あの、葵衣に頭を下げた日から一週間。

一週間の間に詩織が私と同じ学校に入ってきて、クラスも同じになって毎日が楽しかった。

倉庫に行って、詩織を倉庫に残して鬼として活動した。

水神とはそこそこ仲良くなった。詩織は全員と仲良くなったみたいでよかった。

今日は、詩織とネックレスを取りに行く日だ。

詩織と店に向かった。

「いらっしゃい。待っていたわよ!
はい、これ!」

完成した物を見た。

私はシルバーで詩織のは薄い桜色だ。

「詩織は桜色にしたんだな。」

「うん!前に、玲菜ちゃんが桜色が一番似合うって言ってくれたから!」

「そうだったか。つけてあげるから、後ろ向きな。」

詩織の首に桜色のネックレスが光る。

「これってどういう意味なの?」

リングの裏側に彫ってある文字を見て聞いてきた。

「From"R" I'm with you ,always.
(僕がついてる。いつも。)
って意味だ。」

「わぁ!いつも守ってくれているみたい!」

自分のをつけて、リングの裏を呼んだ。

「From"S" stay by me side forever.
(ずっとそばに居てね。)
詩織、ありがとうな。居れるだけ詩織のそばにいるつもりだ。」

「うん!」

「詩織、先に行っていてくれ。すぐに追いつく。」

「わかった!ゆっくり歩いてる。」

詩織が出たのを確認して安佳里さんにお金を渡し、ピアスを受け取った。

「安佳里さんありがとう。」

お礼を言って走って詩織のもとに向かうと詩織はナンパされていた。

「おい!お前ら何してんだ!」

すぐに詩織の腕をつかみ自分のもとへ引き寄せる。

「あぁ?なんだテメェ。」

「は?お前がなんだよ。
帰ろう。詩織」

詩織に帰ろうと促し、倉庫へ向かおうと進路変更し歩き出すと、

「てめぇ!調子に乗ってんじゃねーぞ!」

バコッ!

鉄パイプで後頭部を殴られた。

「いってーなぁ…。殺すぞ。」

殺気を出した。今日は鬼の格好ではない。

どうするか…。まぁ、やるしかないんだけど。

「覚悟はできてるよな?おい。」

バコッ!

私を殴ってきた男の肩を鷲掴みし、殴った。

「お、おい!こいつ、鬼だ!あの鬼だぞ!
あの髪色と耳に光る大量のピアス…。鬼だ!」

そういって、逃げて行った。

はぁ、フードなしでもバレるのか。やばいな。

「詩織、行くぞ。」

「う、うん。玲菜ちゃん、頭大丈夫なの?」

「あぁ。大丈夫だ。」

それだけ返して歩いた。

倉庫の前に来て、詩織に行った。

「病院に行ってくるわ。迎えに来るから絶対に水神といなよ。」

「うん!わかった!」

バスに乗って病院に向かった。

病院についてすぐに医院長室に向かう。

コンコンッ

「はい。」

中から孝介先生の返事が聞こえた。

「孝介先生ー。玲菜」

「は?玲菜?!」

ガチャッ!

「入るよー。」

「おまえ、連絡の一つくらいよこせよ。」

「はいはい。」

「で?最近はどうなんだ?」

「ますます悪くなっている気がする。
いつ倒れるかわからない。」

「そうか、もしかすると1か月も持たないかもしれない。」

「は?どういうこと?!具体的にどのくらい?!」

「おい、興奮するなよ。落ち着け。
まぁ、大体一週間程度だな。」

「一週間?!どうして、どうして私が…!」

「入院するか?そしたら、もっと…」

「いい。一週間でけりをつける。」

「そうか。来週には入院だぞ。」

「うん。わかってる。
今日は、帰る。」

どうしよう。急がないと。

もう、計画を実行するしかない。

「あっ、詩織を迎えに行かないと。」

水神の倉庫の前に来た時、誰かに声をかけられた。

「おい。どこまで知ってるんだ。」

「どこまでって?」

話しかけてきたのは、西ノ宮龍生だった。

「とぼけるな。俺の過去のことだ。」

「あぁ、あなたの過去のことは全て知っていますよ。」

「知って、どう思った?」

「どうと言われましても…。文章で読むだけじゃわかりません。
もし、良ければ聞かせていただけませんか?無理にとは言いませんが…?」

「どうせ、知られているんだ。隠す必要はないだろう。」

「じゃあ、話してくれるんですね。」

「おれさぁ、昔は両親と仲良かったんだ。
でも、父親の会社が倒産した日を境に両親のギャンブル依存症、アルコール中毒が始まって、虐待された。
それが、小3の時だった。
それで、虐待から二年たった時マンションの隣の住人が夜中の物音が激しいって警察に通報したんだ。それで、両親の虐待がわかって俺は養護施設行き。
中学になるころには、荒れて、喧嘩ばっかりやってた。
その流れで、水神に入ったんだ。」

西ノ宮龍生の過去は壮絶だ。実の親からの虐待。
きついだろうな。

「へぇ、そう。話してくれてありがとう。
文章より頭に入ってくる。」

「おまえは、同情しないんだな。」

「そんなのしてどうするの。されたくないでしょ。
同情は一番腹立つ。」

「そうか。俺のことは龍生って呼べよ。俺も怜奈って呼ぶから。」

「う、うん。ねぇ、龍生。詩織呼んでくれない?」

「帰るのか?」

「うん。時間がないから。」

「そうか。じゃあな!」

ドキッ!

