私の手を強く握った零士先生が艶っぽい目で微笑むと玄関のオートロックを解除し、マンションの中に入って行く。


ここまで来たらもう腹をくくるしかない。


覚悟を決めエントランスに足を踏み入れたのだけど、高級感溢れる空間に圧倒され思わず立ち止まってしまった。


吹き抜けになっていてるエントランスの天井には巨大なシャンデリアが柔らかな光を放っていて、それを映す大理石の床は鏡のようにピカピカだ。中でも一番驚いたのが、壁一面に埋め込まれている大きな水槽。淡いブルーの光でライトアップされた水の中では熱帯魚が優雅にヒレをなびかせ泳いでいる。


何ここ? 水族館?


幻想的な水槽の前を横切りエレベーターに乗り込むと、到着したのは最上階のペントハウス。


「さあ、入って」


零士先生に促され緊張気味に部屋に入ると長い廊下の壁には大小様々な絵画か飾られ、その先にグリーンを基調にしたステンドグラスの扉が見えた。それはリビングに続く扉で、開けるとお香のような落ち着いたいい香りがする。


シックなモノトーンで統一された広いリビングを見渡せば、余分な物は一切なく、実にシンブルだ。だけど、庶民の私でも分かるくらい目に付く全ての物が高価ぽくて触るのが憚られた。


「なんか飲むか?」

「あ、じゃあ、ウーロン茶かお水を……」


別に遠慮したワケじゃない。この状況で、またアルコールを飲んで悪酔いなんかしてまったら取り返しがつかない。そう思ったから。でも零士先生は色気がないってため息を付く。