「竜太さん、ごめんなさい」
深く頭を下げてから、千鶴さんは厨房の外に歩いてくる。
「あ……」
思わず声を出したのは彼女が右の足を軽く引きずっていたから。
なんとか席のほうへ回ると、まだ呆然としている竜太さんの隣に腰をおろした。
まだ幻を見ているように、竜太さんはまばたきもせずにその顔を見ている。もちろん私もぽかんとしているだけ。だって、ずっと捜していたのになんでここにいるのだろう。
「ケガ、されているんですか?」
そう尋ねてすぐに思い当たる。
「ひょっとして……この間、ここで転んだときに?」
あの転倒はたしかにすごい音がしていた。
まさか、と思いながら尋ねると恥ずかしそうに、首を横に振った。
「違うんです。あの日、会社で腰の痛みにバランスを崩して階段から転げ落ちてしまったんです」
「骨折をしたのですか?」
ギプスはしていないようだけど、右足が包帯で何重にも巻かれているのが痛々しい。
「いえ。筋を痛めたようで……そのまま入院になっちゃったんです」
そこまで言ってから千鶴さんは竜太さんの顔を見た。
「ごめんなさい。会社にスマホを置いたまま運ばれてしまって、連絡が取れなかったんです」
思ってもいない展開に、まだ言葉を発せないでいる竜太さんに代わって、私が尋ねることに。
「でも、病院から竜太さんに電話で連絡するとか、会社に連絡するとかできたんじゃないですか?」
「それが……」
肩をすぼめて千鶴さんは身を小さくした。
「竜太さんのスマホの番号を覚えていなくってですね。勤めている会社もなんていう名前かよくわからなかったんです……。私ドジだから……。本当にごめんなさい」
「でも、竜太さんすごく心配していたんですよ。今日だって─」
言いかけた私に、イスを鳴らして竜太さんが突然立ち上がった。
その目に涙が浮かんでいる。
「悪かった」
そう口にした竜太さんの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「竜太さん?」
「僕が悪かった。千鶴のこと知っているつもりで僕はなんにも理解してなかった」
首を横に振った千鶴さんの目にも光るものが見えた。
「私こそ、恋人失格です。ちゃんと覚えておくべきでした。心配かけてごめんなさい」
「もう、大丈夫なのか?」
震える声で竜太さんが千鶴さんの髪をなでると、
深く頭を下げてから、千鶴さんは厨房の外に歩いてくる。
「あ……」
思わず声を出したのは彼女が右の足を軽く引きずっていたから。
なんとか席のほうへ回ると、まだ呆然としている竜太さんの隣に腰をおろした。
まだ幻を見ているように、竜太さんはまばたきもせずにその顔を見ている。もちろん私もぽかんとしているだけ。だって、ずっと捜していたのになんでここにいるのだろう。
「ケガ、されているんですか?」
そう尋ねてすぐに思い当たる。
「ひょっとして……この間、ここで転んだときに?」
あの転倒はたしかにすごい音がしていた。
まさか、と思いながら尋ねると恥ずかしそうに、首を横に振った。
「違うんです。あの日、会社で腰の痛みにバランスを崩して階段から転げ落ちてしまったんです」
「骨折をしたのですか?」
ギプスはしていないようだけど、右足が包帯で何重にも巻かれているのが痛々しい。
「いえ。筋を痛めたようで……そのまま入院になっちゃったんです」
そこまで言ってから千鶴さんは竜太さんの顔を見た。
「ごめんなさい。会社にスマホを置いたまま運ばれてしまって、連絡が取れなかったんです」
思ってもいない展開に、まだ言葉を発せないでいる竜太さんに代わって、私が尋ねることに。
「でも、病院から竜太さんに電話で連絡するとか、会社に連絡するとかできたんじゃないですか?」
「それが……」
肩をすぼめて千鶴さんは身を小さくした。
「竜太さんのスマホの番号を覚えていなくってですね。勤めている会社もなんていう名前かよくわからなかったんです……。私ドジだから……。本当にごめんなさい」
「でも、竜太さんすごく心配していたんですよ。今日だって─」
言いかけた私に、イスを鳴らして竜太さんが突然立ち上がった。
その目に涙が浮かんでいる。
「悪かった」
そう口にした竜太さんの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
「竜太さん?」
「僕が悪かった。千鶴のこと知っているつもりで僕はなんにも理解してなかった」
首を横に振った千鶴さんの目にも光るものが見えた。
「私こそ、恋人失格です。ちゃんと覚えておくべきでした。心配かけてごめんなさい」
「もう、大丈夫なのか?」
震える声で竜太さんが千鶴さんの髪をなでると、