そう言って、満面の笑顔で倉庫の中に入っていった。
なんか、懐かれた?今のドキッってなんだ?

「玲菜ちゃんー!帰ろう!」

龍生が入って、すぐに詩織が来た。

「あぁ。夜ご飯はどうする?」

「んー。オムライス!」

「わかった。」

部屋に入り、キッチンに向かいオムライスを作った。

10分後

「詩織!できたぞ」

「はぁーい。」

詩織はソファーに座り、オムライスを食べている。
この顔を見られるのはあと何回くらいなのだろう。

「ん?どうしたの?
ジッっと私の顔見て。」

「んー。可愛いなって思って。」

「な、なにそれ!」

「なぁ、詩織。今日病院に行っただろう?」

「うん。ごちそうさまでした。」

食べ終わりお皿を片付けに行った。

「もう、一週間くらいしかまともな生活ができないらしい。」

「え?それ本当?」

「あぁ。もう、時間がない。
いつ倒れるかわからない。」

「そっか。じゃあ、残りの時間は全部玲菜ちゃんと過ごしたい。」

「あぁ。そうだな。風呂入って寝るか!」

「うん!一緒に入ろうー。」

「しゃーねぇな。」

ごめんな。詩織。

できるなら、もっと一緒に居たかった。

龍生とももっと話したかった。
ん?どうしてここで龍生が出てきたんだ?


まぁ、とりあえず計画を実行しないと。

みんな。ごめんね。

あと3日しか残ってない。

今日は普通に学校に行ったが、行かなければよかったんだ。

朝の時点で気が付くべきだった。

朝から体調は良くなかった。あの鈍感な詩織に心配されるくらいだ。

その状態で学校に行き、普通に授業を受けていたときだった。

「はぁ、はぁ。うっ、ふぅ。はぁ。」

これはちょっとやばい。

「玲菜ちゃん大丈夫?」

前の席に座っている詩織が小さな声で聞いてきた。

「いや、やばい。保健室行ってくる。
先生に言っといて。」

「わかった。気を付けてね。」

ガラガラガラッ! 

やばい。これはマジでダメなやつだ。

「はぁ、はぁ。」

胸が苦しい。心臓が痛い。

保健室に行くのには階段を下りないといけない。でも、そんな余裕はない。

このまままっすぐ行けば職員室だ。そこに行こう。


ガラガラガラッ!

「はぁ、はぁ。この、大学、病院の…医院長…を、はぁ、呼ん、でもらえ…ます…か?はぁ」


「え、えぇ。わかったわ!」

戸惑っていたが、迅速な対応をしてくれたおかげで倒れる前に孝介先生が来た。

そのまま、大学病院に運ばれた。

「はぁ、無理はするなと言っただろう。」

「ごめん。でも、あと3日。
明日にはけりをつける。」

「わかった。入院の準備しとくぞ。」

「うん。ありがとう。」

その日は、詩織に連絡をして病院に泊まり、次の日の朝、家に帰った。

家に着いた時には9時を過ぎていた。

詩織はもう、学校に行ったみたいだ。

詩織のことは水神に任せたから大丈夫だろう。
もし、詩織に何かあれば水神を許すことはできない。

詩織は学校にいるから、今のうちに計画の準備をしよう。

準備が終わったら学校に入院のことを言いに行こうと思っている。


計画は明日の朝に実行する。

計画の準備を終えて、学校に向かった。

今は授業中だから、誰にも会うことはないだろうから人目を気にしなくていい。

職員室前に着いた。

コンコンッ

「失礼します。」

「どうかしたの?昨日は大丈夫だった?」

クラスの担任が目の前に来た。

「はい。迷惑をおかけしてすみませんでした。」

「迷惑なんて!」

「実は、大切なお話があってきました。
昨日の時点で察してらしたかもしれませんが、日常生活が危うくなってきました。
明日、入院することにしました。今日を持って、学校を退学します。」

