だけどなんだかお腹のあたりがしっくりこない。まるで話を聞くだけで役に立ってない自分が情けなくすら思えてしまう。

五百円玉を財布から取り出した竜太さんは、

「ごちそうさま」

何事もなかったかのように店の入口に向かった。

「ありがとうございました」

外までお見送りをしようと歩き出す私に、

「詩織」

雄也が呼び止めた。

「わかっているとは思うが、これ以上─」

「わかってます」

にっこり笑ってから外に出た。盆地である奈良の夏は相当暑いらしく、日に日に早い時間からでも熱気が地面付近にたまっているように感じられる。

「じゃあ、また」

いつものように明るい笑顔になった竜太さんにうなずいてから、

「今日が、林さんにとって─」

いつもの願いを口にした瞬間、ふとある考えが頭に浮かんだ。彼女の気持ちを聞けないのであれば、こっそり私が聞いてみる、っていうのはどうだろう?

できることはないかもしれないけれど、竜太さんが悩みを話してくれたのは助けを求めているからだし、ここはそういう人の悩みを置いていってもらう場所。

自分を納得させてから、私は言った。

「もしよかったら、次は彼女さんと一緒にいらしてください」



「で?」

さっきから仏頂面の雄也はその言葉しか発していない。

昼を過ぎて、今朝の会話を何気なく伝えたところ、案の定不機嫌になってしまったというわけ。

「だから、明日彼女をここに連れてくる、って」

上目遣いに言うけれど、氷のようなまなざしが帰ってくるだけ。

「で?」

「私に『見極めてほしい』って言うの……」

私の提案は一瞬で竜太さんによって承認されただけでなく、すぐに実行に移されることとなった。明日、千鶴さんを連れてくること、そこで私が彼女の気持ちを見極めることが指令として出されたのだ。

「お前にそんなことできるわけないだろうが」

「でも……」

最後のほうは小声になる私に、

「まぁまぁ」

園子ちゃんが助けに入ってくれる。

珍しくコンサバ系の黒っぽいロングスカートを身に着けている園子ちゃんだけど、派手なメイクで視線はそっちに集中してしまう。

「こいつを甘やかさないでくれ。他人のことばっかりかまってるから仕事にならん」

まだジロッとにらんでくる雄也。