「あら、他人事だから客観的に意見を述べられる、ってものよ。主観は感情というフィルターがかかるからピントを合わせづらいの」

あっさりかわされてしまった。

「じゃあ、待っているしかできないの? 私のせいでこうなったかもしれないのに?」

「今はあなたのせい。だけど、いつかあなたのおかげ、に変わるわよ」

ほほほ、と笑う和豆はまるで人生を悟っているかのよう。

「そういうものなの? 三年もつき合っているのに。さよなら、も言わずに消えちゃうなんて悲しすぎるよ」

ふう、と息を吐いてからお茶をグイと飲んだ。

私には想像もつかない話だけど、そんなふうに相手が消えてしまったら立ち直れないかもしれない。

「そうね。恋は、どこか悲しいのよね」

それには反対する気がないらしく、和豆もため息で同意を示した。

意外な反応に、その顔を見た。

「あら、私だって大恋愛くらいしてるわよ。まぁ、ほとんどがフラれ役だけどね」

それでも恋をしたことがあるなんてうらやましい。恋なんて、遠い話だと思っていたけれどいつか私も出逢えるのかな?

そんなことを考えている自分が、すっかり和豆の仮定の話に染まっていることに気づく。あくまで自ら失踪した場合の話だし。

一度会っただけだけれど、そんなことする人にはどうしても思えないから。

「もう少し捜してみる。他の理由かもしれないから」

立ち上がった私に、和豆はあきれた顔をした。

「ほんと頑固ねぇ。雄ちゃんそっくり」

最後の言葉に私の顔色が赤く変わったのだろう、和豆は両手を上げて降参のポーズをした。



買い物ついでに千鶴さんの姿を捜したけれど、こんな近くにいるわけがない。もうすぐ三時になってしまうので、結局見つけられないまま店に戻ることにした。

買い物袋をぶら下げて、猿沢池を抜けると奈良町通りに差しかかる。

こんな暑い日でも観光客はどこからともなく沸いてくるよう。陽気な西洋人がにこやかに挨拶して通り過ぎてゆく。

その向こう、足を引きずるようにしてこっちに向かってくる人影が見えた。

「え、ウソでしょ」

お互いの距離が近づくにつれて、それが竜太さんであることがわかった。

「竜太さん!」

すぐそばまで来て声をかけた私に、一瞬ハッと顔を上げた竜太さんは、私であることがわかると、

「きみか」

と、つぶやくように言葉を落とした。