「そっか。私は、少しでも長くあなたが生きていられることを祈ってます。」

「はい。ありがとうございます。
あの、病気の件もも退学の件もクラスの人たちへの報告は先生に任せます。でも、明後日まで誰にも言わないでください。お願いします。」

「明後日まで…?何か、理由があるのね。
分かったわ。明後日みんなに全てはなさしてもらうわ。」

「なにも、挨拶できず申し訳ございません。
他の先生方にもお礼を言えていないので、申し訳ないのですが、先生方に伝言をお願いします。」

「え、ええ。ちょっと待って、録音機持ってくるわ。」

そう言って、自分のデスクに録音機を取りに行き、戻ってきた。

「はい。いいわよ。」


『“先生方、直接言えなくて声のみになってしまい、申し訳ございません。
私は今、日常生活が送れないくらい危うい状態です。
もう、入院をしなければならなくなってしまいました。
このような形で報告してしまってすいません。
こんな私を学校に受け入れてくださって、ありがとうございます。
先生方には感謝してもしきれません。ありがとうございました。
もっと、この学校で先生方の授業を受けたかったです。
もう、会えないかもしれませんが、会ったときは声をかけてください。
本当にありがとうございました!

・・・・・・

先生、全部言い終わりました。”』

「言い残すことはもうない?」

「はい。ありがとうございました。
本当に最後ですね。それでは、失礼します。」

「頑張ってね。」

「はい。」

お辞儀をして、学校を去った。

家に帰り、葵衣に電話をした。

プルプルップルプルッ

「もしもし、なにー?」

葵衣ののんきな声が聞こえてきた。

「あのさ、明日の朝9時に話があるの。
幹部みんな集めておいてほしい。」

「話ってなにー?」

「明日の朝言うわ。」

「そっかー。じゃあ、明日ねー。」

「うん。」

プチッ


これで、最高で最悪の死の舞台が完成した。あとは明日、仕上げをするだけだ。

今日はまだやることが残っている。

“鬼”としてではなく、1人の女として喧嘩をしに行くのだ。

7時まで待って繁華街に向かう。

今は、体自体が弱ってしまっている。もしかすると、犯されるかもしれない。それほどの覚悟。

歩くだけでも疲労を感じる。

繁華街に着き、いきなり絡まれてしまった。

「おい、そこのねぇーちゃん。
ここに来たってことはヤられに来たってことだよなぁ?」

ニヤニヤしながら男3人が向かってくる。気持ちの悪い奴ら…。

「いいよ。やろうよ。」

「ハハハ、そうか!それじゃあ遠慮なく!」

その声とともに、3人一斉にかかってくる。

ヒュッ!バキッン‼

2人を避け、後ろの1人の顔面にパンチをくらわした。

「う”ぅ”…。」

バキッ!

もう1人を殴る。だが、

バコッ!

私の頭を鉄パイプで殴ってきた。振り向くと、最初に殴った男が後ろにいた。

「調子に乗りやがって!」

その男に気を取られていると、ガシッ!っと、もう一人の男に羽交い絞めされ、身動きが取れなくなってしまった。

まぁ、今日の本来の目的は殴られること。

理由は、明日分かるよ!

でも、これはやばい。

バコッ!ボコッ!

鉄パイプで殴られまくっていると、もう一人が起きた。

「イッテェー。このクソ女…。」

バコッ!

顔面殴られたんですけどー!いや、いいけど痛いよ!

ダメだ。このままだと気絶しちゃう。

いい加減反撃しないと…。

グリッ!

羽交い絞めしている男のみぞおちを肘でえぐった。

声にならないうめき声をあげながら、倒れた。

前の男に回し蹴りをして2人同時に吹っ飛ばした。

帰ろう。これはさすがにやられすぎた。

家に帰ると、すでに詩織が帰っていた。

何もなかったかのように装った。

「ただいま。」

「玲菜ちゃん!おかえり。ご飯作ったよ!」

詩織がエプロン姿でお出迎えしてくれた。

「そのエプロン似合ってるな。」

「そう?!ありがとう!美希ちゃんがプレゼントしてくれたの。」

「そっか。よかったな。」

「お鍋作ったの!簡単なもしか作れないから!」

「そうか。詩織が作ったのなら食べよう。」

「本当?やったー。」

リビングにはお鍋が置いてあった。
「「いただきます(!)」」

「うん。おいしいな、上出来だ。」

「やった!玲菜ちゃんに褒められた!」

詩織とはもう、一緒に居れないな。今日で最後か…。

「詩織、今日は水神の倉庫に行ったのか?」

「行ったよ!でも、すぐに帰ってきたの。
玲菜ちゃんが帰っているかもしれないと思って‼」

「1人で帰ってきてないよな?」

「うん!送ってもらったよ!」

「そうか。あっ、明日も水神の倉庫に行くよな?」

「うん!行くよ。」

「明日、みんなに話があるから、昼から来てくれないか?」

「え?話?」

「あぁ。大事な話だ。」

「そっか。分かった!」

「じゃあ、もう寝ようか。」

「うん!」

明日の朝、すべてのけりが付く…。

計画実行は明日の朝だ。

朝8時に自然に目が覚めた。

今日が、計画実行日。そして…何もかもなくなる。

8時30分に家を出て、水神の倉庫に向かった。

計画が終われば、最悪の死を待つだけの入院が待っている。

私の計画の内容はこうだ。

      ↓

現姫の美希ちゃんを裏切り者に仕立て上げる。でも、水神は美希ちゃんを信じるだろう。
そうして、私はみんなに嫌われる。
ただそれだけだ。昨日のけがもそのためにのものだ。


