あっさりと言う雄也は本当に意味がわかっていないように首をかしげる。

ムカムカは度を超え、灼熱の怒りに変わる。

「普段は私の行動にいちいち反対するくせに! もうお店が終わりだからどうでもいい、ってわけ? 見損なったよ!」

「は? そんなこと俺は─」

「いつだってそうじゃん。私は雄也に助けてもらって感謝してるんだよ。なのに、そっけない態度ばかり。お店がなくなることもひと言だって教えてくれなかったよね? 私のことなんて考えてくれてないってことだよね!?」

ああ、ダメだ。ケンカするときの大原則である『今のことだけを怒る』を守れていない。過去のことを持ち出しては話がややこしくなるから、今怒っていることだけを伝えるべきなのに……。

「いい加減にしろ、アホらしい」

案の定、雄也は背を向けて部屋から出ていこうとする。

その足をガシッと両腕でつかんだのは、和豆だった。

「なっ……。離せよ」

「離さないわ。離さないわよ」

体ごと雄也の足にしがみつくようにしている。筋肉だらけの体にからみつかれては雄也も動けない。

「お前、怖いぞ」

「そう、あたしは怖い女よ。雄ちゃん、あなたも泊まるのよ」

ふふふ、と笑い声を含ませて言う和豆に私もゾッとした。だいたい、女性じゃないのに。

「なんで俺まで泊まらなきゃならないんだ」

「だって、あたしが詩織ちゃんに襲われたらどうするのよ」

襲うわけないでしょ、と口にしたかったが、今は黙っているときだと私でもわかる状況。ふんふん、とうなずいてまでみせた。

和豆は雄也を無理やり座らせる、というか、押し倒すと、

「だいたいお宅の従業員でしょう? 管理者として最後まで見守りなさいよ」

と、顔を近づけた。

「……意味がわからん」

ぼやく雄也だったけれど、もう抵抗する気はないみたいでその場で天を仰いだ。

「と、いうことで今夜は三人でお泊まり会よ」

ぱちん、と手を合わせた和豆にさっきまでの恐怖はなく、むしろ楽しそうに見えたのは私の気のせいだと信じたい。



さっきから私と雄也の間に会話はなかった。

いつもなら平気な沈黙の時間も、今日は落ち着かない。

夜になり、夕食を済ませてからはすることもなく和室でゴロゴロしている私たち。