『――だって……だって、君……』

引きつり笑いを繰り返し、ようやく聞こえた言葉は――。

『気絶しているのに鳴っていたんだ、お腹がグーグーってずっと』

彼の言葉が木霊のようにリフレインした。

何たる恥。一生の不覚。もう二度とこの店には来れない。そう思いながらタオルケットで顔を隠してお腹の虫を恨んでいると、『ハァーッ』と店長が息を吐くのが聞こえた。そして、『君って最高!』といきなり砕けた言い方で褒められた。

『ごめんね。笑ったりして。ちょっと待ってて』

そう言って、店長は部屋を出て行ったが、二十分ほど経った頃、トレーを持ち戻ってきた。

『今日のモーニングプレートです。飲み物は、君、好きだったよね? アイスオーレ』

トレーの上には二種類のホットサンドとグリーンサラダの小皿、そして、ヨーグルトが乗ったワンプレートのお皿と、汗をかいたグラスが乗っていた。

ゴクリと喉を鳴らして『はい、好きです。大好きです。頂きます!』と恥も外聞もなく頂いてしまった。

そして、その後の彼の尋問の実に見事だったこと。

美食マジックとでも言おうか、気付いたら、どうしてこんな極限状態になったかは勿論、作家であることも自らバラしていた。

今思うと、本当に私らしくもない。警戒心も持たず、すんなり彼に気を許してしまうなんて……。