「でも、薬だと思って少し食べているんだ。昼とか夜は好きなものしか食べないから、せめて朝くらいはね」

雄也がそんな竜太さんに嘆くように言った。

「お前みたいな若いやつこそ、しっかりと考えられたバランスのいい食事をとるべきなのにな」

「はいはい」

言われ慣れているのか、これみよがしに人参を口に放りこんだその顔が苦さにゆがんだ。

「魚だってそうだよ。なんでみんなあれが好きなわけ? そもそも奈良には海がないわけだから魚とは無縁なんだよ」

真アジをじーっと見て言うので笑ってしまう。

「んなわけないだろ。今は配送ルートだって確立されてるし、いつの時代のことを言ってんだ」

あきれた声を出す雄也に、

「でもなぁ」

と、唇をとがらせている。日替わりメニューしかないので魚がメインの日はなかなか箸が進まない。これじゃあ結婚したら奥さんは相当大変な思いをするだろうな。

「今も竜太さんはおひとり暮らしですか?」

そう尋ねてしまってすぐに雄也の鋭い視線に気づいた。あ、また余計なことを聞いちゃった。

竜太さんは気にしてないようで、

「まあね。もうずっとひとりだよ」

と、箸を置いた。

そうしてから、彼にしては珍しくため息をついた。

雄也を見ると静かに首を横に振っているので、うなずいた。

わかってる。

この数カ月で私だって成長したんだから。

だけど……目の前で悩んでる様子を見て放っておくことができるか、と尋ねられると答えは『NO』なわけで。

「なにかあったんですか?」

三秒迷って、竜太さんに聞いている私。

雄也のほうは見なくてもわかる。絶対に鬼の形相に変わっているだろうから。大丈夫、ちょっと聞くだけだから。

「まあね。ちょっと……困っててさ」

歯切れの悪い言いかたをしているのは初めて見た。つまり、『ちょっと』どころの悩みではないのかも。

お茶を新しく入れなおすと、竜太さんは「ありがとう」と湯呑を両手で包むようにして持った。

「実はさ、彼女がいてね……」

「そうなんですか」

恋愛関係の話題か、とホッとしている自分がいた。経験値の少ない私にできることはなさそうだし、こんな小娘にアドバイスも求めないだろうから。

雄也も同じように感じたらしく、洗い物に戻った。

「いつの間にか、もう三年つき合ってるんだよね」