もう、体の自由が利きにくくなっている。
もう、そろそろ危うい。

倉庫に着き、中に入った。

朝が早いせいか、下っ端の人たちが寝ていたりいない人が多かったからか、いつもより幹部室に着くのが早い気がした。

「あ、あの…。」

部屋に入ってすぐ、声をかけた。
幸い、美希ちゃんは居なかった。

「お話とは何ですか?」

旬が聞いてきた。

「あの、実は美希ちゃんのことで…。」

「美希がなんだ?」

私の言葉に続いて、雅也が聞いてきた。

「私、言おうか迷ったんだけど…。
昨日美希ちゃんが男の人たちを使って、私をケガさせたの。」

「はぁ?美希がそんなことするはずないだろう?!」

雅也が反抗した。

「怜奈。大丈夫か?けがの手当てをしよう。」

旬が私のけがの手当てをしてくれた。

「旬、ありがとう。
雅也の言う通りかもしれない。もしかしたら、私のか違いだったかもしれない。
でも、赤いリボンをつけていたからそうだと思ったんだけど…。」

「赤いリボン…。あっ!」

雅也が反応した。
それもそのはず、赤いリボンは昨日美希ちゃんがつけていたから私には知るはずもないもんね。
まぁ、学校から出ようとしたら美希ちゃんを見かけたから知っている。

ガチャッ!

