「そうなんです。お盆には白玉を食べる風習があるようですよ」

雄也から教えてもらうことはひとつひとつ、こうして私の知識になってゆく。

「今日はお盆だから精進料理だ。朝ごはんではないが、一応温かいもので揃えておいた」

「ほんとだね。精進料理って冷たい食べ物ってイメージだったけれど、どれもすごくおいしそう」

夏芽ちゃんが大きく香りを吸いこんでいる。

「ちょっと、この飛竜頭のおいしいこと!」

目を丸くした和豆が、『飛竜頭のだし煮』を食べて悲鳴にも似た声をあげた。

「あたりまえだ」

そう言う雄也に私も同意する。

「そう、あたりまえです」

「なんやの、あんたら」

苦笑した園子ちゃんも、ひと口食べてみてそのおいしさがわかったのか感嘆のため息をこぼしている。

「飛竜頭、ってこれ?」

和豆の視線にロックオンされている皿を見て夏芽ちゃんが尋ねると、園子ちゃんは眉をひそめた。

「なんや夏芽ちゃん、飛竜頭も知らんのかいな」

「うん」

「世代の差を思い知らされるわ」

嘆く園子ちゃんに苦笑した雄也。

「一般的には『がんもどき』と呼ばれることもあるが、精進料理に使われる際は、古来から伝わるこの名前になるんだ」

「へぇ。おもしろい名前だね」

湯気の向こうで目を輝かせて言う夏芽ちゃんが、ふと空席に置かれた食事に気づいた。

「あれ、ひとつ多いけど?」

疑問もそのはず。ここには見た限り、三人のお客さんしかいない。だけど、そこに彼女はきっと座っているはず。

「それは、友季子さんのぶんです」

私の言葉に、

「友季子さん?」

事情を知らない夏芽ちゃんは眉をひそめた。

雄也はお盆を見てやさしくほほ笑んだ。

「ああ。今日は友季子も帰ってきているだろうからな」

そう言うと、

「お帰り、友季子ちゃん」

和豆も言った。

「お帰りなさい。友季子さん」

私も、彼女の笑顔を思い出して挨拶をした。

食べ始めたみんなをたくさんの湯気が包んでいる。

なんだか……。

みんながこのお店に集まって温かい料理を食べていることが、奇跡のように思えた。

笑顔がたくさんここにはあって、食べていない私まで温かい気持ちになる。

うれしくて泣きそうになるなんて初めてのことだった。