食堂には先客がいた。 日野 真琴(ヒノ マコト)。5つ上で大学生の私の兄だ。 「あら、那月ちゃん。おはよう」 そう言って台所から声を掛けてくれたのは田辺 美夜子(タナベ ミヤコ)さんだ。私が暮らすこの施設の施設長だ。 私、いや、私たち兄弟は幼い頃、母を交通事故で亡くし、施設に預けられ育ってきた。