「詩織。今日の夜ご飯は何を食べる?」
「んー。和食!肉じゃがとか食べてみたい!」
笑顔でそう言った詩織に疑問が頭をよぎった。
「ん?和食食べたことないのか?」
「ううん。あるけど、いつも外食で和食って言っても料亭のお料理しか食べたことない。」
「あぁ。料亭と庶民的では味は違うからな。」
「うん!庶民的なのを食べたい!」
「わかった。」
食材を買って、家に帰ると時計は5時を指していた。
まだ5時か。水神の倉庫に行くか。
「詩織、ちょっと水神の倉庫に行こうと思うんだが、来るか?」
「え?行っていいの?」
「あぁ、いいぞ。だが、私のことは話すなよ。」
「うん!もちろん、当たり前でしょ!」
私は変装の準備を済ませ、水神の倉庫に向かった。
向かっている途中で詩織が気になっていたのか、聞いてきた。
「ね、ねぇ。玲菜ちゃんってどうして変装してるの?」
「んー?鬼ってバレないためだ。あの髪色は暗黙のルールで鬼しかやってはいけないことになってるからな。」
「そうなんだ。玲菜ちゃんは大変だね!」
「そうでもない。詩織、水神の前では私のことを怜奈と呼べ。」
「?うん。分かった。怜奈ちゃんだね」
「あぁ。着いたぞ。」
水神の倉庫の前に着き、詩織の第一声は…。
「うわぁ!すごい大きい。暴走族の倉庫ってもっと汚いのかと思った。」
「あはは、それは偏見だな。入るぞ。」
「うん!」
中に入ると、下っ端の人たちが挨拶をしてくる。
私は頭を下げているが、詩織はまだ暴走族が怖いのか私の手に掴まって離れない。
奥に行き、階段をのぼり扉を開けた。
「来ましたよ。」
怖いのか、詩織は黙ったまま私の手に掴まっている。
「わぁ!怜奈ちゃん!今日、迎えに教室まで迎えに行ったのに休みってどういうこ…と…。って、後ろのかわいい子誰?!」
美希は興奮気味に私に怒っているけど、私の後ろを見て大声を出した。
「し、詩織です。よろしくお願いします。」
私の後ろに隠れながら挨拶をした。
「私は、桐本美希!美希って呼んで!詩織ちゃん!」
「は、はい!美希ちゃん。」
美希に警戒心を解いたみたいだ。
「美希。葵衣とお話したいことがあるので、詩織をお願いしてもよろしいですか。」
「うん!詩織ちゃん。話そう!」
「は、はい!」
詩織が美希といるのを確認してから葵衣のそばに行き耳打ちをした。
『話したいことがある』
「わかった。総長室に来て。」
葵衣の後ろをついていき、総長室に入った。
何もないとは思うが、一応すぐに逃げられるように扉にもたれかかった。
「話って何ー?」
「お願いがあるの。姫じゃなくてもいい、詩織を守ってほしい。
私のいない間だけでいい。お願い!」
「どうして?怜奈ちゃんが守ればー?」
「これから、私は忙しくなる。詩織だけは一人にしたくないの。
お願い!」
「じゃあ、この質問に答えてくれたらいいよ。」
「わかった。」
「本名は?」
答えたくない。でも、詩織のためなら…。
「ッ!ま、松本玲菜」
「へー!かわいいねー。じゃあ、契約成立ねー。」
「ありがとう。詩織を頼む。」
それだけを言い、部屋を出て幹部室に戻った。
そしたら、満面の笑みを浮かべて詩織が美希と話していた。
なんか、寂しいような嬉しいような。複雑な気持ちだ。
「詩織。帰るぞ」
その声に気づいた詩織は私に抱き着いて、元気に『うん!』と言って美希にバイバイ!と言って私の後を歩いた。
葵衣に本名を教えたが、いくら調べても重要なことは出てこない。
厳重にロックをかけているから…。
(水神の葵衣side)
正直、驚いた。
1人の女のためにあの怜奈が頭を下げるなんて。
余程大切な友達なのだろう。
まずは、怜奈の本名を聞き出したことだし調べますか。
カチッカチッ
しばらく、パソコンと睨めっこをしていた。
「だめだ!情報が出てこないにしてもほどがあるだろう!」
これでも俺は、世界№3のハッカーだぞ!
