「岬さんて、二十三歳だったよね。若年寄って言われたことない?」

突然何だ! だが、認めたくないけど……ある。

『岬って、見た目と中身がギャップあり過ぎ! 本当、若年寄だよな』

海の言葉が蘇る。

「湖陽さん、真面目に私を怒らせたいんですか?」
「ううん、会話をしたいだけ。店でしか話せないから」

湖陽さんが窓の方を向いたまま、目尻を下げキュッと口角を上げた。

私以外は誰も見ていないであろう極上の笑み。それが目の前にある。極上の御利益がありそうで、思わず合掌しそうになる。

「会話はいいですが、そろそろディナーの時間では? 私もそろそろお暇します」

危ない、もう少しで変なスイッチが入りそうになった。
私は壁に掛かるクラシカルな電波時計を指差しながら、「五時ですよ」と誤魔化し笑いをした。

「夕飯は食べていかないの?」
「今日はパスします。仕事に追いつかれそうなので」
「切羽詰まっているんだ」

この地で私が作家だと知っているのは彼だけだ。夕姫さんも知らない。だけど、夕姫さんが我が著書のファンだということは知っている。

だから、機会を見てサイン本を贈ろうと思っている。