「昔っから人と話すのは苦手だったが、穂香がいなくなってからいっそうひどくなった」

胸が痛くなる。雄也が自分自身のことを自ら話すのは初めてかもしれない。そう思うと、やがてくるお店の終わりを感じた。

最後だから、話をしてくれるんだと思った。

「そう……」

涙がまたあふれてきそうになるから、空を見た。光の海から見上げる空は、ろうそくの光に負けて、わずかな星の光しか見えない。

「伝えるべきことがなんなのか。どこまで相手に言っていいのかもわからなくなった。俺の中のものさしは、狂ってしまったんだろうな」

「うん」

声の震えをバレないようにするのが必死だった。

お店が終わることが悲しいんじゃない、と今気づいた。

雄也だけじゃない、和豆や園子ちゃん、そして常連のお客さんたちに会えなくなるのが悲しいんだ。

せっかく出逢えた大切な仲間たち。願いが叶うなら、お願い、まだ終わらないで。

「あの店は区画整理でもうすぐ閉店する」

判決が雄也の口から告げられた。

思った以上の衝撃に目を閉じた。私は耐えられるのだろうか、この痛みに。

どんなことが起きても平気だ、って思っていた昔。それは、せまい世界での強がりだった。

だって、今、こんなにも動揺しているよ。

「そう……なん、だね」

ぼとぼとと落ちる涙がろうそくに落ちないよう、手の甲でぬぐった。

受け入れろ、と自分に命令する。

必死で言い聞かせる。

すう、と雄也の息を吸う音が耳に届いたのはそのときだった。

「次の店は、今より少し広いから」

「え?」

振り向くと、たくさんの灯りの中で雄也はやさしくほほ笑んでいる。

「引っ越しは大変だから手伝ってくれよな」

「……だって、新しい手葉院のところには行かないんでしょう?」

「ああ。あの場所を離れたくないんだ」

「だったら」

言いかけた言葉を雄也は手のひらで制した。

「俺はバカだと自分でもわかっている。穂香はもう戻らないことも、心のどこかでは覚悟している。それくらいのことをしてしまったのだから」

本当に悲しいのに笑っている雄也に、私の顔はゆがむ一方。

「でも、待っていたいんだ。ならまちはずれ、を離れることはできない。だから、二軒隣の家を借りることにした」

「……へ?」

素っ頓狂な声を出してしまった。二軒隣?