これは、旬でも無理という事か…。
まぁ、一応頼んでみるか。
ガチャッ
幹部室のドアを開け、旬を呼ぶ。
「なぁ、この名前ハッキングしてくれるか?」
「あ、あぁ。分かった。」
旬が部屋にこもったから、幹部室で待つことにした。
「ねぇ、葵衣。詩織ちゃんって姫にできないの?」
美希がそう聞いてきた。
「それは無理。姫は居ればいる程困る。」
「そっかぁ。詩織ちゃんってさぁ、怜奈ちゃんの話をすると笑顔になるんだよね~。」
「どんな話をしてた?!」
あの子は最も怜奈に近い存在。あの子から情報を聞き出せば…!
「それがね、詳しく聞こうとすると話してくれないんだけど、家でのちょっとした事とかだと話してくれるの。」
あの子、見た目に似合わず口が堅いのか。
なら聞き出すのは無理だな。
「はぁ。そうか。」
ガチャガチャ!バンッ!
「葵衣!ちょっと来い‼」
怖い顔をしながら部屋に入ってきたのは旬だ。
すぐに旬の後を追い旬の部屋に向かった。
「これ!見てみろ!」
パソコンの画面を覗き込んだ。そこに書いてあったのは“松井玲菜”は“鬼”として活動していると書かれていた。
「これって…!」
「これ誰の名前なんだ!」
「桜木怜奈の本名だ。これしか出てこなかったのか?!」
「あいつの?!あ、あぁ。頑張ってもこれしか無理だった。」
「そうか。このことは誰にも言うなよ。」
「あぁ。分かった。」
あいつが、あの鬼?
俺たち水神の命の恩人だというのか?
俺たち水神が作り立ての時だ。
毎日喧嘩して、武器などを使う薄汚い暴走族を潰しまわっていた時だった。鬼に助けられたのは…。
まだ、人数も数えるほどしかいなくてランクの低い汚い族を潰していた時だ。
№27の暴走族の傘下のチームを潰していた時、№27が応戦に来たんだ。
人数も少なく勝てるはずもない。
潰されそうになった時、敵でも味方でもない赤のパーカーを着た男が俺たちの相手を1人で潰した。
その時に言われたんだ。
『お前らは強くなる。もっと練習して頂点を目指せ。』
「ま、待ってくれ!名前を教えてくれ!」
『名前?周りは皆、俺を“鬼”と呼んでいる。』
「また、会えるか?」
『さぁーな。3年以内に逢えなければもう、会えないだろうな。』
それだけを言って風のように去っていった。
あの言葉の意味はいまだに分からないが、あの日から俺らは強くなった。頂点も獲った。
あとは、鬼に会えれば…。
最近、鬼は女だと言われてきている。
もし、怜奈が鬼ならつじつまは合う。
あいつを監視する必要がありそうだ。
(水神の葵衣side・END)
あの、葵衣に頭を下げた日から一週間。
一週間の間に詩織が私と同じ学校に入ってきて、クラスも同じになって毎日が楽しかった。
倉庫に行って、詩織を倉庫に残して鬼として活動した。
水神とはそこそこ仲良くなった。詩織は全員と仲良くなったみたいでよかった。
今日は、詩織とネックレスを取りに行く日だ。
詩織と店に向かった。
「いらっしゃい。待っていたわよ!
はい、これ!」
完成した物を見た。
私はシルバーで詩織のは薄い桜色だ。
「詩織は桜色にしたんだな。」
「うん!前に、玲菜ちゃんが桜色が一番似合うって言ってくれたから!」
「そうだったか。つけてあげるから、後ろ向きな。」
詩織の首に桜色のネックレスが光る。
「これってどういう意味なの?」
リングの裏側に彫ってある文字を見て聞いてきた。
「From"R" I'm with you ,always.
(僕がついてる。いつも。)
って意味だ。」
「わぁ!いつも守ってくれているみたい!」
自分のをつけて、リングの裏を呼んだ。
「From"S" stay by me side forever.
(ずっとそばに居てね。)
詩織、ありがとうな。居れるだけ詩織のそばにいるつもりだ。」
「うん!」
「詩織、先に行っていてくれ。すぐに追いつく。」
「わかった!ゆっくり歩いてる。」
詩織が出たのを確認して安佳里さんにお金を渡し、ピアスを受け取った。
「安佳里さんありがとう。」
お礼を言って走って詩織のもとに向かうと詩織はナンパされていた。
「おい!お前ら何してんだ!」
すぐに詩織の腕をつかみ自分のもとへ引き寄せる。
「あぁ?なんだテメェ。」
「は?お前がなんだよ。
帰ろう。詩織」
詩織に帰ろうと促し、倉庫へ向かおうと進路変更し歩き出すと、
「てめぇ!調子に乗ってんじゃねーぞ!」
バコッ!
