キレて、屋上を去った後だ。
絶対に、偽名バレた…。あっちからすれば少し理不尽だよなぁ。理由がわからないまま怒鳴られて…。

私は病気だ。

余命宣告もある。と言うか、親がいないから高額な治療費や手術費を払えない。

私は捨てられた。

と言うか、育児放棄だ。

私の口座に謎のお金があった。毎月毎月仕送りされていて、生活はできた。

でも、病気は治せない。

家賃別で月30万貰っていてもその金額じゃ足りないし、そもそも手術をやってくれる医者がいない。

親は金持ちなのだろう。家は高級マンションの最上階だし、月々のお金も多いし。

まぁ、どう転んでも死ぬ。

偽名を使っている理由は昔、レイプされた暴走族に見つからないため。

私は心臓の病気で、中2の段階で余命が残り3年くらいしかなく、死ぬ。らしい。

死ぬなら、医者の話なんて聞いても意味ないしね。

あっ!暴走族が嫌いな原因はレイプね。まぁ、根本的に男が無理。


あいつらに絶対に目、つけられたよなぁ。

私のことを知ってもらうために、少し昔話をしよう!


私が捨てられたのが、7歳くらい。小学校には行っていなかった。

11歳くらいの時に、買い物帰りに〝赤燐”(せきりん)っていう暴走族3人にレイプされた。

その日から恐怖の日々が始まった。

怖くて家から出られず、怯えていた。

でも、12歳の時自分で何とかしないといけないんだって気づいて、家から勇気を出して出てみた。

強くなりたい。いつしかそう思うようになり、女だとバレないように変装して毎日喧嘩に明け暮れた。

族を1人で潰せるほどだ。ハッキングだって独学で覚えて族潰しに役立ててる。

だが、ある日の夜。

呼吸がしづらくなった。初めは、放置していたけどとうとう我慢できなくなり、病院に行った。

その時だ。余命宣告を受けたのは…。

これが、今までの私の話。


だから、暴走族は嫌いだし、身元も明かす気はない。

同情、哀れむ目

私に向けられる目にいいモノなんてない。

裏切られるのがオチだ。

学校側には、病気のことは言っていない。同情の目を向けられるのはごめんだ。


ゴチャゴチャと考えていたら、あっという間に昼休みになっていた。

最悪だ。ほとんどの授業をサボってしまった。

「怜奈ちゃーん!」

呼ばれたから振り返った。そこにいたのは桐本美希だった。

「なに?もう用済みだろ?」

「一緒に来て!もう、学校サボっちゃおう!」

「はぁ?なに言ってんだ。」

「だ・か・ら!今から、倉庫に来て!」

「嫌よ!絶対にイヤ!!」

「お願い!ね?」

ぐぬぬっ。なんつー可愛いおねだりなんだ!

「うっ、わ、わかった…。行く。」

「やったぁ!」

はぁ、可愛い笑顔だこと…。このキュートな笑顔に負けたなんて…!

「あっ、怜奈ちゃん!教室に入ってないよね?」

「ん?入ってないけど…。どうして?」

「えぇー!だって、怜奈ちゃんは優等生でしょ?だから、仮病でも使わないと怪しまれちゃうじゃん!」

こ、この子…。意外と頭が良いなぁ。

「あっそ。」

「よしっ!じゃあ、レッツゴー!!」

そう言って、私の腕を掴んで走り出した。走らないでほしい…。息が…苦しい。胸が痛い。呼吸ができない。

「はぁ、はぁ、はぁ…。」

「もう!体力無いなぁー!」

体力はあんたよりあるよ!最近症状がさらに悪くなって、あまり、走れない。

「ねぇ…。はぁ、はぁ、止まって…。はぁ、はぁ。」

「むぅー!しょうがないなぁー。」

そう言うとようやく止まってくれた。

よかった…。

「はぁ、はぁ、歩こう?」

「仕方がないなぁ。本当に体力無いなぁ…!」

体力の問題じゃない!つうか、中学の時は、陸上部だったっつうーの!

私は、中学は行ったんだ。勉強をするために。もちろん、桜木怜奈として。

部活に絶対に入らないといけない学校だったから、仕方なく陸上部に入った。まぁ、この時にはもう、病気だったんだけどまだ、動けたからやった。

「ね…き……てる?」

「ねぇ!聞いてる?!」

考え事をしていたら、桐本美希の顔がドアップで視界に飛び込んできた。

「へ?!な、なに?!」

「ボーっとしてたでしょ?着いたよ?」

「あっ、あぁ。ごめん。」

目の前にはザ・倉庫と言わざるを得ないきれいな大きな3階建てだ。

ガラガラガラッ!

桐本美希が大きな扉を勢いよく開けた。

そこら中から、“ざっす!”とかいろいろ聞こえる。

その中から、“誰だ?”とかも聞こえる。

「みんな、やっほー!」

桐本美希が大きな声で叫んだ。
近くにいた人になにかを聞いた

「みんな上?」

「はい!皆さんいらっしゃいます!」

確認か。いなかったら、来た意味ないしね。

とりあえず、私はペコペコと頭を下げておいた。

「怜奈ちゃんついて来てー」

奥に進むと、2階へと続く鉄の階段があった。

階段の奥にも扉があって、まだまだ奥行きがありそうだ。

コツンッ、コツンッ…

階段をのぼる音が倉庫内に響く。

階段をあがった先にはこれまた大きな扉。

ガチャ

「やっほー!連れてきたよー!」

「今度は何ですか?」

少し、イライラ感を出して聞いた。

「まぁ、そうカッカッしないでー」

可愛いけど、オーラが半端ない。こいつ、総長だ。

「総長様が私に何の御用で?」

「へぇー!すごいね君!俺が総長ってわかったんだぁー!
名乗ってないのに。」

んー!すごい殺気!ふふふ。

「その殺気、しまってくださる?ワクワクしちゃう!ふふふ。」

この発言にみんなの顔が強張った。

「お前!何者だ!」

このチャラ男!うっせーよ!

「チッ!うっせーな!女嫌いのチャラ男が!」

この発言でまた、場が凍った。

「ど、どうしてそれを…!」

「気づかないわけねぇーじゃん!屋上で私に向けた言葉と顔は全く違った。言葉では“カワイイ”って言っていても顔は“嫌いだ、近寄るな。”って隠すの上手いじゃん!ふふふ。」

チャラ男の顔は唖然としている。

「フハハ!おい、お前何者だよ!美希、ちょっと下に行ってて。」

「わかった。」

桐本美希を部屋から出した。
真面目そうなやつ。隠しているつもりかな?

