「初めて一緒に過ごす夜だぞ? 水はないだろ?」

「で、でも、零士先生、さっき飲み過ぎだって……」


フカフカのソファーに座り、オドオドしながら視線を彷徨わせていると、ワインボトルとグラスをふたつ持った零士先生が隣に座った。


「あの時は、酔ったままのお前を独り暮らしの部屋に帰すのが心配だったんだ。でも、ここでならどんなに酔っぱらってもかまわない。気にせず飲め」


零士先生はそう言ってワイングラスを差し出してきたが、私がグラスを受け取ってもなかなか手を放そうとしない。なので、少し力を入れてグラスを引っ張ってみたら……


「わわっ!」


グラスだけでなく零士先生の体ごとこっちに倒れてきて、そのままソファーの背もたれに押し付けられた。


何が起こったのかと目をパチクリさせ、覆い被さってきた零士先生を直視すると、ローテーブルの上に静かにグラスを置いた零士先生が吐息混じりに言う。


「……前言撤回だ」

「えっ?」

「気が変わった。ワインより、希穂を味わいたい」


目の前の色素の薄い瞳が揺れている。それが堪らなく色っぽくて、こんな状態なのについ見惚れてしまう。


零士先生、その物欲しげな目は反則だよ。


自分でもよく分からない艶めかしい感情が芽生え、高揚した気持ちは間違いなく零士先生を求めている。だから、近付いてきた彼に向かって自ら顔を上げ、ソッと瞼を閉じた。――そして、唇に触れた優しい温もり。


あぁ……私、零士先生とキスしてるんだ……