「篠宮くん」


図書室のドアを開けて名前を呼ぶと、彼は顔をあげてこちらを向いた。


「勉強……じゃないみたいだね」


手ぶらであることに気付くと、彼は読んでいた本を机の上に置いた。


「どうして“違う”って言わなかったの?」

「……ああ噂のこと?高城さんだって嘘を吐いたんだからおあいこでしょ?」

「それはそうだけど、でも私とそんな噂が流れたら篠宮くんだって周りに変な目で見られるんだよ?」


すると、彼は静かに息を吐いた。


「別に俺は自分が思うようにしただけだよ。高城さんだってそういう嘘を吐かなきゃいけない理由があったからそう言ったんでしょ?だったら俺は話を合わせてあげたんだから、むしろ感謝してもらわないと」


そう言って本を閉じる。


「でもっ」

「まだ何かあるの?」

「やっぱり嘘は嘘でしかないし、否定しないと……」

「――だったらさ、本当のことにすればいいんじゃないの?」


篠宮くんは席から立ち上がり、ゆっくりと近づいてくるとそのまま目を閉じた。