無理をしている、と思ったのは勘違いじゃないと思った。
千鶴さんの反応を、竜太さんに報告するかを迷っているうちに数日が経った。
その間にも夏は本格的にこの町に訪れ、ニュースでも熱中症や水不足の話題が多くなってきている。この間まで梅雨の豪雨ばかりを嘆いていたのに、人間はぜいたくなものだ。
週明けの月曜日のピークが終わったころ、ついに竜太さんが店に現れた。
一週間ぶり、というのは記憶では初めてのこと。
「おはようござ─」
言いかけた言葉を止めたのは、竜太さんの顔つきがいつもと違ったからだった。眉間にしわを寄せて、真剣な顔で挨拶もせずにイスにドカッと着地した。
違和感に雄也を見やるが、いつものように今朝のメニューである鶏団子を木べらで作り出している。
沈黙が店内に流れた。
「いらっしゃいませ」
お茶を入れて目の前に置くと、ようやく竜太さんはハッとして顔を上げた。
「ああ……ありがとう」
いつもの元気はなく、なにかあったのだとすぐにわかる。
が、雄也の手前、そのまま厨房に戻った。
鶏団子を煮てそこに春雨を加えたころ、ようやく竜太さんが口を開いた。
「いなくなったんだ」
副菜の準備をしながら、その顔を見ると悲壮感にあふれている。
「いなくなった……? それって千鶴さんが、ですか?」
「ああ。この間ここに来た日以来、連絡が取れないんだよ。電話しても留守番電話につながっちゃうんだ」
ため息をついた竜太さんは肩を落としている。
「仕事先には……?」
できあがった料理を運んでから尋ねると、小さく竜太さんは首を横に振った。
「会社名は知っているけど、どこの部署かわからなくてさ……。電話したけど、個人情報保護とかで答えてくれなかった」
「そうですか……」
「家も行ってみたけど、オートロックのマンションでさ。中に入れなかった。だいたい、実家も知らないし」
目の下のクマが疲れを表している。
千鶴さん、どうしたんだろう……。
「情けないよね。長くつき合ってるくせに、なんにも知らないんだもの」
箸を手にした竜太さんだったけれど、やはり食欲はないらしく少しずつしか口に運んでいない。
「警察とかには行かれたんですか?」
私の問いに竜太さんはうなずく。
「事件とかじゃないみたい。こちらも事務的対応で『なにかわかったら連絡します』だった」