「用がないなら行くけど」


黙っていると、彼は少しだけ不機嫌そうな顔を見せて立ち去ろうとした。


「――ッ、用ならあるよ!もう一度、勉強を教えてほしい」


ワイシャツの裾を引っ張りながらまた呼び止める。


「勉強なら見てくれる奴がいるじゃん」

「居ないっ……アンタしかいない」

「……手、離してくんない?」

「あ、ごめっ……」


手を離した私に、篠宮くんは小さく溜息を吐いた。


「俺、言わなかったっけ?高城さんの勉強を見るのが邪魔になったって」


本当は違うくせに――…

でも“そんなのウソだ”って言ったところで、篠宮くんは絶対に首を縦に振らないだろう。


「じゃあ、条件付きでならいいでしょう?」

「条件付き?」

「タダでなんて言わない。アンタの大事な勉強の時間を割いてもらうんだもん。だから、篠宮くんが私にしてほしいこととか何でもいいからあったら言って」


この言葉に、さすがの彼も驚いた様子だった。