いつの間にかごはんを食べ終わっていた和豆が「ごちそうさまでした」と、手を合わせてから言う。

「さ、そういうわけだから一緒にお店に行きましょう」

「お店に? なんで?」

「雄ちゃんを説得するのよ」

「説得、ってことは雄也は反対してるの?」

私の質問に和豆は顔を思いっきり近づけて言った。

「それを説得するのがあなたの役目よ」

幽霊でも妖怪でもなく、その顔はまるで悪魔のように見えた。



店に戻って雄也に『整備計画』のことを尋ねると、あっさりと、

「ああ」

と、認めたから拍子抜けしてしまった。

「どうして相談してくれないのよ」

なんだか疎外感を感じてしまう。ムダなこととわかっていても抗議してしまう私に、ナムにお昼ごはんをあげていた雄也は眉をひそめた。

「相談する必要なんてないだろ」

「は? 一応、私ここの従業員なんですけど」

「言わなくてもわかってる」

不機嫌になったとき特有のうなり声が始まった。でも、ちょっとくらい相談してくれてもいいのにさ……。厨房に入ってしまった雄也を追いかけながら、なおもぶつぶつ言う私に、

「雄ちゃんの気持ちは変わったかしら? いい話だと思うのよ」

イスに座った和豆がやさしく尋ねるが、雄也は答えない。

和豆がアイコンタクトのように目くばせをしてくる。

はいはい、わかりましたよ。

「私もそう思う。県庁の裏側っていったら一等地なわけじゃん。お店も新しくなるし、反対する理由はないでしょ?」

階段も上らなくてすむわけだし、という意見は置いておくとしよう。

雄也がトウモロコシの皮を剥きだした。

まるで私たちの存在などないかのように完全無視状態。

「雄ちゃん、あたしだって手葉院にはそれなりに思い入れがあるのよ。でも、新しい場所に移ればこれまで以上にきちんとお客さんも呼べるようになると思うの」

無視は続くが、めげずに和豆は笑顔のまま。

「もちろんこれまで同様に、家賃は朝ごはんの差し入れで十分よ」

無視はまだ続く。

さすがに困った顔になった和豆が、今度は私をにらんできた。どうにかしろ、って脅しているのがわかる。

「ねぇ雄也。和豆が困ってるじゃない。ちゃんと話をしてよ」

すると、雄也はまとめてトウモロコシの皮をゴミ箱に捨てると、

「話はこの間しただろうが。俺はここから動く気はない」