鉄パイプで後頭部を殴られた。
「いってーなぁ…。殺すぞ。」
殺気を出した。今日は鬼の格好ではない。
どうするか…。まぁ、やるしかないんだけど。
「覚悟はできてるよな?おい。」
バコッ!
私を殴ってきた男の肩を鷲掴みし、殴った。
「お、おい!こいつ、鬼だ!あの鬼だぞ!
あの髪色と耳に光る大量のピアス…。鬼だ!」
そういって、逃げて行った。
はぁ、フードなしでもバレるのか。やばいな。
「詩織、行くぞ。」
「う、うん。玲菜ちゃん、頭大丈夫なの?」
「あぁ。大丈夫だ。」
それだけ返して歩いた。
倉庫の前に来て、詩織に行った。
「病院に行ってくるわ。迎えに来るから絶対に水神といなよ。」
「うん!わかった!」
バスに乗って病院に向かった。
病院についてすぐに医院長室に向かう。
コンコンッ
「はい。」
中から孝介先生の返事が聞こえた。
「孝介先生ー。玲菜」
「は?玲菜?!」
ガチャッ!
「入るよー。」
「おまえ、連絡の一つくらいよこせよ。」
「はいはい。」
「で?最近はどうなんだ?」
「ますます悪くなっている気がする。
いつ倒れるかわからない。」
「そうか、もしかすると1か月も持たないかもしれない。」
「は?どういうこと?!具体的にどのくらい?!」
「おい、興奮するなよ。落ち着け。
まぁ、大体一週間程度だな。」
「一週間?!どうして、どうして私が…!」
「入院するか?そしたら、もっと…」
「いい。一週間でけりをつける。」
「そうか。来週には入院だぞ。」
「うん。わかってる。
今日は、帰る。」
どうしよう。急がないと。
もう、計画を実行するしかない。
「あっ、詩織を迎えに行かないと。」
水神の倉庫の前に来た時、誰かに声をかけられた。
「おい。どこまで知ってるんだ。」
「どこまでって?」
話しかけてきたのは、西ノ宮龍生だった。
「とぼけるな。俺の過去のことだ。」
「あぁ、あなたの過去のことは全て知っていますよ。」
「知って、どう思った?」
「どうと言われましても…。文章で読むだけじゃわかりません。
もし、良ければ聞かせていただけませんか?無理にとは言いませんが…?」
「どうせ、知られているんだ。隠す必要はないだろう。」
「じゃあ、話してくれるんですね。」
「おれさぁ、昔は両親と仲良かったんだ。
でも、父親の会社が倒産した日を境に両親のギャンブル依存症、アルコール中毒が始まって、虐待された。
それが、小3の時だった。
それで、虐待から二年たった時マンションの隣の住人が夜中の物音が激しいって警察に通報したんだ。それで、両親の虐待がわかって俺は養護施設行き。
中学になるころには、荒れて、喧嘩ばっかりやってた。
その流れで、水神に入ったんだ。」
西ノ宮龍生の過去は壮絶だ。実の親からの虐待。
きついだろうな。
「へぇ、そう。話してくれてありがとう。
文章より頭に入ってくる。」
「おまえは、同情しないんだな。」
「そんなのしてどうするの。されたくないでしょ。
同情は一番腹立つ。」
「そうか。俺のことは龍生って呼べよ。俺も怜奈って呼ぶから。」
「う、うん。ねぇ、龍生。詩織呼んでくれない?」
「帰るのか?」
「うん。時間がないから。」
「そうか。じゃあな!」
ドキッ!
そう言って、満面の笑顔で倉庫の中に入っていった。
なんか、懐かれた?今のドキッってなんだ?
「玲菜ちゃんー!帰ろう!」
龍生が入って、すぐに詩織が来た。
「あぁ。夜ご飯はどうする?」
「んー。オムライス!」
「わかった。」
部屋に入り、キッチンに向かいオムライスを作った。
10分後
「詩織!できたぞ」
「はぁーい。」
詩織はソファーに座り、オムライスを食べている。
この顔を見られるのはあと何回くらいなのだろう。
「ん?どうしたの?
