「きっと、これまでがんばってきた私に神様からのご褒美なんだわ。神様、ありがとう」

両手を組んで宙を見上げているけれど、それってキリスト教の祈りのポーズだし。

少し寂しい気もするけれど、この長い階段を上らなくてすむなら私としても反対する理由もないわけで……。

そんなことを考えていると、

「でも、雄ちゃんが首を縦に振らないのよね〜」

と、和豆が言ったものだから思考は中断された。

「なんで雄也が関係あるの?」

「だって、雄ちゃんの店がある土地も対象になっているのよ。あそこも、うちの土地なのよ」

さっきの地図のページに戻ると指先で雄也のお店を探す。手葉院のすぐ下にある場所……そこの小さな建物の四角形も赤く塗りつぶされている……。

「ウソでしょう? 雄也の持ち家じゃないの?」

顔を上げる私に和豆は、きょとんとしている。

「あら。知らなかったの? もともとはそうだったんだけどね、お店を作るために改装するときにうちが買い取ったのよ」

「じゃあ、毎月家賃を払っているんだ……」

てことは、朝食の配達を断る権利は雄也にはないってことか。

「詩織ちゃん、なんにも聞いてないのね。家賃はこれ、よ」

和豆は今まさに自分が食べている朝ごはんを指さしてニッコリ笑った。

「これ? 朝ごはんのこと?」

「そうよ。あたしからのリクエストが毎日ごはんを差し入れてもらうこと、だったの」

うふふ、と笑って和豆が言うから頭はこんがらがるいっぽう。

「お金じゃなくて?」

「あたしにとっては、お金以上の価値なのよ。だって大好きな雄ちゃんの手作りよ。それにふたりっきりでお話もできるし。……まあ、最近は雄ちゃんじゃなくてあなたが来てばっかりだけど」

不服そうな顔をギロッとにらんでやった。私だって好きで来てるんじゃないのに。

「ということで、このお寺と一緒にあなたたちのお店も移転することになるのよ。楽しみねぇ」

ぽわん、と想像の世界に行ってしまった和豆をよそに、なにも聞かされていなかったことに疑問が残ってしまう。

でも……。新しい場所で新しいお店かあ。

きっと今まで以上に忙しくてたくさんの人が出入りするんだろうな。観光客もたくさん来るだろうから、外国語も覚えないと。

なんだか急に楽しみになってきている私。