「ただの、女子高生だよ?出来損ないの副総長様?ふふふ。」

副総長様は目を見開いて怒りをあらわにした。

「おい!ふざけんじゃねーぞ!黙って聞いてりゃあ、適当な御託並べやがって!」

「ふふふ。御託?どこが?すべて本当のことでしょ?
私の前では、嘘は通じない。」

「君、おもしろいね?」

「それはそれは、ありがとうございます?ふふ。
総長様は表情に出ないように頑張ってますね?逆にバレるよ。ふふふ」

「そうかい。ハハハ!気に入った!これから毎日ここに来い。」

「はぁ?嫌よ?前にも言ったでしょ?暴走族は死ねって…。ふふふ」

こいつ私に探りかけてやがる。

「言ってたねぇ?君のことがわからないから知りたいなぁ。」

「よくもまぁ、口から出まかせを吐けるね?ハッキングしたくせに。副総長様が…ふふふ。」

偽名なのはバレてる。その他はバレることない。大丈夫だ。
総長様は普通の顔ってところ。副総長様は何故?とでも言いたげだ。

「完敗だ。君には負けるよ!フハハハ!ハッキングはしたよ?旬が。でも、君のことは出てこなかった。偽名だよね?」

やっぱりか。

「んー。そうだね!偽名だよ?だからどうしたの?」

「普通の女子高生が偽名を使うか?君は何者だ?」

「訳アリ女子高生?かな。ふふふ。」

「おい!はっきりしろよ!いい加減によ!」

初めて声聞いたぁー。無口だなぁ!しかも俺様だ。

「あら?あなたの声初めて聞いたわぁ!この中で一番過去が残酷そうね!ふふふ」

「テッメェ!その口、一生叩けなくしてやるぞ!」

「あら?脅し?あなたに私が倒せるかしら?」

「なんだと?!」

「まぁ、まぁ!落ち着いてよ。」

総長様が止めに入った。

「聞きたいことがあるんだけど?どうして人によって話し方を変えるの?」

「んー。なんとなく?」

「そっか。とりあえず、今日から夜9時までここにいろ。」

なんと勝手な。

「拒否権はないんでしょ?」

「そうだね。ないね。」

やっぱりか。

「俺は嫌だ。」

真っ先に言ったのは、副総長様だった。

「反対派がいるみたいよ?」

「んー。困ったねぇー。しゅーん!どうして反対?」

優しく、でも本心を聞き出すように強く聞いた。

「正体が不明すぎるんだよ!唯一分かってるのは暴走族が嫌いってことだけ。名前だって本当の名前じゃない。そのくせ、人の本心は見抜く。怖えんだよ!」

「なるほどね。この子のこと知れば怖くないでしょ?」

「チッ…。わ、わかったよ。」

腑に落ちてない顔だぁ!

「ここにいればいいだけ?総長様」

「そう。それだけ。」

「そう。」

この日から、私の人生は狂い始めたのかな?

その後、話のケリがついたころには既に9時を回っていた。

“送る”と言われたが断り家へ帰った。

目の前にはだかる高セキュリティのマンション

その最上階に向かうエレベーターに乗って最上階に行った。

「はぁ、本当に最悪だ…。
私がこんな目に遭うなんて。」

部屋に入ってすぐに独り言をボヤキながら、リビングのソファーにドカッと座り込んだ。

「明日からあの倉庫にいかなきゃいけないなんて…。
はぁ、嫌だなぁ。」

最近、心臓の具合もますます悪くなっているし、呼吸がしづらくなってきている。

いつ、どこで倒れるかわからない。バレるのは時間の問題だ。

あの倉庫で倒れるのが一番厄介だ。

どうしよう…。いろいろと考えているうちに、深い眠りについてしまった。


プルプルッ

「ん?んん~っ!誰よ…。」

電話の音で目が覚めた。

スマホを手に取り、画面を見る。“久本孝介”と表示されていた。

「はい…。」

「おい!玲菜ぁーー‼お前、どうして病院に来ないんだ!」

応答して早々に、耳元で叫んだのは私の担当医の先生だ。

「はぁ?治らない病気、死を待つだけなのに病院に行ってどうするのよ。」

「治らなくても、少しくらい長く生きられるかもしれねぇじゃねーか!」

「苦しんでまで生きようとは思わない。」

「はぁ。言うと思ったが…。とりあえず、一度診察に来い!」

「はいはい。いつか行きますよ。じゃ。」

プツンッ.

病院ねぇ。行っても意味ねーじゃん。

そういや、今何時だっけ? 

昨日はリビングで寝たから時計の位置が少し遠い。

12時30分をゆうに過ぎていた。やべぇ。

今日、学校じゃん!倉庫に行かないと。今日は仕方がない。

昨日が火曜日だったから、今日は水曜日だ。

2日間も無断欠席してしまった…。

病院にでも行こうかなぁ?

学校側にすべてを白状しよう。

とりあえず、病院まで行こうと自宅付近のバス停から直接大学病院まで行けるバスに乗った。

30歳という若さで、大学病院の医院長をしている私の担当医久本孝介は、医学界では相当名の知れた腕の持ち主で、難しい手術を望む患者が殺到するとのことだ。

大学病院前で降りて、受付に直行した。

「すいません。医院長に取り合ってほしいんですけど…。」

「医院長にですか?失礼ですが、どのような御用件でしょうか?」

「医院長に診察してもらっているんですけど…。」

「あっ!松井玲菜様ですね!気づけなくて、大変申し訳ございませんでした。少々お待ちください。」

「はい。」

今、医院長の受け持っている患者がいないからなのか、結構早い段階で分かったみたいだ。
少し待っていると、受付の人が戻ってきた。

「松井様。申し訳ございませんが、医院長は只今忙しいようで…。
いいかがなさいますか?他の先生を呼ばれますか?」

「いえ。看護師長さん呼んでいただけますか?」

「かしこまりました。少々お待ちください。」

「はい。」

少し待っていると受付の人が戻ってきた。

「看護師長は只今こちらへ向かっているそうです。」

「そうですか。ありがとうございます。」

結構時間がたってから、私の名前を呼びながら看護師長が向かってきた。

「玲菜ちゃん!待たせてごめんね!」

「いえ。待ってないです。」

この、大学病院の看護師長をやっているベテランの“佐藤紀子”(さとう のりこ)さん。

「何かあったの?」

「いえ。何かというほどじゃ…。孝介先生に呼ばれてきたんですけど、忙しいみたいで。」

「あぁ。今、ちょうど手術が終わったところだったんで繋がらなかったんですよね。」

そういって、紀子さんは苦笑いをした。

「そういうことだったんですね!今から会うことって可能ですか?」

「玲菜ちゃんなら、いくら忙しくても会いそうだよね。ふふ」

案内をしてもらいながら、話を続けた。

「かもしれないですね。でも、無理はしてほしくないので…。」

「そうねぇ。若いから、いろいろなプレッシャーがあるだろうしね。」

「メンタルあるようでない人ですもんね。」

「そうなのよね!フフフ
着いたよ。」

コンコンッ

「医院長。玲菜ちゃんがいらっしゃっています。」

「えっ!?玲菜がっ?!」

ドタドタバタッ!バコッ!