「みんなー!ヤッホー…!
…。どうしたの?怜奈ちゃん!」

突然美希ちゃんが入ってきた。
手当てをされている私を見て驚いている。

「どうしたの?って、美希ちゃんが男の人たちにさせたんでしょ?!」

「え?私そんなことしてない!」

「う、嘘つかないで!」

「なぁ、美希。裏切ってないよな?」

雅也が美希ちゃんに聞いた。

「私じゃない!」

「でも、美希ちゃん私に言ったよね?
姫は私だけでいいの!水神にもう、関わらないで!そう言ったよね?!」

「言ってないよ!みんな信じてよ!」

「美希、もう一度聞く。裏切ったのか?!」

雅也が、力強く聞いた。

「私は裏切ってない‼」

美希ちゃんも力強く言い返した。
これは、もう信じるだろうな。

「そうか。俺は信じる。」

雅也は信じた。

「はぁ、もういい加減にしなよ。玲菜ちゃん」

「「「「玲菜ちゃん?!」」」」

葵衣の言葉にみんなが叫ぶ。

「どういうことだ?怜奈。」

一番初めに聞いてきたのは龍生だった。

「ごめんね。龍生
玲菜は私の本名。桜木怜奈は偽名で、本名は松井玲菜よ。」

「どういうこと?怜奈ちゃん
私いじめてないよね?どうしてうそをついたの?」

美希は悲しそうな、でも怒りを含めた声で強く言った。

「どうして?そんなの決まってるでしょ?
姫になりたかったの!フフフ
ごめんね?みんな」

私が軽く言うと、

「はぁ?!ふざけんなよ!
心配したこっちの気持ちも考えろよ!」

雅也が激怒した。

「あんた、ふざけんのも大概にしろよな。」

私の手当てをしていた旬も、静かにキレた。

「はいはい。すいませんでしたー!私は姫になりたかっただけよ。
じゃあ、もうここには一生来ることはないけど…。
じゃあねー!」

そう言って、足早に倉庫を去ろうとした。
倉庫を出たあたりで誰かに肩を掴まれた。

「な、なに?!」

叫んで、後ろを振り返るとそこにいたのは葵衣だった。

「なに?葵衣」

「玲菜ちゃんは、嘘つくの下手になったね。」

「はぁ?なんのことよ。」

「姫のこと。なろうと思えばなれたでしょ?
俺が姫にならないかって言ったとき、断ったのは玲菜でしょ?」

「あぁ、確かに。まぁ、いいじゃん。なんでも。」

「俺には教えてよ。」

「簡潔でよければ。」

「理解ができれば何でも」

早く、孝介先生のところに行かないといけないのに。

「入院しないといけなくなったの。だからよ。」

「あぁ。それで…!ねぇ、君って“鬼”だよね?」

バレてんじゃん。ハッキングしやがったな。

「そうだけど?あっ、詩織のこと頼んだよ。もし、何かあったら連絡して。」

「ハイハイ。分かってるよ。」

「あっ、あと。この手紙を美希ちゃんに渡して。
で、この袋を詩織に渡して。もう少しで来るはずだから。
龍生たちに全部話してもいいよ。じゃあね。」

「わかった。」

急いで、孝介先生のもとに行き車に乗り込んだ。

「ちょっと本気でやばいかも。」

「どんな状態だ。」

「呼吸がしづらいのはいつものことだけど、歩くのにも疲労を感じてる。何をするのも辛い。」

「そうか、相当進行しているな。病院に戻ったら検査だ。」

「うん。分かってるよ。」

この日から、退屈な退屈な恐怖の死を待つだけの入院生活が始まった。
(水神の葵衣side)

玲菜がいなくなってから、部屋の空気は最悪だ。

何を言えばいいかわからない。そう思っていると、

ガチャッ

「こんにちわ」

「あぁ、詩織か。」

詩織が入ってきた。

「あ、あのぉー、怜奈ちゃんが来ているはずなんですが…?」

「あぁ、玲菜なら帰ったよ。」

旬が言った。
すると、詩織の顔が驚きに変わった。

「え?名前…。どうして知っているんですか?」

「あぁ、それは…」

俺は、詩織が来るまでのことを話した。

「それで、皆さんは玲菜ちゃんの嘘の言葉を信じたんですか?」

「嘘の言葉?あぁ、美希をはめるための言葉か…。」

雅也が納得したように言った。

「違います!」

突然、詩織は大きな声を出した。

「その言葉ではありません!葵衣ならわかるはずです!
姫の勧誘しましたよね?私、玲菜ちゃんから聞いたんです!
葵衣に、“水神のもう一人の姫にならないかって誘われて、断ったと”」

「は?葵衣。どういうことですか。」

旬が疑うような視線を向けてきた。

「はぁ、話がある。まず、美希。玲菜からだ。」

そう言って、預かった手紙を渡した。

「え?私?どうして…?」

「そして、あとは詩織だ。これ」

玲菜から預かった袋を渡した。

「俺が玲菜から聞いたことを言おうと思う。
だが、その前にまずは美希と詩織。玲菜からもらったやつを見ろ。」

(水神の葵衣side・END)
(水神の美希side)

「まず、玲菜からもらったものを見ろ。」

葵衣の言葉に従って、玲菜ちゃんからもらった手紙を読んだ。

そこにはこう書かれていた。

_____________________

美希ちゃんへ

ごめんね。気づつけるようなことをしたのは間違っていると思ってます。

でも、私には時間がなかったのでこの方法しかありませんでした。
どうしてもみんなに嫌ってほしかったのです。
でも、みんな美希ちゃんのことを信じたでしょ?
みんないい人たちだもんね!

こんなひどいことをしたのに、こんなお願いをするのは厚かましいかもしれないけど、これからも詩織と仲良くしてください。

どうか、詩織をお願いします。

もう、私は詩織のことを見守れません。お願いします。

本当にすいませんでした。

松井玲菜

____________________


謝罪文と詩織ちゃんに関することが書かれていた。

「うそ…。そんなことって」

「どうしたんだ?美希」

私がつぶやいた言葉に雅也が反応した。

「そ、それが…この手紙、私への謝罪と詩織ちゃんに対することしか書かれていないの。」

「はぁ?どういうことだよ。
あいつ、ケガまでして…。」

雅也の言葉に詩織が即答で返事をした。

「はぁ?ケガ?どういうことよ!昨日、そんな怪我無かったよ!」

「いや、明らかにあれは複数犯に殴られた後でした。
それも、結構新しい傷が…。」

詩織の言葉に旬が答えた。

「昨日…。あっ、そういえば昨日玲菜ちゃん長袖だった。」

「傷を隠していたってことか?」

詩織の後に雅也が尋ねた。

「今思えば、そうかもしれない。
もしかしたら、相当前から計画していたのかも。」

詩織の言葉に場が凍り付いた。

「詩織。詩織のを開けてみな。」

葵衣が詩織に言った。

「わかった。」

(水神の美希side・END)
(詩織side)

玲菜ちゃんは葵衣に大きめの袋を私宛に預けた。

中を覗くと、いろいろある中で先に目が留まったのが指輪の箱のようなものだった。

「なに…これ?」

そのケースを取り出し、開けると…

中には、大きくも小さくもないちょうどいい大きさの、星形のサファイヤのピアスが入っていた。

「こ、これって…。青星だ。」

「青星って、あの恒星の青星か?」

旬が聞いた。

「うん。こういうのを専門に扱うお店の社長さんが教えてくれたの。

“玲菜はもし、自分に命よりも守りたい友達ができたら、あなたは青星だって言ってあげるの。青星は恒星の中で一番輝いている星なの。だから、私の一番の友達は誰よりも輝いているって言う証なの!って言ってたのよ。”

