今日は、卒業して十年ぶりの高校の同窓会。
私は正直乗り気ではなかった。
高校時代、振り返りたいほど良い思い出というものが無い。
私は今より、20kgほど太っていた。
それは、男女問わずからかいの対象になりやすいことで、私は運悪く標的にされてしまった。
勿論一部のクラスメートからではあったけれど、十代の私にとっては身につまされる出来事だった。
結果、高校時代の繋がりは朋ちゃんだけだったし、これからもそれで良いと思っていた。
けれど、朋ちゃんからの強い勧めもあり、参加することを決めたのだった。

「今の依子を見せつけちゃいなよ!高校から付き合って来た私が言うけどさ、あんたすっごい綺麗になったよ!」
「ええ!?」
「もっと自分に自信持っていいと思う!」
「朋ちゃん…」
「だから!高校の同窓会行こう?見下した奴ら、逆に見下してやろう?」
「リベンジだよ、リベンジ!」

同窓会の案内はがきが届いた夜、朋ちゃんは電話をくれて私の同窓会参加への勧誘演説をしてくれたのだった。
私もそんな朋ちゃんの熱意に動かされ、早々にゴミ箱に捨てたはがきを拾うこととなった。

「決めたのは自分…。言い訳はしない」

そう心の中で言いながらクロークの受付を後にし、化粧室にでも行こうと振り返った瞬間、目の前が遮られ何かにぶつかってしまった。

「うわっ!」
「…いてぇ!」
「す、すみません…」

床に散らばってしまった鞄の中身を拾い集めながら、声の方を見上げる。

「いや、こっちこそ。大丈夫?…これもあんたのじゃない?」
「あっ…クロークの番号札!」
「無いと大変だろ」
「は、はい!ありがとうございました」

お礼を言いながらもう一度男の人を見ると、私とあまり歳の違わない青年で、なかなかのイケメンだった。
ヒールを履いた私よりも背が高い。
上品な細身の紺色スーツを着こなし、ネクタイも光沢の良いオレンジ色を合わせている。
その色がどことなく社交的な印象を受けた。
そして強気を帯びた眼差しは、懐かしささえ感じた。
もしかして、同窓会に?つまりは高校の同級生…?

「…何か?」
「い、いえ…。本当に、すみませんでした!」

顔が赤くなるのを感じながら、私は逃げるようにその場を後にした。
化粧室の個室に駆け込み、ようやく深呼吸をする。
今日は大安ということもあり、化粧室ではひっきりなしに人が行き来していた。
中には、久しぶり-!!と盛り上がる若い女性達の声も聞こえる。
それがどこかの披露宴招待客なのか、はたまたこれから始まる同窓会参加者なのかは定かではない。
けれど、楽しげな会話が聞こえる度、ドキドキと鼓動が激しくなった。
開かずの間になってしまって申し訳ないけど、もう少しだけ…。
私は拝む気持ちで、同窓会開始ギリギリまでここに籠ることにした。
一体何から逃げているのか…。
自分でもよく分からなかったけれど、昔からトイレの個室に入ると落ち着く性格は今も変えられないらしい。
閑散とし始めた化粧室で、私はそっと息を吐いた。