「イッテェ‼」

紀子さんの話を聞いてすぐ、ドア付近で何かにぶつかる音が聞こえ、孝介先生の雄叫びが上がってちょっとしてドアが開いた。

バタンッ

「玲菜‼お、おま、来るときは連絡の一本でもしろよな!」

「はぁーい。中入っていい?」

「あっ、あぁ。」

遠慮なくなかにはいる。

「私はこれで失礼しますね。」

「紀子さんありがとうございました!」

「いーえ!」

紀子さんがいなくなった後、孝介先生がドアを閉めた。
私は、ソファーにドカッ!と座った。

「最近、体の調子はどうだ?」

「んー。最近は…割とやばいかも。」

「やばい?具体的に言え。」

すっごい真剣な顔で質問してくる。

「えっと、胸が締め付けられる感じとか、息苦しさっていうのかな?呼吸がしづらくなってきた。」

「そうかぁ。こっち向いて。」

言われた通り孝介先生の方を向くと、聴診器を持って“服をちょっとまくれ”と言われたので服を少し上げたら冷たい聴診器が心臓の部分にピタッと当たる。

「ちょっと、鼓動が遅い気がするね?入院するべきだよ。」

「入院?するわけないでしょ?」

「言うと思ったが、さすがにやばいぞ?」

「入院は嫌よ。あと何ヶ月生きれるの?」

「玲菜が中2の時点で3年と言ったが、もう1年もない。
倒れることを見越して考えると、長くて2か月、短くて1か月だ。」

もう、そんなに短い時間しかないの?急がないと。

「自分でどうにかできなくなったら、入院する。」

「いや、入院する気がないのなら1週間に一回は俺のところに来い。」

「そんなに?いやよ。」

本当に時間が無くなっちゃう。

「これ以上は無理だ。来なかった場合は即入院。わかったな?」

「わかった。運動ってしていい?」

「本当はだめだが、ほどほどにな。」

「うん。今日は帰るね。」

「あぁ。気をつけろよ。」

本当に時間がない。急がないと。

その日は、家に帰ってすぐに寝た。

次の日になって学校に行く支度をした。今は朝の7時30分早く行って、学校側に本当のことを言うつもりだ。

8時少し前になり、学校へ向かった。

学校に着いてすぐに職員室に向かった。

コンコンッ

「朝早くに失礼します。先生方にお話があって早めに伺いました。」

先生たちは“なんだ、なんだ”と動揺している。

「桜木さんどうかしたの?」

私の担任が優等生の私に何かあったのではないかと焦りながら聞く。

「まず、昨日無断欠席をして申し訳ありませんでした。
そして、私は“桜木怜奈”ではなく“松井玲菜”と言う名前です。偽名で入学して申し訳ございませんでした。」

そう言い終わると、深く深く頭を下げた。

明らかに先生たちは戸惑っている。

「ぎ、偽名?どうしてそんなことを?」

担任としての責任なのか、疑問をぶつけてくる。

「実は、私には余命宣告があります。皆さん知っての通り、親もいません。捨てられました。そして、中学の時荒れていて名前からいろいろなことがバレるのが嫌で、偽名を使って入学しました。
理事長には、理由を説明して入学を許可してもらいました。」