って、教えてぐれたの…!」

私は泣いてしまった。

「本当に詩織が大切なんだな。」

葵衣がそんなことを言った。

「え?」

私が問い返すと、葵衣は

「さっき、帰る時も詩織が水神に初めて来た時も言われた。
もし、詩織に何かあれば許さない。
私のいない間は、詩織のことを何が何でも守って。
頼んだよ。
ってさ。詩織は愛されてるね。」

葵衣の言葉を聞いてびっくりした。

玲菜ちゃんがそんなこと言ってたなんて。

袋の中にはまだあった。手紙だ。

「手紙…!」

そこに書いてあったのは

____________________

詩織へ

突然いなくなってごめんな!
実はさ、心臓がやばくて日常生活が困難になるくらいやばいんだ。

死ぬなら一人の方がいいし、見舞いも面倒くさいだろう?
だから、あえて病院も教えなかったんだ。ごめんな。

まぁ、これからは私がいないものとして生活しな。マンションにはずっと住んでていいからな。あと、私が死んだときの遺産は全部詩織のものだから好きに使えよ!

墓はいらねーから作ってねぇーし。

あとは、水神に任せてあるから美希ちゃんと仲良くしろよ。私のことは探すなよな。

私はどこに居ても、詩織の味方だ。

『僕がついてる。いつも。』

元気でな、頑張れよ!水神に守ってもらえ。

松井玲菜

____________________


「うそでしょ…?!玲菜ちゃん!うわぁぁぁぁぁぁぁん‼‼」

私は大泣きした。
周りのみんなはびっくりしたみたいだけど、そんなのお構いなしに泣いた。

5分後

少し落ち着き、冷静さを取り戻した。

「すいません。急に泣いたりなんか…。」

「ねぇ、詩織。その手紙見して。」

「うん。はい。」

私は、葵衣に玲菜ちゃんからの手紙を渡した。

葵衣は読み終わってから、私に聞いてきた。

「あのさ、玲菜って何の病気?」

「「「「「玲菜(ちゃん)が病気?!」」」」

「え?葵衣、そのことも知ってたの?」

私の後ろですごい殺気を放つものが一人…。

「龍生。殺気をしまえ。
嫉妬心まるわかりだぞ。」

「チッ」

旬が瞬時に指摘を入れてくれた。

「で?さっきから意味の分からない話をするな。
説明をしろ。葵衣の疑問が解ける度に、俺らの疑問が増える。」

旬の言葉に他の3人も頷く。

「えっと、超簡潔に言うと…。
玲菜は、あの伝説の最強の“鬼”で…」

「「「はぁ?!あいつが鬼?!」」」

「あぁ。」

美希ちゃん以外は納得した。

「で、美希を裏切り者に仕立て上げたのは嫌われるため。
端から、美希は信用されると確信があったんだろう。
最後に、病気。それが嫌われたい理由だと思う。」


みんなの顔が暗くなった。

「詩織。で、何の病気なんだ?」

葵衣の言葉に我に返り、質問に答えた。

「詳しくはわからないですけど、心臓の病気で、治すには高額なお金と治す技術、それに心臓移植のドナーが必要だそうで、中学の時にはもう、余命宣告を受けてたらしくて、最近はすごく危ない状態だそうです。

それに、今行っている病院には行ってないらしいですけど、脳にも病気があって、腫瘍があるらしくて手術適用外らしいです。」


壮絶すぎたのか、他の4人はもちろん葵衣ですら、絶句だ。

「あ、あの、みんなにお願いをしていいですか?」

「な、なんだ?」

旬が口を開いた。

「玲菜ちゃんの病院を探すのを手伝ってください!
お願いします!」

私の言葉に対して、初めに声を出したのは龍生だった。

「俺は手伝いたい」

龍生の言葉にみんなが賛成した。

「明日から始めるか。今日は疲れただろう。
明日に備えて休め。」

葵衣の言葉に甘えて、今日はみんな家に帰った。

(詩織side・END)
(詩織side)

あの次の日から3日間探し始めたが、手掛かりは何もない。

学校も退学してしまっていて、病気のことなどを先生が話した。

クラスの人たちは驚いていたが、私たちはそれどころじゃない。

あの日、家に帰ると玲菜の服やPC、バッグなどが消えていた。

本当に死を待つことしかできないの?

