「ないですよぉ。竜太さんは、自由が好きな人ですもん」

あまりにもあっさり否定するので拍子抜けしながらも、

「そうですか」

と、うなずいたけれど……。

「竜太さんがその気になれば、結婚するってことですか?」

加えて質問してみる。

「うーん」

首をかしげた千鶴さんは、しばらく考えていたがやがて肩をすくめた。

「わからないですね。私、先のこと考えるの苦手なんですよ。それに結婚ってひとりではできないじゃないですか。竜太さんには、その気はありませんしね」

と、あっけらかんと笑った。

彼女はひまわりのように明るくてサバサバしている印象。

だけど、なんだか笑顔が無理しているように見えてしまうのは、先入観のせいだろうか。



仕事に行く、という千鶴さんを店先まで送るとぐんぐん気温が上がっているのを肌で感じた。この間まで梅雨だと思っていたのに、夏がいつの間にかやって来ていたなんて本当に毎日が過ぎてゆくのが早い。

「今日はありがとうございました。またお越しくださいね」

「はい。ぜひ寄らせていただきます」

深々と頭を下げてから、また千鶴さんは腰を押さえて痛そうな顔をした。

「大丈夫ですか?」

「うーん、けっこう痛いかもです」

「病院に行かれたほうがいいかもしれません」

本当に痛そうにうなずいてから、

「ほんと……もうすぐ三十三になるのに情けないですよね」

自嘲気味に笑う。首を横に振って否定したけれど、千鶴さんは浮かない表情。

「これじゃあ、いつか嫌われちゃいそうですね。私だったら、こんな頼りない大人と結婚したいなんて思えないですもの」

ふう、とため息を落として外に出た千鶴さんが声のトーンを落とした。

明るい日差しなのに、急に翳ったような感覚。

彼は、彼女がこんなふうに思っていることを知っているのだろうか……。もっと気持ちを伝え合えばいいのに。

恋人ってなんなのだろう?

ふとした疑問がわいてくる。

奈良町通りに向かって歩き出す千鶴さんに、

「千鶴さん」

私の口は勝手に呼び止めていた。

「はい」

にっこりと笑って振りかえる彼女に、一瞬迷ってから質問する。

「千鶴さんは今、幸せですか?」

私の質問に、千鶴さんの顔が一瞬ゆがんだように見えた。

けれどそれは数秒のことで、すぐに笑顔に戻ると、彼女はうなずく。

「はい。幸せです」