皆、唖然と言った顔だ。

「本当にすみませんでした。でも、これからも偽名で生活します。
あと、2ヶ月の命です。お願いします!」

もっと、深く深く頭を下げた。

「頭を上げて。どんな病気なの?」

「心臓の病気です。本当は、あと1年近く寿命があったんですが昨日、入院すべきだと言われました。そのくらい悪化しています。」

「入院する気はないの?」

「はい。限界が来るまでは入院は断るつもりです。」

「治らないの?」

担任以外の先生も質問に加わる。

「技術も、費用もすべて足りなくて、ほぼ不可能と言われました。」

「わかりました。もし、少しでも異常があれば誰でもいいから先生に言ってね。」

担任が優しく言った。

「ありがとうございます。このことは、誰にも言わないでもらってもいいですか?」

「ええ。わかったわ。」

「失礼しました。」

まず、1つ一件落着。

既に、生徒が登校していた。

教室に入り、普通に何事もなかったかのように授業を受けた。

放課後になるとやっぱり桐本美希が来た。こっちもどうにかしないとなぁ。

「怜奈ちゃーん!」

「なに?」

「倉庫行こう!」

「あぁ、うん。みんなに話があるの。」

「話?」

「うん。そう、大事な話。行こう。」

2人で、どうでもいいような雑談をしながら倉庫に着いた。

周りから“こんにちわ”とかいろいろ聞こえるが、まだ慣れない。

奥に進み、階段をコツンッコツンッと一歩ずつのぼっていく。

「連れてきたよー」

桐本美希がみんなに聞こえる声で言う。

「あぁー。昨日どうして来なかったんだよ。」

総長の絹岬葵衣が聞いてきた。

「昨日?起きたら今日の朝だったから、どう考えても来れないでしょ?」

「怜奈ちゃんそんなに寝てたの?!」

「うん。まぁ、二度寝だけどね…。」

嘘ではない。私にはよくあることだ。

「そっか!それなら仕方ないよね!」

「ねぇ、私を警戒し、嫌っているのはどうして?
性格?得体が知れないから?」

桐本美希の言葉を無視してその場の全員に聞いた。

「嫌っているわけではない。だが、警戒はしている。
その理由は得体も知れないし、その上俺たちのことをすべて知っている。そうなれば警戒しないわけがないだろう?」

副総長様が口を開き、丁寧に説明をしてくれた。

「そう。なら、教えてあげる。答えたいことだけ答える。」

「へぇー。君が自分のことを話すの?」

「勘に触る言い方ね?」

総長様の挑発に挑発で返した。

「なんでも聞いていいんだよね?じゃあ、本名は?」

「それは無理。名前から言いたくないことまでバレるじゃない。」

総長様の質問に答えた。

「じゃあ、俺も聞きたいことある。
どうして暴走族が嫌いなんだ。」

副総長様が一番聞いてほしくないことを聞いてきた。

「それも、答えられ…「そんなの全部答えられないじゃないかっ!」」

チャラい男が私の言葉を遮った。

「じゃあ、話せばいいの?!話せばすっきりする?!あんな残酷な…。屈辱的なことを‼」

その場は唖然だ…。

「あっ…。と、取り乱してごめんなさい。」

「そんなに話したくない事なの?」

桐本美希が遠慮もなく聞いてきた。

「なら、聞く…?私のもっとも消し去りたい過去を…。」

「う、うん!聞きたい!怜奈ちゃんのことをもっと知りたい!」

陽気な声で答えた。この先の絶望的な過去を聞いて、嫌いになれ!私のことを。

「11歳くらいの時。私は、襲われたんだ。暴走族に…。叫んでも叫んでも、誰も来ない。周りの男は増えるばかり!“やめて!”何回言ってもやめてくれなかった‼ヤることやったらすぐに捨てる!あんな…あんな最低な奴ら‼死ねばいいんだ!死ねば!はぁ、はぁ、はぁ。死ねば…!はぁ、はぁ…。」

泣き叫びながら、当時のことを思い出して泣いた。いつぶりかわからないくらい泣いた。心臓が締め付けられる。痛い。息ができない。

「あんな奴ら!はぁ、はぁ。死ねば!死ねばいいんだよ!はぁ、はぁ。」

「お、落ち着け!お前、落ち着け!」

副総長様が興奮している私を止めた。でも、私は止まらない。

「死ねばいい!はぁ、はぁはぁはぁ!!」

息が…。目の前が真っ暗になる。あっ、倒れる…。

バタンッ!
(水神side)


突然、桜木怜奈が倒れた。過去を語りだしてから様子が一気に変わった。

「おい!大丈夫か!」

桜木の体を揺すりながら旬が声をかけるが、返答がない。

「おい、やばくないか?!」

雅也が言った通り見た感じやばい。その状況を見て顔を白くてさせ、パニックを起こしている子が一人…。

「ど、どうしよう!?私のせいかな?!私が話してほしいって言ったからかな?」

「ちがうよ。大丈夫だから。旬、ソファーにその子寝かせて。龍生は氷の用意、雅也は毛布か何か羽織るものを持ってきて。」

葵衣は総長らしく的確な指示をした。
それに従って全員動いた。
しばらくして、桜木の呼吸も安定した。まずは、一安心だがあの話は相当気にしているだろう。

「さぁ、あの子の過去を聞いてどう思う?」

葵衣が全員に問いかけた。

「嘘ではなさそうだよな…。あんなに取り乱すとはな。」

「だよな。でも、あの謎に包まれてたやつがそうあっさり話すか?」

「何かを企んでいるとか?」

旬と雅也が2人で討論し始めた。

「企んではいるかもしれないけど、あの子の恨みは相当だ。」

「だよねー。あの子ってレイプだけじゃなさそうだよね。」

龍生の言葉に独り言のように葵衣が被せた。

「どうにかならないの?」

「美希ちゃんが聞けば教えてくれるかもね。」

「ほんと?!じゃあ、頑張って聞こうかな?!」

「頑張ってね。」

張り切る美希とは正反対の顔を4人はしていた。


(水神side)
「んっ…。」

ここどこ?あれ?どうしてこんなところに…。

「わぁー!起きてるぅー!」

桐本美希が勢いよく顔を覗き込んできた。

「起きましたか。調子はどうだ?」

「お陰様で」

副総長様は体調を気にはしているが…

「なにか聞きたいことでもあるって顔ね?」

「あれれ?バレたかぁー。起きて早々悪いね。」

「で、総長様は何を聞きたいの?質問は?」

「じゃあ、本名は?」

「また聞くの?それは無理。断固として拒否よ。」

「家族は?」

ぶっきらぼうに聞いたのは、西ノ宮龍生だ。

「家族?そんなのいない。」

「えっ?!いないの?両親2人とも?」

私の言葉に先に反応したのは桐本美希だった。

「そう。ずっと一人よ?だから?」

「だからって…。怜奈ちゃん。」

「他の質問は?ないの?」

「さっき、どうして呼吸困難になったんだ?」

私は、思わずポーカーフェイスを崩した。どうして副総長にバレたの…。

「も、元々喘息持ちで!どうしてわかったの?」

「病院の医院長の息子だから。」

「へぇー。そうなんだね。」

「それだけ?じゃあ、もういいよね?9時だし帰るね。」

「あ、ああ。」

バタンッ

急いで出て、倉庫の前で立ち尽くした。

「やばい…。」

「そうだねー。あれじゃ、バレバレだよねぇー?」

声のする方に振り向いた。そこには総長様がいた。

「ど、どうして?!」

「君に言いたいことがあってね!」

「な、なに?」

「ねぇ、水神の姫になってくれない?」

「はぁ?嫌よ。桐本美希がいるじゃない。」

「そうだね。あの子も姫。君はまた別、悪い話じゃないだろ?」

「守られるのが嫌なの。帰る。」

そそくさと倉庫を後にした。

部屋に戻りパソコンを開いた。

「明日から久しぶりに鬼退治でもしようかな?」

悪いことをしている暴走族を潰していく鬼。それが私。

鬼には知れ渡っている情報が結構ある。

まず、服装だ。背中に般若の顔と桜の絵がプリントされた赤のパーカーを着ていて、フードを深くかぶっている。それと、マスクをしていて顔はバレていない。

だからか、男か女かわからないと言われていた。しかし、最近は女じゃないかと言われている。

原因は私が食べなさ過ぎて細すぎるからなのだそう。

まぁ、もう女としてやるけどね。明日から。

あと、噂になっているのが大量のピアス。

実際は大量と言う量ではない。耳たぶは4個軟骨は2個。両耳とも同じ数だ。

両耳とも一つ目は鬼のピアス。その他はルビーのピアス。

最後は、髪だ。普段は黒のセミロングのウィッグをつけているが、本当の髪は腰まで長いウェーブヘアーで、色が薄い赤色で毛先が真っ赤。

これで、鬼の知れ渡っている特徴はすべてだ。

今日のリサーチは完了!明日から本格的に急がないとだめだ。

今日は、寝よう。


ピピピッ.ピピピッ

「んー!」

目覚ましが鳴り、重い体を起こした。

今日から大体1か月ほどで死ぬから、頑張るしかない。

急がないといけないが、とりあえずは学校に行かないと。

朝食はイチゴ牛乳でいいか!飲みながら行こう。

学校では、いつも通り放課後まで授業を受けて放課後からは水神の倉庫に向かった。

水神の倉庫前…

いつもと同じく、下っ端の人たちがいて挨拶の嵐だった。

倉庫の奥の方の階段をのぼり幹部の部屋へ行く。

ガチャ

「来ました。」

私がドアを開けると一斉にみんなの目線がこっちに向いた。

「今日は、話があって…。」

「話?また暴露?」

チャラい奴が興味津々の顔で聞いてきた。

「いいえ。違うわ。今日から帰宅時刻を6時30分にしてもらえないかと思って。」

「どうしてー?家に誰もいないんでしょ?」

「そうじゃなくて、毎日じゃないけど用事があるの。」

「そうなんだー。分かった。いつまで?」

「んー。分からないわ。」

「そうなんだ。じゃあ、今日からね。」

総長様の許可は得た。今日から活動開始だ。

ドタドタドタッ!バンッ!

