と、低音ではっきりと言った。

「でも、この土地は和豆のものなんでしょう?」

「そんなのはわかっている。だから、ここを売るなり焼くなり好きにすればいい、と言ったはずだ」

そう言うと、雄也は乱暴に戸を引いて奥に引っこんでしまった。

─ドンッ。

と、大きな音がして閉まる戸を呆然と見送った。

「……ウソ。今、ここを売る、って言った? 要するに、店をたたむってこと?」

「そうなるわね」

はぁ、とため息をついた和豆を見て、もう一度奥を見た。エサ置き場から厨房を覗いてくるナムと目が合う。

「てことは……。私……また無職になるの?」

誰に話していいのかわからずに、ナムに向かってなぜか私は尋ねていた。

ナムはまるで意味がわかっているかのように、

「なん」

と、短く答えた。

翌日の昼過ぎ。

買い物帰りに猿沢池でぼんやりとベンチに座っている私。

今日もすごい人出でにぎわっているけれど、スーパーの袋を持って悶々としている人なんて私くらいのものだろう。

「困ったな……」

昨日からずっと考えていて気がついた。私の憂鬱の原因は、無職になるってこともあるけれど、なにより雄也が私に相談してくれなかったこと、それがショックだった。

この四カ月で、自分で言うのもなんだけど、無口な雄也にもそれなりに信用されているような気がしていた。少しは心を許してくれていると思っていた。

だけど、違ったんだね。

結局私はただの従業員。雄也にとっては相談する義理もなく、閉店することすら事後報告……いや、報告する気もなかったのかもしれない。

「それってひどいよね」

ひとり言をつぶやいていると、

「あら。また会ったな」

園子ちゃんの声がした。

「うわ。どうしたの、その格好」

驚いて声を出したのは他でもない。いつも派手な服の園子ちゃんが、今日は浴衣に身を包んでいたからだ。ひまわり柄の浴衣姿に和紙で作られた日傘をさしている。メイクはこれまで通り乗せまくりだけれど、和装は見たことがなかった。

「ああ、これ?」

少し照れたように園子ちゃんは自分の浴衣を見おろした。

「今日から『燈花会』が始まるからな」

「燈花会?」

なにそれ? という私の表情を確認して園子ちゃんは笑った。