「あり得ない、あり得ないっ!」

「何があり得ないのよ?」


文句を口にしながら教室に戻ってきた私に、里乃が訊ねる。


「ていうかアンタ、今の今まで何処に行ってたのよ?ご飯食べ終わった途端、急に走ってったから何事かと思ったんだけど」

「噂のことで篠宮環のところに行ってたんだよ」

「……それで?何があり得ないのよ」

「~~っ、信じられないんだよ?!アイツんとこに行ったらキ――…」


“キスされた”と言おうとしたが、私はハッとして口を噤(つぐ)んだ。


「キ?」

「……いや、何でもない」

「何でもないってあんな大きい声で叫んでたくせに?」


“何故嘘ついたのか問い詰めようとしたら、本当にキスされた”なんて言えるわけがない。


「実際のところ、噂は本当なわけ?篠宮くんとキスしたっていうのは」


さっきまでは嘘だったけど、今は事実になってしまったわけで……。


「答えないってことは本当なんだ? ……ああ、ショック!浮ついた話が無かったあの篠宮くんが、まさか千咲となんて……」


里乃は本当にショックを隠せない様子で、深い溜息を零した。