「みんなやっほー!あぁ!怜奈ちゃんがいる!お菓子食べる?!」

「ううん。いらないよ。」

ドタバタと桐本美希が入ってきた。

しばらく、ボーッとしていると何かを思い出したかのように桐本美希が声を上げた。

「そういえば…。怜奈ちゃんってみんなのこと名前で呼んだことないよねー。」

そらそうだろう。名前教えてもらってないし知らねーよ!

「いや、呼ぶも何も名前知らないし…。」

「えぇ?!うそっ!誰も自己紹介してないの?」

「あぁ、忘れてた。」

桐本美希の驚きに副総長様が冷静に忘れていた宣言をした。

「じゃあー、改めてしますかっ!」

総長様の提案に素直にみんな従った。

「俺は、総長の絹岬葵衣。葵衣って呼んでねー。」

チャラくはないけど、言い方が雑だ。

「俺は、副総長の葛木旬。旬でいい。」

最近、俺様感がにじみ出ている気がする。

「俺は木元雅也。雅也でいい。」

チャラ男…。

「西ノ宮龍生。龍生と呼んでくれて構わない。」

こいつ無口だな。葵衣より総長っぽい。つうか、あまり話したことなくね?

「じゃ、じゃあ!つぎ私!桐本美希。気軽に美希って呼んでね!
あっ!あと、みんな2年生だから!」

桐本美希が早口で話し出した。

「そのくらい知ってる。リボンとネクタイの色が違ったから。」

私たちの学校はリボンやネクタイの色で学年が判断できるようになっている。
1年は赤、2年は青、3年は緑だ。

「まぁ、そうだよねぇ!」

「あっ、美希帰ります。葵衣失礼します。今日はありがとうございました。」

時間通りに帰る。早くこの場から去りたかった。

下っ端の人たちに挨拶されながらそそくさと家に帰った。

家に着き、暴れれる格好に着替える。

やっとできる。大掃除が…。

いつもの赤のパーカーを着る。いつもと違うのはズボンからスカートに変わったこと。

黒のミニワンピースに、黒の太ももあたりまである長い靴下。男と言う噂を消すつもりだ。

ウィッグを取って、フードを被った。ピアスをつけ、黒のリュックを背負う。

リュックの中身は、携帯、財布、パソコン、チュ〇パチャップスくらいかな?

チュッパチャプスはいつもなめている。唯一食べるものと言っても過言ではないほどだ。

時刻は7時ちょうど。いこうかぁ。

黒の厚底ブーツを履いて、マスクをして準備Ok!

厚底は動きやすくておすすめ。


マンションを出て歩いて繁華街に向かった。

繁華街に近づいていると、『キャー‼』と女の子の声が聞こえた。

「路地裏の方か…?」

勘で行くと大当たり、女の子の服に手をかける男が一人…。
その周りを囲んでいる男が5人。

「なぁーにしてるの?俺も入れてー?」

男たちに話しかけると、気持ちの悪い目で撫でまわすように下から上まで見た。

「へぇー。いい女じゃねーか。巨乳かぁ…グヘヘ」

きも。

「た、助けて…」

泣きながら女の子は私に訴えた。

「ねぇ、俺と相手してよ?」

「おう。いいぜ?ねぇーちゃんは大歓迎だ!」

「やった!」

気持ち悪い奴。私の遊びは快楽じゃない。激痛だ。

「じゃあ、遠慮なく」

バキッ!

