「へぇ、長いですね。じゃあ、結婚とか予定されているんですか?」

そう言うと、竜太さんはヘンな顔をしたかと思うと、

「詩織ちゃんは結婚、って意味があると思う?」

逆に質問をかえしてきた。

結婚……。まだまだ遠い未来のようにも思えるけれど。

「好きな人だったら結婚はしたいですよね。やっぱりあこがれちゃいます」

素直な感想を言葉にすると、ますます竜太さんの表情は曇ってしまった。

「僕はそうは思わないんだよ」

「どうしてですか?」

「だって、今のままでいいと思う。結婚にこだわらなくてもお互い自由に生活できているんだし」

はっきりと言い切った竜太さんは心からそう思っているらしく、本当に意味がわからないような顔をしている。

「でも、やっぱり結婚って素敵じゃないですか」

「今のひとりの自由な生活も素敵だよ」

子供が文句を言っているみたい。

「本当に自由を愛しているのですね」

彼らしい、と思った。

「でも、周りは結婚をすすめてくるんだよね。『責任を取れ』とか『いい加減大人になれ』とか。だから悩んでいるんだ」

お茶を飲んだ竜太さんがふてくされた顔をした。

「彼女さんはどうなんですか? 結婚についてせかしてくるとか?」

「千鶴はなにも言ってこない。結婚願望がないのか、そのへんもナイーブな話題だから触れてない。ただ……」

「ただ?」

千鶴、という名前を頭に入れながら聞きかえすと、竜太さんは私を見た。

「それなりにつき合っているわけだし、きっと結婚を意識する歳だとも思うんだ。だから気になって……」

「千鶴さんはおいくつなんですか?」

わざとらしい雄也のため息が水の音と一緒に聞こえてきたけれど、聞こえないふりを選ぶ。

「えっと、僕より三つ上だから……三十三歳かな」

「年上なんですね」

「まあね。ひょっとしたら結婚したいのかも、って思うと悩んでしまうんだよ」

「そうですか……」

私にできることはやはりない、とみた。当人同士の問題だし、彼女の気持ちまでは想像がつかない。彼女の気持ちを聞いてみればいいのに、と簡単に言えるほど竜太さんと長いつき合いでもないし……。

どちらにしても竜太さんに結婚の意思がないのであれば、この問題を突き詰めてしまうと最悪な方向に進むように思える。