観光客が道端で膝をついている私たちを不思議そうに見ながら通り過ぎてゆく間、竜太さんは、「はい……。ええ、そうです」と、力なく答えていたかと思うと、私にスマホを差し出してくる。

「え?」

受け取りながら竜太さんを見るけれど、彼は深いため息をついていて答えてくれない。

いったい誰?

思ってもいない展開に不安になりながらも、

「もしもし?」

汗で濡れているスマホを耳に当てると、すぐにその声が聞こえた。

『どこで油売ってるんだ』

「え? あ……雄也?」

『他に誰がいる。何時間買い物してるんだ』

声のトーンがいつもよりさらに低く、彼の機嫌の悪さを表している。てか、電話くらいもう少し愛想良くてもいいのに。

「今から帰るところ。もう近くまで来てるから」

『ふん。どうせまた余計なことしてたんだろう』

ギクッとしたけれど、

「とにかく戻りますね」

ごまかすように丁寧に答えた。

『竜太も連れてこい。あの声じゃ、どうせクタクタになってんだろ』

見ると竜太さんはもう立ち上がっていた。

「うん、わかった。……ごめんなさい」

同じように立ってから、スマホを竜太さんに返した。

「ごめんよ。僕のせいで怒られて」

「いいんです。いつものことですから」

弱っている人に謝らせてしまい、私こそ申し訳ない気持ちで取り繕うと、

「竜太さんもお店に連れてこい、って言ってるんですけど……」

恐る恐る言ってみた。彼にとってはお茶している時間なんてないだろうけれど、少し休憩しないと本当に倒れてしまいそうだ。

異論はないようで、竜太さんはうなずいた。

「さっき同じこと言われたよ。『詩織のバカを連れてこい』って」

あの人なら言いそうなことだ。

細い道に進む私に、竜太さんはゆっくりとした足取りでついてきながらも、まだ辺りをキョロキョロ見ている。

こんなところに千鶴さんがいるわけもないのに、どうしても見つけたいんだろう。

やっぱり、私にかけてあげられる言葉は見つかりそうもなかった。



戸を開けると、厨房で仁王立ちしている雄也が目に入った。

怒っているときのファイティングポーズだ。

「遅くなりました」