女の子を襲ってた男に近づき、顔面に蹴りを一発お見舞いしてやった。

「お、お前!何者だ!」

見張りでもしていたであろう男が聞いてきた。

「何者…。鬼、だよ。」

驚きよりかは疑いの目の方が強い。

「鬼は、男のはずだ!」

「あれ?知らないの?最近女説が浮上しただろ?もう面倒くさくてな。」

髪が長いのによくもまぁ、今まで男だと思えたよな。

「君らも、潰すよ?」

ボコッ!バキッ!…

「ふぅー。全員伸びたな。大丈夫?」

男共を気絶させ、女の人に近づいた。

「あ、ありがとうございます…。」

「男か女どっちかわからんないって顔だね!」

彼女の顔から、読み取ったことを率直に口にした。

「へっ?!」

「俺は女だよ!」

そう言って、マスクとフードを取った。

「わぁ!可愛い!可愛いのに強いのね!」

「ありがとう。家は?どうしてここへ?」

お世辞を流して本題に入る。

「じ、実は母親が死んでしまってお母さんの遺産を親戚が貰おうと必死で、私を引き取ればお金が入ると思っているみたいで…。」

この子は幸せから急に地獄にいる気分になったのだろう。

「だからここに逃げてきたの?」

「はい。」

「帰るところはあるの?」

「ないです。家は売っちゃて。そのお金も私のものになっていて…。」

「そう。私の家においで。」

「えぇ?!そ、そんな!助けてもらった上にそんなことまで!」

「いいよ。どうせ一人なんだろう?俺は玲菜だ。」

「わ、私は山口詩織です。(やまぐち しおり)ほ、本当にお世話になってもいいんですか?」

「いいよ。私も一人だし。母親のお金も、取り返してやる。」

「え?本当に?!何から何までありがとうございます!」

「いいよ。その代わり、この後も付き合ってもらうよ。あっ、俺は高校一年だ。」

「えぇ?私も高校一年生です!」

「そうか。なら、敬語はなしだ。」

「う、うん!」

詩織は、すごくかわいくて放っておけなかった。
もうすぐ死ぬのにこんなことしてどうすんだ…。

「行こうか。」

「うん!」

詩織を連れて、配慮をしながら掃除をして帰ろうとした時だ。

「玲菜ちゃんは喧嘩が強いね。すごい。」

「そうか?とりあえず家に帰る。」

「うん!」

喧嘩は強いんじゃない。強くならなければいけなかったんだ。

自分で自分を守るためには…。


マンション前に来た時、詩織は言った。

「す、すごいね…。ここ、すごく高いところじゃん。」

「そう?詩織はお金持ちだろ?見慣れているんじゃないのか?」

「そこまでお金持ちじゃないよ!玲菜ちゃんのこともっと知りたい!」

「部屋でな。」

「うん!」

あぁ、どうしてか詩織といると落ち着く。安心する。


部屋に着き、詩織に食べさすご飯を作った。簡単なものだが、オムライスを作った。

「お腹空いているだろう?食べろよ。」

「あ、ありがとう!いただきます!ん?玲菜ちゃんは食べないの?」

「俺はいらない。」

不思議そうにはするがそれ以上聞いては来なかった。

詩織がご飯を食べている間、詩織の前のソファーに座り詩織について調べた。

「ごちそうさまでした!すごくおいしかった!」

「そうか。詩織、お金は余裕で取り返せそうだ。」

「え?!本当?よかったぁ。」

遺産は全て詩織に渡すという遺言書を母親の秘書が持っているらしい。家のお金全てを。

「明日取りに行こうか。」

「うん!」

元気そうでよかった。そう思っていると、

「玲菜ちゃん。教えて、玲菜ちゃんのこと。私はこれからずっと玲菜ちゃんといたい!今日初めて会ったけど、信用したい!」

そんなこと言ってくれるなんて、すごく嬉しかった。

「あぁ。俺も、いや私も詩織といたいと思ったよ。」

それから、病気のこと、家のことすべて包み隠さず話した。

「そっか。私より辛い経験をたくさんしてるんだ。玲菜ちゃんは喧嘩だけじゃなく、心も強いね!」

「そんなことはない。」

「ううん。そんなことある!」

「ありがとう。寝ようか。」

「うん!」

本当に、いい子だよ詩織は。

ただ忘れていたことが、1つ…。

「あっ、この家…ベット一つしかない!」

「え?大丈夫だよ!寝れる!」

ま、まぁ。キングサイズだし寝れるけど、2人でいいのかよ。

こうして2人は深い深い眠りにつきました。
ピピピッピピピッ


「んっ…。んー!」バン!

目覚まし時計を強く叩きすぎた…。

目を覚まし起きると、目の前には天使の笑顔がっ!か、可愛すぎる!

私は可愛いものは何でも好きだ。
よくお眠りになられていることだ。

「お風呂入ろう。」

今は10時。今日は詩織のお金を取り戻すため学校は休んだ。

お風呂に入り、下着姿で部屋に戻ると詩織が起きていた。が、ものすごくオドオドしている。

「詩織?どうした?」

「玲菜ちゃんー!玲菜ちゃんがいなくて、怖かった。」

昨日のこと、まだ吹っ切れていなかったんだな。

「そうか。それはごめん。お風呂に入ってこい。」

「う、うん…。」

「あっ!詩織って、何カップだ?」

「な、なんで?!」

私が普通に聞くと、顔を真っ赤にさせて慌てだした。なんつー純粋さ…。

「着替えだ。下着とかの。」

「あ、あぁ。Cカップだよ?」

「そうか。わかった。」

詩織が風呂場に向かった瞬間動揺した。
そのサイズのブラを持ってねぇ!

私はEカップだからまず無い!買いに行かないと。

もう、お店は開いているな。

ガラガラガラッ!

「詩織ー!」

脱衣所のドアを開けて、お風呂場に向かって叫ぶ。

「なぁーにー?」

「ちょっと買い物行ってくるなぁ!」

「え?!私も行きたい!」

「え?!あ、あぁ!わかった!とりあえず今日の詩織の服買ってくる!」

「わかった!」

まさか、一緒に行きたいというとは。

とりあえず急ごう。

近くにある、洋服専門店や下着専門店に行って詩織に似合いそうな服を数着買って家に戻る。

こんなことなら、体のサイズだけじゃなくバストも測っておくんだったと今更後悔。

「ただいま。詩織ー!服置いておくぞ!」

「うん!ありがとう!」

ガラガラッ!勢いよく扉が開き、詩織が飛び出してきた。

「ねぇ、玲菜ちゃん!この下着カワイイよー!玲菜ちゃんセンスいい!」

そう言いながら下着姿で出てきた。桜色がベースになった白色のボーダーの下着のセット。確かに似合ってはいるが…

「服を着なさい!風邪ひくぞ。」

「はぁーい。」

詩織は脱衣所に戻っていった。

はぁ、異常になつかれた気がする。

「玲菜ちゃん。この服どお?」

詩織が着てきた服は私が買ってきた白のワンピースだった。

膝上あたりの長さですごく清楚な服だ。

「それだけ?カーディガンも買ってあったはずだけど…?」

「え?これしかなかったよ?」

あれ?買わなかったっけ?

「ほら!ないよ?」

私が渡した袋を持ってきて言った。

「そっか。私の着る?少し大きいかもしれないけど。」

クローゼットを開けてレモン色のカーディガンを渡した。

「来てみな。」

「着たよ!でも、少し大きいね…。ふふ」

だろうな。私は160㎝で、詩織は150㎝ちょっと。

「まぁ、可愛いし良いんじゃないか?」

「そう?ありがとう!
玲菜ちゃんはどんな服着るの?」

「んー?これだけど?」

ハンガーにかけてあった服を見せた。

「カッコいい!私とは真逆の服だね!」

例えば、詩織は清楚系で私はストリート系と言うべきか。

詩織は、白のワンピースに黄色のカーディガン、桜色のヒール。
なのに対して、
私は黒の短パンに白の半袖ロゴT、黒のスニーカー。

その服に着替えて、服装に合うメイクを軽くした。

「詩織、ちょっと来て。」

「なにー?」

「座って。」

詩織にも服装に合わせて軽くメイクをした。

「じゃあ、行こうか。」

「うん!」

初めに詩織の家へ向かった。

親戚は詩織が帰ってきた瞬間に目の色を変え、迫ってきた。

「今日は、お話がございます。」

詩織の言葉に誰もがお金の話と思い、一瞬にして静まった。

「私は、誰のお家にもお世話になる気はございません。
私の隣にいる方にお世話になります。」

詩織の言葉に親戚一同血相を変えて怒った。

“優しくしてやったのに”とか“金はどうなるんだ”とか我が保身のため、金のため。
これが親戚か…。

「うっせーな!金のことしか頭にねー奴が人を幸せにできるわけねーだろう‼」

その場はシーンと静まり返った。キレてしまった。
最近、短気になった気がする。

「お金も会社も全て詩織のもんだ。そうだろう?秘書さん」

私の問いに丁寧に答えてくれた。

「はい。全て詩織さんのものです。会社は潰そうが何しようと詩織さんの自由となります。」

その言葉で、親戚の人たちは帰って行った。
詩織は会社を残すと決めていたらしく、会社を継ぐらしい。
秘書さんはまだ、会社に居ていいと詩織が言った。もし、新しい仕事場を探すなら全然いいし、会社にずっと残っても良いと。