ジッっと私の顔見て。」
「んー。可愛いなって思って。」
「な、なにそれ!」
「なぁ、詩織。今日病院に行っただろう?」
「うん。ごちそうさまでした。」
食べ終わりお皿を片付けに行った。
「もう、一週間くらいしかまともな生活ができないらしい。」
「え?それ本当?」
「あぁ。もう、時間がない。
いつ倒れるかわからない。」
「そっか。じゃあ、残りの時間は全部玲菜ちゃんと過ごしたい。」
「あぁ。そうだな。風呂入って寝るか!」
「うん!一緒に入ろうー。」
「しゃーねぇな。」
ごめんな。詩織。
できるなら、もっと一緒に居たかった。
龍生とももっと話したかった。
ん?どうしてここで龍生が出てきたんだ?
まぁ、とりあえず計画を実行しないと。
みんな。ごめんね。
あと3日しか残ってない。
今日は普通に学校に行ったが、行かなければよかったんだ。
朝の時点で気が付くべきだった。
朝から体調は良くなかった。あの鈍感な詩織に心配されるくらいだ。
その状態で学校に行き、普通に授業を受けていたときだった。
「はぁ、はぁ。うっ、ふぅ。はぁ。」
これはちょっとやばい。
「玲菜ちゃん大丈夫?」
前の席に座っている詩織が小さな声で聞いてきた。
「いや、やばい。保健室行ってくる。
先生に言っといて。」
「わかった。気を付けてね。」
ガラガラガラッ!
やばい。これはマジでダメなやつだ。
「はぁ、はぁ。」
胸が苦しい。心臓が痛い。
保健室に行くのには階段を下りないといけない。でも、そんな余裕はない。
このまままっすぐ行けば職員室だ。そこに行こう。
ガラガラガラッ!
「はぁ、はぁ。この、大学、病院の…医院長…を、はぁ、呼ん、でもらえ…ます…か?はぁ」
「え、えぇ。わかったわ!」
戸惑っていたが、迅速な対応をしてくれたおかげで倒れる前に孝介先生が来た。
そのまま、大学病院に運ばれた。
「はぁ、無理はするなと言っただろう。」
「ごめん。でも、あと3日。
明日にはけりをつける。」
「わかった。入院の準備しとくぞ。」
「うん。ありがとう。」
その日は、詩織に連絡をして病院に泊まり、次の日の朝、家に帰った。
家に着いた時には9時を過ぎていた。
詩織はもう、学校に行ったみたいだ。
詩織のことは水神に任せたから大丈夫だろう。
もし、詩織に何かあれば水神を許すことはできない。
詩織は学校にいるから、今のうちに計画の準備をしよう。
準備が終わったら学校に入院のことを言いに行こうと思っている。
計画は明日の朝に実行する。
計画の準備を終えて、学校に向かった。
今は授業中だから、誰にも会うことはないだろうから人目を気にしなくていい。
職員室前に着いた。
コンコンッ
「失礼します。」
「どうかしたの?昨日は大丈夫だった?」
クラスの担任が目の前に来た。
「はい。迷惑をおかけしてすみませんでした。」
「迷惑なんて!」
「実は、大切なお話があってきました。
昨日の時点で察してらしたかもしれませんが、日常生活が危うくなってきました。
明日、入院することにしました。今日を持って、学校を退学します。」
「そっか。私は、少しでも長くあなたが生きていられることを祈ってます。」
「はい。ありがとうございます。
あの、病気の件もも退学の件もクラスの人たちへの報告は先生に任せます。でも、明後日まで誰にも言わないでください。お願いします。」
「明後日まで…?何か、理由があるのね。
分かったわ。明後日みんなに全てはなさしてもらうわ。」
「なにも、挨拶できず申し訳ございません。
他の先生方にもお礼を言えていないので、申し訳ないのですが、先生方に伝言をお願いします。」
「え、ええ。ちょっと待って、録音機持ってくるわ。」
そう言って、自分のデスクに録音機を取りに行き、戻ってきた。
「はい。いいわよ。」
『“先生方、直接言えなくて声のみになってしまい、申し訳ございません。
私は今、日常生活が送れないくらい危うい状態です。
もう、入院をしなければならなくなってしまいました。
このような形で報告してしまってすいません。
こんな私を学校に受け入れてくださって、ありがとうございます。
先生方には感謝してもしきれません。ありがとうございました。
もっと、この学校で先生方の授業を受けたかったです。
もう、会えないかもしれませんが、会ったときは声をかけてください。
本当にありがとうございました!
