やはり拒絶する雄也に、園子ちゃんが「オホン」とわざとらしい咳ばらいをした。

「うるさくないやろ。自分のことだけ黙っているなんて男らしくないわ」

援護射撃が今日は強力で助かる!

「雄也はずっとここで穂香さんを待っているんでしょう? この間、『俺のせい』って言ってたけれど、あれってどういう意味?」

「そんな話はしてないだろ」

横を向いてしまう雄也に、

「なーん」

タイミングよく、いつもの席に座っているナムが鳴き声をあげた。

「これは言うしかないなぁ。ナムも言え、って鳴いてるやん」

優雅にお茶を飲みながら言う園子ちゃんに、雄也は腰に手を当てて、

「んだよ」

抵抗するのをあきらめたように鼻から息を吐いた。

「穂香が失踪した、とかそういう噂があるみたいだけど」

視線を園子ちゃんにわざとらしく向けた。あ、そこが噂の元凶なのか。

「まぁ、そんなとこだ」

その目が悲しい色をしているように見えたのは、私の気のせい?

「失踪? それって……?」

そう尋ねると、雄也はゆっくりと息を吐いた。

「よくわからん。突然『結婚したい』とか言い出したと思ったら、ある日、あいつは彼氏と一緒に消えてしまったんだよ」

その説明に声をあげたのは園子ちゃんだった。

「それ、ほんまに? 穂香ちゃん、彼氏いてたん?」

食いつくように立った園子ちゃんに手のひらでヒラヒラと『座れ』と言ってから、雄也はしばらく黙った。

やがて、窓の外に顔を向けた横顔に、いつもの強気な表情はなかった。

「俺が反対したからだ。結婚する、と言って聞かないあいつに、『まだ早い』と聞く耳を持たなかった。だから出ていくしかなくなった。俺が……穂香を追いこんだんだよ」

なにも言えなかった。

だけど、雄也が自身を責めているのは伝わった。穂香さんが出ていったことを案じる一方で、自分のした罪を背負っているんだ……。

「そんなことがあったんやな」

園子ちゃんもさっきまでのからかうような様子もなくつぶやく。

「詩織」

突然名前を呼ばれて、

「はい!」

姿勢を正して答えた。

「人には他人の領域に関わっちゃいけない部分があるんだよ。良かれ、と思ってしたことが相手を傷つけることもあるんだ」

「……うん」

「余計なことはもう、するなよ」

いつものキツい言いかたでないぶん、もっと胸に響く言葉だった。