「今まで、お母さんを支えてくださってありがとうございます。これからは、私たちの秘書としてお願いします!」

詩織は会社に残りたいと言った秘書さんにお礼を言った。

でも、一つ疑問がある。

「“私たち”ってなに?私も入ってるの?」

「うん!もちろん!社長は玲菜ちゃんで私が副社長!」

この子は馬鹿だ。

「はぁ、私は来月くらいには死ぬんだぞ?」

「死なせない。ずっと一緒に居てもらう!」

「気持ちだけね。ほら、買い物行こう。」

「うん!」

生きれるなら生きたい。詩織のためにも。

でも、命の限界を日々感じざるおえない。日に日に悪くなってる。

だから、私は今を楽しむ!

お金は現金でもらうことになった。私の家の金庫に私のお金と一緒にしまうことにしたのだ。

「玲菜ちゃん!服見に行こう!」

「あぁ。」

この笑顔ももう少しで見れなくなるんだな。初めてだ。死ぬのが怖いと思ったのは…。

今は、今を楽しもう。


詩織はたくさん服を買って、アクセサリーも買って色々買っていた。

「玲菜ちゃん。おそろいのネックレス買おう?」

「あぁ。分かった。買うならいいのを買おう。」

また、可愛い笑顔にやられておそろいをすることになった。
せっかくお揃いで買うなら、長持ちのするいいモノを買った方がいいと思い、専門店に行った。

私がよくピアスを買うところだ。信用できる。

「いらっしゃいませ」

お店に入ると店員さんの声が聞こえてきた。

「あら!玲菜じゃない!お久しぶりねぇ。」

お店の奥から社長の“関谷 安佳里”(せきや あかり)さんが出てきた。

「安佳里さんご無沙汰しております。」

「今日は、どんなピアスを作りに来たの?」

「いえ。今日はピアスではなくペアのネックレスを」

「後ろの子と?」

「はい。妹のような感じです。笑」

「あらそうなの?おほほ
お名前はなんていうのかしら?」

安佳里さんは詩織に興味を持ったのか目がギラギラとしている。

「や、山口詩織です!よ、よろしくお願いします!」

「おほほ!面白い子ね!詩織ちゃんね!よろしく。私のことは安佳里さんって呼んでね。」

「はい!」

「で?どんなネックレスにしたいのかしら?」

どんなネックレスが良いのだろう。
私にも詩織にも似合うネックレス…。

「うーん。これと言ってないんですよ。」

「あら、やっぱりノープランなのね!」

「はい。いつもすみません。」

「じゃあ、こんなのはどう?これは誰にも勧めたことのない特注品。」

渡された紙に載っていたのは社長のデッサンだった。
リングとリングがつながっている。

「すごい。きれいだな。」

「でしょ?まぁ、お値段はお高くなるけどこの世に一つしかない。
私のデザインよ。色は自由でいいわ。文字も彫れるわよ。どう?」

「詩織。これ、どうだ?」

「わぁ!カワイイ…。これが良い!」

「じゃあ、決定ね!各自、彫りたい文字とネックレスの色を決めるわよ。文字はお互いに相手のリングに彫るからね。」

「じゃ、先に詩織でいい。
安佳里さん話があるんでどこか開いている部屋ありますか。」

詩織を先に行かして社長に聞いた。

「あら?どんな話かしら?」

「ピアスの話」

「わかったわ。私の部屋で聞くわ。」

安佳里さんの社長室に入ってすぐ話を切り出した。

「安佳里さん。ピアスを作ってほしいんです。詩織の誕生日まで私は生きられない。詩織の誕生日は9月なんです。」

「貴方の寿命はもうそんなにないの?」

私は頷くことしかできなかった。

「ネックレスの件とピアスの件急がせるわ。他にも注文待ちお客様はいるけどみんな貴方のことは分かってくれるわ。」

「ありがとう。安佳里さん。」

「ピアスのデザインはどうするの?」

「もう決まってるんです。」

「あら、初めてのことね。いつもノープランなのに。」

「あはは、すいません。
デザインを描いてもらってもいいですか?」

「いいわよ。」

そう言うと、ペンと紙を取り出し構えた。

「色は誕生石のサファイヤ、形は……。星型。」

言い終わった後、安佳里さんは目を見開いた。

「貴方…!その言葉は!」

「うん。青星の話だろう?」

昔、安佳里さんに言ったことがあった。

““もし、死ぬまでに命に代えても守りたいと思う友達ができたら、絶対に渡したい言葉があるんだ。
『青星』って言って、太陽を除けば地球上から見て最も輝いている恒星なんだ。
私の選んだ友達は最高に輝いているって意味なんだよ。””

「もう先が長くないからさ、私の全てを詩織にあげるつもり。
そのくらい大事な子。」

「そうか。わかった。ネックレスの色と、言葉はどうする?」

「色は、シルバー。詩織のネックレスに入れる言葉は…。

From"R"
I'm with you, always
(僕がついてる。いつも。)

