と、新たにフレンチ……卵浸しパンを作ってくれたので味見をさせてもらうことにした。
竜太さんの隣に腰かけると、ふたりの視線を感じながらひと口大に切られたそれを箸でつかんだ。
普通のフレンチトーストにしては白い色をしている。そして、この香り。
「気づいた?」
片目を細めて尋ねてくる竜太さんにうなずいてみせる。湯気と一緒に漂ってくるこの香りは味噌の香りだ。
「あ、これはネギ?」
間に挟んである細長いものを見て答えると、
「正解」
うなずいてから竜太さんはニカッと歯を見せた。
「僕、野菜は嫌いなんだけれどね、これは食べられるんだよね」
「野菜が……」
褒められたことではないと思うんだけれど自慢げに言っているのが不思議。
きょとんとする私を置いて、竜太さんはおいしそうに口に運んでいるので、私もそれに倣った。
「うわ」
ひと口入れただけでフレンチトーストではないことがわかる。パンに染みているこの液体は……。
「豆乳?」
「ああ。卵は少なめに混ぜている」
なるほど、だからこれだけジューシーなんだ。熱い豆乳がパンから染み出て肉汁のように口の中に広がっている。
中に入っている味噌やネギが一体となってひとつの料理になっている。
「すごくおいしい」
本当においしすぎて、月並みな感想しか言えない私の語彙力が恥ずかしい。
「あたりまえだ」
雄也はいつもの口癖を言いながらも、満足げな表情を見せている。
「食べるとわかるでしょ。じゃあ、味見は終わりってことで残りのそれちょうだい」
竜太さんが当然、といった感じで目の前の皿に手を伸ばすのを、
「ちょうどいい量は出しているはずだ」
雄也が先に取り上げてしまった。
「ひどいよ。見せるだけ見せておいてさぁ」
半泣きの声をあげるくらい、竜太さんはこのメニューが好きなようだった。
そんな彼の職場は、ならまちから少し歩いたところにあるらしく、出勤前に週に数回来てくれていた。三十歳にしては若く見えるのは、いわゆるサラリーマンが着ているスーツ姿ではないから。普段はシャツにジーパンというラフな格好が多く、たまにジャケットを身に着けている程度。
来店の時間もピークが終わった遅い時間が多かった。
竜太さんの隣に腰かけると、ふたりの視線を感じながらひと口大に切られたそれを箸でつかんだ。
普通のフレンチトーストにしては白い色をしている。そして、この香り。
「気づいた?」
片目を細めて尋ねてくる竜太さんにうなずいてみせる。湯気と一緒に漂ってくるこの香りは味噌の香りだ。
「あ、これはネギ?」
間に挟んである細長いものを見て答えると、
「正解」
うなずいてから竜太さんはニカッと歯を見せた。
「僕、野菜は嫌いなんだけれどね、これは食べられるんだよね」
「野菜が……」
褒められたことではないと思うんだけれど自慢げに言っているのが不思議。
きょとんとする私を置いて、竜太さんはおいしそうに口に運んでいるので、私もそれに倣った。
「うわ」
ひと口入れただけでフレンチトーストではないことがわかる。パンに染みているこの液体は……。
「豆乳?」
「ああ。卵は少なめに混ぜている」
なるほど、だからこれだけジューシーなんだ。熱い豆乳がパンから染み出て肉汁のように口の中に広がっている。
中に入っている味噌やネギが一体となってひとつの料理になっている。
「すごくおいしい」
本当においしすぎて、月並みな感想しか言えない私の語彙力が恥ずかしい。
「あたりまえだ」
雄也はいつもの口癖を言いながらも、満足げな表情を見せている。
「食べるとわかるでしょ。じゃあ、味見は終わりってことで残りのそれちょうだい」
竜太さんが当然、といった感じで目の前の皿に手を伸ばすのを、
「ちょうどいい量は出しているはずだ」
雄也が先に取り上げてしまった。
「ひどいよ。見せるだけ見せておいてさぁ」
半泣きの声をあげるくらい、竜太さんはこのメニューが好きなようだった。
そんな彼の職場は、ならまちから少し歩いたところにあるらしく、出勤前に週に数回来てくれていた。三十歳にしては若く見えるのは、いわゆるサラリーマンが着ているスーツ姿ではないから。普段はシャツにジーパンというラフな格好が多く、たまにジャケットを身に着けている程度。
来店の時間もピークが終わった遅い時間が多かった。