詩織は何も悪いことしてないじゃん。

神様は意地悪だ。

「詩織ー!手がかりを見つけたぞ!」

旬が走って向かってきた。

「ほんと?!どんな情報?」

「学校で、白衣を着たイケメンが玲菜を抱えて駐車場の方に消えていったって、その日職員室の前で見たってやつがいたんだ。」

「っていうことは、学校の先生なら知ってるってこと?」

「そういうことだ!行こう!」

これで、玲菜ちゃんに近づいてきた。

早く玲菜ちゃんに会いたい!
その思いが日に日に強くなっている。


でも、そう簡単には会えなかった。

先生に聞きに行くと、『その情報は言えない。』と言われた。

先生たちが知っているのは確か。

多分、れい玲菜ちゃんに口止めされているのだろう。

どこまでも計算高いなぁ!れいな玲菜ちゃんは…!

ピロリンッ!ピロリンッ!

LINEの音が聞こえ、画面を確認するとそこには玲菜ちゃんからのものだった。


「旬!玲菜ちゃんからLINE来た!」

「え?まじで?」

2人で画面を覗き込んだ。

内容は、

『探さないでっていったでしょ?』

それだけだった。

でも、その数秒後にまたLINEが来た。

『そこから近い大学病院だ。玲菜の悲惨な姿を見ても軽蔑をしないと言えるなら、来い。』


と…。悲惨な姿?そんなのどうでもいい!
玲菜ちゃんに会いたい。


「旬、みんなに連絡回して。
私たちは先に行こう。」


「あ、あぁ。」


私たちは急いで病院に向かった。

病院の受付あたりで、スラッっと身長が高くいかにもイケメンな感じの人が立っていた。

「あ、あの!」

「あぁ!君が詩織ちゃんか!玲菜から話は聞いていたよ!」

「あ、あの玲菜ちゃんに会わせてください‼」


「「俺たちも!」」

あとから、ぞろぞろときた。

これで、水神幹部全員揃った。

「じゃあ、まずは玲菜に会わせる前に病気の説明からする。

今、とても危険な状態だ。本人もほとんど寝たきりに近い状態。

新たに、心臓とは別の手術適応外の脳腫瘍が見つかった。

心臓は鼓動が遅く、血液の循環が悪くなっていて体が動かしにくくなってる。食欲もなく、やせ細っている。

大体のことを大雑把に説明した。

これを聞いてもまだ会いたいか?」


そんなの決まってる。

「「「「「「会いたい‼‼」」」」」」

全員一致で決まった。

でも、その先に待っていたのは恐ろしい現実だった。

ガラガラガラッ

「玲菜入るぞ。」

先生の言葉に玲菜ちゃんの反応はない。

シャー!

玲菜ちゃんを囲っていたカーテンが開くと、玲菜ちゃんの驚くべき姿が目に飛び込んできた。

その姿に私を含め、みな絶句した。

だって、あの華やかで美しかった面影はなく、点滴に繋がれている様は痛々しかった。

体は、やせ細っているなんて次元じゃない。

酸素マスクをしているが、息はしづらそうだ。

「こ、これが、あの生意気な玲菜か?」

あまりの違いに、雅也が無理やり絞り出した声でつぶやいた。

でも、私にはわかる。

この人は玲菜ちゃんだ。だって、私とお揃いのネックレスをしているから。

「玲菜ちゃん‼私!詩織だよ?わかる?」

玲菜ちゃんは意識はあるみたいだ。

「し…、お………り…?」

途切れ途切れの声で返事をしてくれた。

「こ……な、く…………て、も、い………い、……て………い、たの……に……。」

「ごめんね。どうしても玲菜ちゃんに会いたくて…!
さがしちゃった!」

私が、泣きながらおちゃらけて言うと、玲菜ちゃんは少し微笑んで、

「はぁ、…ば………か、だ……ね。」

玲菜ちゃんの呼吸が少し荒くなってきた。その時、

「面会は終了だ。」

先生が言った。当たり前だろう。玲菜ちゃんの体が一番だ。

「あの、先生。玲菜ちゃんの今の状態をもっと詳しく教えてください。」

「わかった。外出ろ。」

外に出ると、深刻な顔をして話し始めた。

「みただろう?あの姿。
もう少しで玲菜は死ぬ。脳腫瘍は既に手術のできない状態になっていて、根治は無理だ。

心臓は、アメリカの大病院なら5%の確率で治せる医者はいるだろう。でも、アメリカの大病院の金額は膨大だ。

もし、お金を工面できても、今の玲菜じゃ飛行機なんてもってのほか、この場から動かすのも危険だ。

アメリカに行けても、ドナーが見つからないと意味がないから。
玲菜の場合、治すまでの障害が多すぎるんだ。

玲菜は覚悟を決めたみたいだ。

死を待っている。」


「なに…。それ?私たちはのうのうと玲菜ちゃんのことを忘れて生きて行けっていうの?!」

病院に来て初めて美希ちゃんが喋った。

「本当に、このまま何もできないの?」

「あぁ、手は尽くした。ドナーも、アメリカの病院もお金も。
でも、手術をやってくれる医者がいなんじゃ無理なんだ。
成功する確率は、0%に等しいんだ。

悔しいけど、もう後は何もしてやれないんだ!