・・・・・・
先生、全部言い終わりました。”』
「言い残すことはもうない?」
「はい。ありがとうございました。
本当に最後ですね。それでは、失礼します。」
「頑張ってね。」
「はい。」
お辞儀をして、学校を去った。
家に帰り、葵衣に電話をした。
プルプルップルプルッ
「もしもし、なにー?」
葵衣ののんきな声が聞こえてきた。
「あのさ、明日の朝9時に話があるの。
幹部みんな集めておいてほしい。」
「話ってなにー?」
「明日の朝言うわ。」
「そっかー。じゃあ、明日ねー。」
「うん。」
プチッ
これで、最高で最悪の死の舞台が完成した。あとは明日、仕上げをするだけだ。
今日はまだやることが残っている。
“鬼”としてではなく、1人の女として喧嘩をしに行くのだ。
7時まで待って繁華街に向かう。
今は、体自体が弱ってしまっている。もしかすると、犯されるかもしれない。それほどの覚悟。
歩くだけでも疲労を感じる。
繁華街に着き、いきなり絡まれてしまった。
「おい、そこのねぇーちゃん。
ここに来たってことはヤられに来たってことだよなぁ?」
ニヤニヤしながら男3人が向かってくる。気持ちの悪い奴ら…。
「いいよ。やろうよ。」
「ハハハ、そうか!それじゃあ遠慮なく!」
その声とともに、3人一斉にかかってくる。
ヒュッ!バキッン‼
2人を避け、後ろの1人の顔面にパンチをくらわした。
「う”ぅ”…。」
バキッ!
もう1人を殴る。だが、
バコッ!
私の頭を鉄パイプで殴ってきた。振り向くと、最初に殴った男が後ろにいた。
「調子に乗りやがって!」
その男に気を取られていると、ガシッ!っと、もう一人の男に羽交い絞めされ、身動きが取れなくなってしまった。
まぁ、今日の本来の目的は殴られること。
理由は、明日分かるよ!
でも、これはやばい。
バコッ!ボコッ!
鉄パイプで殴られまくっていると、もう一人が起きた。
「イッテェー。このクソ女…。」
バコッ!
顔面殴られたんですけどー!いや、いいけど痛いよ!
ダメだ。このままだと気絶しちゃう。
いい加減反撃しないと…。
グリッ!
羽交い絞めしている男のみぞおちを肘でえぐった。
声にならないうめき声をあげながら、倒れた。
前の男に回し蹴りをして2人同時に吹っ飛ばした。
帰ろう。これはさすがにやられすぎた。
家に帰ると、すでに詩織が帰っていた。
何もなかったかのように装った。
「ただいま。」
「玲菜ちゃん!おかえり。ご飯作ったよ!」
詩織がエプロン姿でお出迎えしてくれた。
「そのエプロン似合ってるな。」
「そう?!ありがとう!美希ちゃんがプレゼントしてくれたの。」
「そっか。よかったな。」
「お鍋作ったの!簡単なもしか作れないから!」
「そうか。詩織が作ったのなら食べよう。」
「本当?やったー。」
リビングにはお鍋が置いてあった。
「「いただきます(!)」」
「うん。おいしいな、上出来だ。」
「やった!玲菜ちゃんに褒められた!」
詩織とはもう、一緒に居れないな。今日で最後か…。
「詩織、今日は水神の倉庫に行ったのか?」
「行ったよ!でも、すぐに帰ってきたの。
玲菜ちゃんが帰っているかもしれないと思って‼」
「1人で帰ってきてないよな?」
「うん!送ってもらったよ!」
「そうか。あっ、明日も水神の倉庫に行くよな?」
「うん!行くよ。」
「明日、みんなに話があるから、昼から来てくれないか?」
「え?話?」
「あぁ。大事な話だ。」
「そっか。分かった!」
「じゃあ、もう寝ようか。」
「うん!」
明日の朝、すべてのけりが付く…。
計画実行は明日の朝だ。
朝8時に自然に目が覚めた。
今日が、計画実行日。そして…何もかもなくなる。
