「はあ……」


ロータリーを渡って2年の階まで上がると、開きっ放しの教室の前方ドアの方から中に入った。


「どこ行ってたの?」

「ちょっと呼び出しくらってたの」


結局トイレには行けず仕舞いだし、呼びされた挙句の果てには出会ったばかりの男にキスされそうになって……

今日は厄日なのか……?


「呼び出しって誰に?」

「A組の知らない子。自分の名前名乗らなかったから誰か分からないんだけど……篠宮環の取り巻きの一人で、多分リーダー格」

「鮫島杏奈(サメジマ アンナ)か……変なのに目つけられたね」


里乃はめんどくさそうな顔で苦笑する。


「篠宮くんのことを中学の頃から好きで、この学校に来たのもわざわざ追いかけて来たって聞いたよ」

「へえ……そうなんだ」

「しかもジュエリーショップの社長令嬢で、篠宮くんちの花屋の常連客でもあるみたい」


お嬢様……

何て気性の荒いお嬢様なんだろうか。


「お嬢様の気紛れは本当にやっかいだから、あんたも気をつけなさいよ?」

「うん、分かった……あ、そうだ。ついでにもう一つ聞きたいことがあるんだけど、F組に転校してきた柳隆臣って知ってる?」

「えっ」


彼の名前を口にした途端、里乃の顔色が変わる。