これでお願いします。」

「わかった。ピアスとネックレスは、どんなに急いでも一週間はかかる。まぁ、特注品だから。全部現金払いでいいわよね。」

「もちろん。来週取りに来る。あとで払う」

「詩織ちゃんが待ってるわよ。」

「はい。では、お願いします。」

社長室を出て詩織のもとに向かった。

「詩織!終わったか?」

「うん!」

「スーパー行くぞー。」

「はぁーい!」


『何を考えているのか知らないけど、焦りすぎよ。玲菜
貴方はなんでも一人で抱え込みすぎなのよ。まだ希望はあるはずよ。』

安佳里が密かにそう思っているとは知らぬ玲菜であった。

「詩織。今日の夜ご飯は何を食べる?」

「んー。和食!肉じゃがとか食べてみたい!」

笑顔でそう言った詩織に疑問が頭をよぎった。

「ん?和食食べたことないのか?」

「ううん。あるけど、いつも外食で和食って言っても料亭のお料理しか食べたことない。」

「あぁ。料亭と庶民的では味は違うからな。」

「うん!庶民的なのを食べたい!」

「わかった。」

食材を買って、家に帰ると時計は5時を指していた。

まだ5時か。水神の倉庫に行くか。

「詩織、ちょっと水神の倉庫に行こうと思うんだが、来るか?」

「え?行っていいの?」

「あぁ、いいぞ。だが、私のことは話すなよ。」

「うん!もちろん、当たり前でしょ!」

私は変装の準備を済ませ、水神の倉庫に向かった。

向かっている途中で詩織が気になっていたのか、聞いてきた。

「ね、ねぇ。玲菜ちゃんってどうして変装してるの?」

「んー?鬼ってバレないためだ。あの髪色は暗黙のルールで鬼しかやってはいけないことになってるからな。」

「そうなんだ。玲菜ちゃんは大変だね!」

「そうでもない。詩織、水神の前では私のことを怜奈と呼べ。」

「?うん。分かった。怜奈ちゃんだね」

「あぁ。着いたぞ。」

水神の倉庫の前に着き、詩織の第一声は…。

「うわぁ!すごい大きい。暴走族の倉庫ってもっと汚いのかと思った。」

「あはは、それは偏見だな。入るぞ。」

「うん!」

中に入ると、下っ端の人たちが挨拶をしてくる。
私は頭を下げているが、詩織はまだ暴走族が怖いのか私の手に掴まって離れない。

奥に行き、階段をのぼり扉を開けた。

「来ましたよ。」

怖いのか、詩織は黙ったまま私の手に掴まっている。

「わぁ!怜奈ちゃん!今日、迎えに教室まで迎えに行ったのに休みってどういうこ…と…。って、後ろのかわいい子誰?!」

美希は興奮気味に私に怒っているけど、私の後ろを見て大声を出した。

「し、詩織です。よろしくお願いします。」

私の後ろに隠れながら挨拶をした。

「私は、桐本美希!美希って呼んで!詩織ちゃん!」

「は、はい!美希ちゃん。」

美希に警戒心を解いたみたいだ。

「美希。葵衣とお話したいことがあるので、詩織をお願いしてもよろしいですか。」

「うん!詩織ちゃん。話そう!」

「は、はい!」

詩織が美希といるのを確認してから葵衣のそばに行き耳打ちをした。

『話したいことがある』

「わかった。総長室に来て。」

葵衣の後ろをついていき、総長室に入った。

何もないとは思うが、一応すぐに逃げられるように扉にもたれかかった。

「話って何ー?」

「お願いがあるの。姫じゃなくてもいい、詩織を守ってほしい。
私のいない間だけでいい。お願い!」

「どうして?怜奈ちゃんが守ればー?」

「これから、私は忙しくなる。詩織だけは一人にしたくないの。
お願い!」

「じゃあ、この質問に答えてくれたらいいよ。」

「わかった。」

「本名は?」

答えたくない。でも、詩織のためなら…。

「ッ!ま、松本玲菜」

「へー!かわいいねー。じゃあ、契約成立ねー。」

「ありがとう。詩織を頼む。」

それだけを言い、部屋を出て幹部室に戻った。

そしたら、満面の笑みを浮かべて詩織が美希と話していた。
なんか、寂しいような嬉しいような。複雑な気持ちだ。

「詩織。帰るぞ」

その声に気づいた詩織は私に抱き着いて、元気に『うん!』と言って美希にバイバイ!と言って私の後を歩いた。


葵衣に本名を教えたが、いくら調べても重要なことは出てこない。
厳重にロックをかけているから…。
(水神の葵衣side)

正直、驚いた。

1人の女のためにあの怜奈が頭を下げるなんて。

余程大切な友達なのだろう。

まずは、怜奈の本名を聞き出したことだし調べますか。

カチッカチッ

しばらく、パソコンと睨めっこをしていた。

「だめだ!情報が出てこないにしてもほどがあるだろう!」

これでも俺は、世界№3のハッカーだぞ!

これは、旬でも無理という事か…。

まぁ、一応頼んでみるか。

ガチャッ

幹部室のドアを開け、旬を呼ぶ。

「なぁ、この名前ハッキングしてくれるか?」

「あ、あぁ。分かった。」

旬が部屋にこもったから、幹部室で待つことにした。

「ねぇ、葵衣。詩織ちゃんって姫にできないの?」

美希がそう聞いてきた。

「それは無理。姫は居ればいる程困る。」

「そっかぁ。詩織ちゃんってさぁ、怜奈ちゃんの話をすると笑顔になるんだよね~。」

「どんな話をしてた?!」

あの子は最も怜奈に近い存在。あの子から情報を聞き出せば…!

「それがね、詳しく聞こうとすると話してくれないんだけど、家でのちょっとした事とかだと話してくれるの。」

あの子、見た目に似合わず口が堅いのか。
なら聞き出すのは無理だな。

「はぁ。そうか。」

ガチャガチャ!バンッ!

「葵衣!ちょっと来い‼」

怖い顔をしながら部屋に入ってきたのは旬だ。

すぐに旬の後を追い旬の部屋に向かった。

「これ!見てみろ!」

パソコンの画面を覗き込んだ。そこに書いてあったのは“松井玲菜”は“鬼”として活動していると書かれていた。

「これって…!」

「これ誰の名前なんだ!」

「桜木怜奈の本名だ。これしか出てこなかったのか?!」

「あいつの?!あ、あぁ。頑張ってもこれしか無理だった。」

「そうか。このことは誰にも言うなよ。」

「あぁ。分かった。」

あいつが、あの鬼?

俺たち水神の命の恩人だというのか?

俺たち水神が作り立ての時だ。

毎日喧嘩して、武器などを使う薄汚い暴走族を潰しまわっていた時だった。鬼に助けられたのは…。

まだ、人数も数えるほどしかいなくてランクの低い汚い族を潰していた時だ。

№27の暴走族の傘下のチームを潰していた時、№27が応戦に来たんだ。

人数も少なく勝てるはずもない。

潰されそうになった時、敵でも味方でもない赤のパーカーを着た男が俺たちの相手を1人で潰した。

その時に言われたんだ。

『お前らは強くなる。もっと練習して頂点を目指せ。』

「ま、待ってくれ!名前を教えてくれ!」

『名前?周りは皆、俺を“鬼”と呼んでいる。』

「また、会えるか?」

『さぁーな。3年以内に逢えなければもう、会えないだろうな。』

それだけを言って風のように去っていった。

あの言葉の意味はいまだに分からないが、あの日から俺らは強くなった。頂点も獲った。

あとは、鬼に会えれば…。



最近、鬼は女だと言われてきている。

もし、怜奈が鬼ならつじつまは合う。

あいつを監視する必要がありそうだ。

(水神の葵衣side・END)