しかし、彼に気持ちを伝えると決めたのはいいが、シラフでは緊張してとても無理。だから気合いを入れるつもりでカクテルをガブ飲みしたのだけど、普段お酒なんて飲まないから加減が分からず見事に酔っぱらってしまった。


「バカ! 飲み過ぎだ!」


バーを出て夜の街を千鳥足でヨタヨタ歩いていると零士先生に頭をパコンと叩かれ、フワフワしている頭が余計フワフワする。


ようやく私たちの前にタクシーが止まり、零士先生に抱えられながらなんとか乗り込んだものの、今度は強烈な睡魔に襲われた。


寝ちゃいけないと必死で瞼をこじ開けようとしたが、抵抗虚しく夢の世界へと引き込まれていく……が、その時、零士先生が私の体を引き寄せ、小さな声で「大丈夫か?」と囁いた。


あ……零士先生の体……温かい。


優しい温もりと爽やかな香りに包まれてこの上ない幸せを感じる。だから素直に彼の胸に顔を埋め、ずっとこのまま抱かれていたい。なんて思ってしまう。


「零士……せんせぇ……」


堪らず彼の腰に手をまわすと低く心地いい声で「……希穂」と呼ばれたものだから、一気に目が覚め、気持ちが高揚していくのがハッキリ分かった。


もう言わずにはいられない……


「――す……き。零士先生が……好き」


あぁ……言ってしまった。十年間、言えなかった気持ちをやっと伝えられた……そう思ったのだけど、頭上から降ってきた言葉は――「知ってるよ」だった。

「へっ?」