俺だって何とかしたいよ!でも、できないんだよ…。」


全員が泣いていると、

「久本医院長‼松井玲菜さんの容態が悪化しました‼」

その言葉で、先生の後に続いて玲菜の病室に急いだ。

ガラガラガラッ‼

玲菜の病室に入ると、規則的にピーッ!ピーッ!と鳴り響き、機械が赤く光っていた。

その状況は医療の分からない私たちにもわかるくらい十分すぎる情報だった。

「君たち、一回病室から出てね。」

看護師さんに追い出され、中の状況がわからない状態だ。

でも、ずっとピーッ!ピーッ!となっているのが聞こえる。

音が止まり、私たちは一安心した。

ガラガラ

病室から出てきた先生の顔に色はない。

先生の言葉を待つ。

「すまない、全力は尽くしたんだが…。
病室に入っていいぞ。」

みんな、病室に駆け込んで中にはいたが、死んだのだと一瞬わからなかった。もしかしたら、と言う期待を込め、玲菜ちゃんに近づいて声をかけた。

「玲菜ちゃん?起きてるよね?」

そう聞いても、さっきのような返事は帰ってこない。

「ねぇえ!玲菜ちゃん?起きてよ!!
玲菜ちゃん!おきてよ!玲菜ぢゃん!うわぁぁぁぁぁあ!」

私は泣き崩れた。

他のみんなも泣き崩れていた。

「玲菜ぢゃん‼」

そこからの記憶なんてない。

唯一覚えているのは、玲菜ちゃんのお葬式で呆然と1枚しかなかった玲菜ちゃんの笑っている写真くらい。

水神の人たちも同じだろう。

お葬式も何もかも先生に任せっぱなし。

理由もなく、ただただ水神の倉庫で呆然とする日々が続いた。

2日くらい経ってから、先生が水神の倉庫に来たんだ。

大きな大きな荷物を持って。

その荷物の正体は、玲菜ちゃんがまだ動けたときに、PCで私たちが玲菜ちゃんを探していることを知って、自分が死んだ後に渡すつもりの贈り物だった。

中には、1人ずつ手紙とブレスレットが入っていた。
これも、特注品なのだろう。それぞれの誕生石を調べ、水神の下っ端も含め全員分。色違いで入っていた。幹部にはブレスレットと誕生石のピアスが入っていた。

先生は、万年筆とネクタイとネクタイピンだったそうだ。

全員に向けての言葉が先生によって告げられた。


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みんな。腐ってるんじゃないだろうな?!

私が死んで腐ってたら許さないからな!

みんなは悔いのない人生を送ってください!


旬、家のこと。けりをつけなさい!

雅也、好きなら私みたいに後悔しないようにはっきり言いなさい!

葵衣、いい加減真面目にしろ!その腹黒ドSはマジでムカつくんだ!

美希、本当に申し訳ないことをした!素直になれ!

孝介先生、さっさと結婚しないとやばいんじゃね?

龍生、言えなくて後悔しています!龍生のことが大好きです!言えなくてごめんね!

詩織、詩織も素直になりなさい!あの家、あと30年住めるから!がんばって!


みんなはいろいろ経験してきているから、どんな人の立場でもわかるはずです。

やりたいことは諦めず挑戦してください。私はみんなの味方です!

残りの人生頑張ってね!勝手に死んでごめんなさい!

ありがとう。

松井玲菜

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また泣き崩れて、みんな正気を取り戻し、みんな初の玲菜ちゃんのお墓参りに行くことになりました。


(詩織side・END)
(詩織side)

みんなで、お墓参りに来る予定でしたが色々忙しいみたいなので私一人できました。



ねぇ、玲菜ちゃん!

報告が色々とあります!


龍生も玲菜ちゃんのこと好きだったみたいだよ!

それとね、美希ちゃんと雅也が付き合うことになって、私も旬と付き合うことになったの!

それとね、私たち全員医療関係に就こうと思って勉強中です!

私のお母さんの会社は秘書さんに渡しました!

実は、秘書さんと久本先生が今度結婚するんだよ!
意外だった(笑)

で、私と美希ちゃんは看護師になろうと思ってて、旬は外科医で雅也は内科医になるんだって!

そして葵衣は、麻酔科医だって‼

最後に、玲菜ちゃんが一番知りたいであろう龍生は旬と一緒の外科医!

玲菜ちゃんのように手術適応外をなくすんだって!

玲菜ちゃん愛されてるねぇー!

まぁ、大体の報告は終わりかな?

つぎはみんなで来るから!

じゃあ、いつまでも見守ってね!

(詩織side・END)