『お客様、大丈夫ですか?』

滅多に厨房から出てこないイケメン店長のアップが目前にあった。
驚くより先に思ったのは、何事が起こったのだろう、だった。

『覚えていますか? 店に入った途端、倒れたのを』

少し考え、靄のかかった風景を思い出す。

『あっ、はい、あっ、すみませんでした。お世話をお掛けしました』

後で聞いたのだが、そこは事務室だった。
慌ててソファーから起き上がろうと体を動かした途端、店長がそれを静止した。

『もう少し横になっていた方がいいと思います。顔色がまだ悪いですよ』

彼の声には有無を言わさぬ強さがあった。
少し萎縮しながらも彼の言葉に甘え、そのまま横にならせてもらった。

『本当にすみません』

タオルケットの陰から情けない声で謝ると、シニカルと言われる店長が、ブッと吹き出し、そのままお腹を抱え笑い出した。

あまりの奇行に、狐が取り憑いてしまったのかと本気で思った。
だから、つい、言ってしまった。

『以前、陰陽師の子孫と言われる方の取材をしたことがあります。ご紹介します。ぜひ早急に行って下さい』と。