「いいやないの。会えばその竜太さんって彼が満足するわけやろ。それにひとりお客さんが増えるんだし、いいふうに考えんと」

「そうだよ」

さすが園子ちゃん、と私は激しく同意を示した。

「ただお客さんとしてくるだけなんだからね」

「ねー」

こういう味方がいてくれると、本当に助かる。ふたりでにっこり笑顔を交わしていると、これみよがしなため息をつく雄也。

「でも、今どき結婚って時代でもないわな」

ほう、と息をこぼして園子ちゃんは言った。

「時代は関係ないのではないですか?」

「あるにきまってるやん。今や四人にひとりは生涯独身らしいで。見てみいや、この奈良の田舎町ですらなんでも揃っているやん。今はひとりで生きてゆくのになんの支障もない便利な時代ってこと」

たしかに、と思うけれど、結婚は私にとっては大きな夢のひとつ。

「子供だってほしいし、それに愛する人のそばにいたいって思うものじゃないですか」

「はっ」

鼻で笑ったのは雄也だった。

「なにが『愛する人』だ。愛情なんて所詮、錯覚なんだよ。自分でそう思いこんでいるだけだ」

「そんなことないもん」

「そんなことあるさ。愛なんてすぐに冷め、あとは長い冷戦のような生活が続くんだよ」

ここぞとばかりに攻撃してくる雄也は、そういう結婚観なのだろう。

「冷めない愛だってあるもん。子供と一緒に家族で仲良く暮らす夫婦もいるはず」

「子供だって大きくなれば親を見向きもせず、やがて飛び立っていくんだぞ」

かみ合わない平行線の意見に、

「あんたら、いい加減にしいや」

両手を上げて園子ちゃんが制したので口をつぐんだ。

「結婚観なんて人それぞれや。どっちが正しい、なんてないんや。まったくほんまに子供やな。あんたらにはたしかに結婚は無理や」

ズバッと言ってのけた園子ちゃんに、私たちはじとーっとお互いをにらみ合った。

だって雄也が余計なこと言うから……。

「それに雄ちゃん」

園子ちゃんがふてぶてしい顔を見やった。

「穂香ちゃんだって家族やろ。大事に思ってるくせに、そんなこと言ったらあかん」

「穂香は別だ」

すぐに修正する雄也を見た。

「どう別なの?」

あ、また余計なこと聞いちゃっている。けど、久しぶりに出たその名前、このチャンスを逃したくなかった。

「うるさい」