「どうしたんだろうね」

厨房に戻って雄也に問うが、

「大人なんだから大丈夫だろ。そのうち戻ってくるさ」

冷たさ全開で言い捨ててから、雄也は奥に引っこんでしまった。

この状況はマズイ……。食べる量以上にため息をついている竜太さんにかける言葉もないまま時間だけが過ぎてゆく。

半分も食べずに財布からお金を取り出した竜太さんが、

「そうだ……」

と、つぶやいて私を見た。

「この間、あいつなにか言ってた?」

ビクン、と体が跳ねたのを自分でもしっかりと自覚しちゃうほどの動揺。

当然、しっかりと竜太さんにも伝わったようで、

「なんて言っていた?」

と、その目が光ったように見える。

ああ、どうしよう……。モゴモゴと迷っているうちに、そんなことしている場合じゃないことに気づく。

きっと彼は本当に千鶴さんを心配しているのだろうから。躊躇しながらも答えることにした。

「あの日、千鶴さんに『結婚とかのご予定はあるんですか?』と尋ねました」

「うん」

「千鶴さんは『竜太さんは自由が好きな人だから』と、答えておられました」

事実を伝えると、竜太さんは考えこむような顔をした。

「他には?」

そのままの姿勢で尋ねられた私は、気づけば息を止めていた。答えない私に竜太さんのまなざしが向く。

「あの……これは私の主観です。気のせいかもしれないのですが……」

「うん」

「帰るときに千鶴さんは一瞬泣いていたように思えました」

『幸せですか?』と、尋ねたことは伏せて伝えるが、竜太さんは絶句して固まってしまう。

しばらくそうしてからおもむろに立ち上がると、

「ごちそうさま」

聞こえないほどの声で言って出ていこうとする。

「私も捜します」

無責任な発言だとは思ったけれど、返事がないまま彼は行ってしまう。

誰もいなくなった店には、竜太さんの冷めた朝ごはんが残されていた。

一部始終を見ていたナムと目が合うが、すぐに目を閉じてしまった。

千鶴さんが行方不明だなんて、まだ驚いている自分がいる。あの日の千鶴さんの最後の表情がずっと心に残っている。

「どうしちゃったんだろう」

つぶやく声に、答えてくれる人はいなかった。



「失踪、じゃないかしら」

和豆はそう言うと、いつもの茶粥を口に入れて満足そうに目じりを下げた。

「へ?」