8時30分に家を出て、水神の倉庫に向かった。
計画が終われば、最悪の死を待つだけの入院が待っている。
私の計画の内容はこうだ。
↓
現姫の美希ちゃんを裏切り者に仕立て上げる。でも、水神は美希ちゃんを信じるだろう。
そうして、私はみんなに嫌われる。
ただそれだけだ。昨日のけがもそのためにのものだ。
もう、体の自由が利きにくくなっている。
もう、そろそろ危うい。
倉庫に着き、中に入った。
朝が早いせいか、下っ端の人たちが寝ていたりいない人が多かったからか、いつもより幹部室に着くのが早い気がした。
「あ、あの…。」
部屋に入ってすぐ、声をかけた。
幸い、美希ちゃんは居なかった。
「お話とは何ですか?」
旬が聞いてきた。
「あの、実は美希ちゃんのことで…。」
「美希がなんだ?」
私の言葉に続いて、雅也が聞いてきた。
「私、言おうか迷ったんだけど…。
昨日美希ちゃんが男の人たちを使って、私をケガさせたの。」
「はぁ?美希がそんなことするはずないだろう?!」
雅也が反抗した。
「怜奈。大丈夫か?けがの手当てをしよう。」
旬が私のけがの手当てをしてくれた。
「旬、ありがとう。
雅也の言う通りかもしれない。もしかしたら、私のか違いだったかもしれない。
でも、赤いリボンをつけていたからそうだと思ったんだけど…。」
「赤いリボン…。あっ!」
雅也が反応した。
それもそのはず、赤いリボンは昨日美希ちゃんがつけていたから私には知るはずもないもんね。
まぁ、学校から出ようとしたら美希ちゃんを見かけたから知っている。
ガチャッ!
「みんなー!ヤッホー…!
…。どうしたの?怜奈ちゃん!」
突然美希ちゃんが入ってきた。
手当てをされている私を見て驚いている。
「どうしたの?って、美希ちゃんが男の人たちにさせたんでしょ?!」
「え?私そんなことしてない!」
「う、嘘つかないで!」
「なぁ、美希。裏切ってないよな?」
雅也が美希ちゃんに聞いた。
「私じゃない!」
「でも、美希ちゃん私に言ったよね?
姫は私だけでいいの!水神にもう、関わらないで!そう言ったよね?!」
「言ってないよ!みんな信じてよ!」
「美希、もう一度聞く。裏切ったのか?!」
雅也が、力強く聞いた。
「私は裏切ってない‼」
美希ちゃんも力強く言い返した。
これは、もう信じるだろうな。
「そうか。俺は信じる。」
雅也は信じた。
「はぁ、もういい加減にしなよ。玲菜ちゃん」
「「「「玲菜ちゃん?!」」」」
葵衣の言葉にみんなが叫ぶ。
「どういうことだ?怜奈。」
一番初めに聞いてきたのは龍生だった。
「ごめんね。龍生
玲菜は私の本名。桜木怜奈は偽名で、本名は松井玲菜よ。」
「どういうこと?怜奈ちゃん
私いじめてないよね?どうしてうそをついたの?」
美希は悲しそうな、でも怒りを含めた声で強く言った。
「どうして?そんなの決まってるでしょ?
姫になりたかったの!フフフ
ごめんね?みんな」
私が軽く言うと、
「はぁ?!ふざけんなよ!
心配したこっちの気持ちも考えろよ!」
雅也が激怒した。
「あんた、ふざけんのも大概にしろよな。」
私の手当てをしていた旬も、静かにキレた。
「はいはい。すいませんでしたー!私は姫になりたかっただけよ。
じゃあ、もうここには一生来ることはないけど…。
じゃあねー!」
そう言って、足早に倉庫を去ろうとした。
倉庫を出たあたりで誰かに肩を掴まれた。
「な、なに?!」
叫んで、後ろを振り返るとそこにいたのは葵衣だった。
「なに?葵衣」
「玲菜ちゃんは、嘘つくの下手になったね。」
「はぁ?なんのことよ。」
「姫のこと。なろうと思えばなれたでしょ?
