たしかに誰も住んでいなさそうな古い家があったけれど……。

「言う必要もない、って勝手に思っていた。店は継続するのだから。だけど、それは俺の傲慢だったのかもしれない」

たくさんの灯りは、時間だけでなく人の心をもやさしくするのかもしれない。

今、雄也が口にしていることは心からの言葉だ、と思った。

雄也を信じられなかったのは私だ。お店を継続させる計画をちゃんと雄也は立ててくれていたのに、勝手に早とちりをして……。

「うう」

うめくような声を出した私に、

「おい、泣くなよ」

雄也の声が聞こえたけれど、ダメだった。自分が恥ずかしくてたまらなかった。どんどんこぼれる涙を両手で覆って隠す。

「私、私こそ、ごべんばざい……」

言葉にならないまま嗚咽とともに吐き出す。

そばを歩く人が私の顔を見て、ヒソヒソとなにか言っていても関係なかった。

雄也はやさしい人。

私を助けてくれた人。

そんな人を疑った自分が情けなくて消えてしまいたかった。

「泣くな、ってば」

その声と同時に、私の視界は真っ暗になった。気づくと雄也が私を抱きしめていたのだ。彼の体温が作務衣ごしに伝わってくる。なんてやさしくて温かいの。

「他意はないから気にするなよ。隠しているだけだから」

なんて言ってくる雄也に、

「わかってる」

うなずく私。

不思議だった。

こんなに落ち着いた気持ちになったのは、生まれて初めてのことだった。そうしてから気づいた。もう、あの店が私の居場所なんだって。

肩ごしに見えるたくさんのろうそくに、心の中でつぶやく。『ありがとう』と。

「……おい」

雄也の声がした。

「ん?」

「大変だ……」

「は?」

顔を上げると、すぐそばにある雄也の顔は遠くを見ていた。

つられるようにそっちを見ると、真っ暗な小山のシルエットが見えた。あそこは和豆がいる手葉院。

そこに色とりどりの花火が……。違う、花火じゃない。うっすらと赤や黄色の光が動いているように見えた。

「まさか……火の玉?」

「やばいぞ、あれは」

手葉院を取り囲むようにうごめいている色たちの異様さに、私たちはどちらからともなく強く抱きしめ合った。



必死で手葉院の階段を史上最高の速さで上り切った私たちは、裏口から中へ飛びこんだ。

「助けてぇぇぇ!」