俺が姫にならないかって言ったとき、断ったのは玲菜でしょ?」
「あぁ、確かに。まぁ、いいじゃん。なんでも。」
「俺には教えてよ。」
「簡潔でよければ。」
「理解ができれば何でも」
早く、孝介先生のところに行かないといけないのに。
「入院しないといけなくなったの。だからよ。」
「あぁ。それで…!ねぇ、君って“鬼”だよね?」
バレてんじゃん。ハッキングしやがったな。
「そうだけど?あっ、詩織のこと頼んだよ。もし、何かあったら連絡して。」
「ハイハイ。分かってるよ。」
「あっ、あと。この手紙を美希ちゃんに渡して。
で、この袋を詩織に渡して。もう少しで来るはずだから。
龍生たちに全部話してもいいよ。じゃあね。」
「わかった。」
急いで、孝介先生のもとに行き車に乗り込んだ。
「ちょっと本気でやばいかも。」
「どんな状態だ。」
「呼吸がしづらいのはいつものことだけど、歩くのにも疲労を感じてる。何をするのも辛い。」
「そうか、相当進行しているな。病院に戻ったら検査だ。」
「うん。分かってるよ。」
この日から、退屈な退屈な恐怖の死を待つだけの入院生活が始まった。
(水神の葵衣side)
玲菜がいなくなってから、部屋の空気は最悪だ。
何を言えばいいかわからない。そう思っていると、
ガチャッ
「こんにちわ」
「あぁ、詩織か。」
詩織が入ってきた。
「あ、あのぉー、怜奈ちゃんが来ているはずなんですが…?」
「あぁ、玲菜なら帰ったよ。」
旬が言った。
すると、詩織の顔が驚きに変わった。
「え?名前…。どうして知っているんですか?」
「あぁ、それは…」
俺は、詩織が来るまでのことを話した。
「それで、皆さんは玲菜ちゃんの嘘の言葉を信じたんですか?」
「嘘の言葉?あぁ、美希をはめるための言葉か…。」
雅也が納得したように言った。
「違います!」
突然、詩織は大きな声を出した。
「その言葉ではありません!葵衣ならわかるはずです!
姫の勧誘しましたよね?私、玲菜ちゃんから聞いたんです!
葵衣に、“水神のもう一人の姫にならないかって誘われて、断ったと”」
「は?葵衣。どういうことですか。」
旬が疑うような視線を向けてきた。
「はぁ、話がある。まず、美希。玲菜からだ。」
そう言って、預かった手紙を渡した。
「え?私?どうして…?」
「そして、あとは詩織だ。これ」
玲菜から預かった袋を渡した。
「俺が玲菜から聞いたことを言おうと思う。
だが、その前にまずは美希と詩織。玲菜からもらったやつを見ろ。」
(水神の葵衣side・END)
(水神の美希side)
「まず、玲菜からもらったものを見ろ。」
葵衣の言葉に従って、玲菜ちゃんからもらった手紙を読んだ。
そこにはこう書かれていた。
_____________________
美希ちゃんへ
ごめんね。気づつけるようなことをしたのは間違っていると思ってます。
でも、私には時間がなかったのでこの方法しかありませんでした。
どうしてもみんなに嫌ってほしかったのです。
でも、みんな美希ちゃんのことを信じたでしょ?
みんないい人たちだもんね!
こんなひどいことをしたのに、こんなお願いをするのは厚かましいかもしれないけど、これからも詩織と仲良くしてください。
どうか、詩織をお願いします。
もう、私は詩織のことを見守れません。お願いします。
本当にすいませんでした。
松井玲菜
____________________
謝罪文と詩織ちゃんに関することが書かれていた。
「うそ…。そんなことって」
「どうしたんだ?美希」
私がつぶやいた言葉に雅也が反応した。
「そ、それが…この手紙、私への謝罪と詩織ちゃんに対することしか書かれていないの。」
「はぁ?どういうことだよ。
あいつ、ケガまでして…。」
雅也の言葉に詩織が即答で返事をした。
「はぁ?ケガ?どういうことよ!昨日、そんな怪我無かったよ!」
「いや、明らかにあれは複数犯に殴られた後でした。
それも、結構新しい傷が…。」
詩織の言葉に旬が答えた。
「昨日…。あっ、そういえば昨日玲菜ちゃん長袖だった。」
「傷を隠していたってことか?」
詩織の後に雅也が尋ねた。
「今思えば、そうかもしれない。
もしかしたら、相当前から計画していたのかも。」
詩織の言葉に場が凍り付いた。
「詩織。詩織のを開けてみな。」
葵衣が詩織に言った。
「わかった。」
(水神の美希side・END)