家に着き、暴れれる格好に着替える。
やっとできる。大掃除が…。
いつもの赤のパーカーを着る。いつもと違うのはズボンからスカートに変わったこと。
黒のミニワンピースに、黒の太ももあたりまである長い靴下。男と言う噂を消すつもりだ。
ウィッグを取って、フードを被った。ピアスをつけ、黒のリュックを背負う。
リュックの中身は、携帯、財布、パソコン、チュ〇パチャップスくらいかな?
チュッパチャプスはいつもなめている。唯一食べるものと言っても過言ではないほどだ。
時刻は7時ちょうど。いこうかぁ。
黒の厚底ブーツを履いて、マスクをして準備Ok!
厚底は動きやすくておすすめ。
マンションを出て歩いて繁華街に向かった。
繁華街に近づいていると、『キャー‼』と女の子の声が聞こえた。
「路地裏の方か…?」
勘で行くと大当たり、女の子の服に手をかける男が一人…。
その周りを囲んでいる男が5人。
「なぁーにしてるの?俺も入れてー?」
男たちに話しかけると、気持ちの悪い目で撫でまわすように下から上まで見た。
「へぇー。いい女じゃねーか。巨乳かぁ…グヘヘ」
きも。
「た、助けて…」
泣きながら女の子は私に訴えた。
「ねぇ、俺と相手してよ?」
「おう。いいぜ?ねぇーちゃんは大歓迎だ!」
「やった!」
気持ち悪い奴。私の遊びは快楽じゃない。激痛だ。
「じゃあ、遠慮なく」
バキッ!
女の子を襲ってた男に近づき、顔面に蹴りを一発お見舞いしてやった。
「お、お前!何者だ!」
見張りでもしていたであろう男が聞いてきた。
「何者…。鬼、だよ。」
驚きよりかは疑いの目の方が強い。
「鬼は、男のはずだ!」
「あれ?知らないの?最近女説が浮上しただろ?もう面倒くさくてな。」
髪が長いのによくもまぁ、今まで男だと思えたよな。
「君らも、潰すよ?」
ボコッ!バキッ!…
「ふぅー。全員伸びたな。大丈夫?」
男共を気絶させ、女の人に近づいた。
「あ、ありがとうございます…。」
「男か女どっちかわからんないって顔だね!」
彼女の顔から、読み取ったことを率直に口にした。
「へっ?!」
「俺は女だよ!」
そう言って、マスクとフードを取った。
「わぁ!可愛い!可愛いのに強いのね!」
「ありがとう。家は?どうしてここへ?」
お世辞を流して本題に入る。
「じ、実は母親が死んでしまってお母さんの遺産を親戚が貰おうと必死で、私を引き取ればお金が入ると思っているみたいで…。」
この子は幸せから急に地獄にいる気分になったのだろう。
「だからここに逃げてきたの?」
「はい。」
「帰るところはあるの?」
「ないです。家は売っちゃて。そのお金も私のものになっていて…。」
「そう。私の家においで。」
「えぇ?!そ、そんな!助けてもらった上にそんなことまで!」
「いいよ。どうせ一人なんだろう?俺は玲菜だ。」
「わ、私は山口詩織です。(やまぐち しおり)ほ、本当にお世話になってもいいんですか?」
「いいよ。私も一人だし。母親のお金も、取り返してやる。」
「え?本当に?!何から何までありがとうございます!」
「いいよ。その代わり、この後も付き合ってもらうよ。あっ、俺は高校一年だ。」
「えぇ?私も高校一年生です!」
「そうか。なら、敬語はなしだ。」
「う、うん!」
詩織は、すごくかわいくて放っておけなかった。
もうすぐ死ぬのにこんなことしてどうすんだ…。
「行こうか。」
「うん!」
詩織を連れて、配慮をしながら掃除をして帰ろうとした時だ。
「玲菜ちゃんは喧嘩が強いね。すごい。」
「そうか?とりあえず家に帰る。」
「うん!」
喧嘩は強いんじゃない。強くならなければいけなかったんだ。
自分で自分を守るためには…。
マンション前に来た時、詩織は言った。
「す、すごいね…。ここ、すごく高いところじゃん。」
「そう?詩織はお金持ちだろ?見慣れているんじゃないのか?」
「そこまでお金持ちじゃないよ!玲菜ちゃんのこともっと知りたい!」
「部屋でな。」
「うん!」
あぁ、どうしてか詩織といると落ち着く。安心する。
部屋に着き、詩織に食べさすご飯を作った。簡単なものだが、オムライスを作った。
「お腹空いているだろう?食べろよ。」
「あ、ありがとう!いただきます!ん?玲菜ちゃんは食べないの?」
「俺はいらない。」
不思議そうにはするがそれ以上聞いては来なかった。
詩織がご飯を食べている間、詩織の前のソファーに座り詩織について調べた。
「ごちそうさまでした!すごくおいしかった!」
「そうか。詩織、お金は余裕で取り返せそうだ。」
「え?!本当?よかったぁ。」
遺産は全て詩織に渡すという遺言書を母親の秘書が持っているらしい。家のお金全てを。
「明日取りに行こうか。」
「うん!」
元気そうでよかった。そう思っていると、
「玲菜ちゃん。教えて、玲菜ちゃんのこと。私はこれからずっと玲菜ちゃんといたい!今日初めて会ったけど、信用したい!」
そんなこと言ってくれるなんて、すごく嬉しかった。
「あぁ。俺も、いや私も詩織といたいと思ったよ。」
それから、病気のこと、家のことすべて包み隠さず話した。
「そっか。私より辛い経験をたくさんしてるんだ。玲菜ちゃんは喧嘩だけじゃなく、心も強いね!」
「そんなことはない。」
「ううん。そんなことある!」
「ありがとう。寝ようか。」
「うん!」
本当に、いい子だよ詩織は。
ただ忘れていたことが、1つ…。
「あっ、この家…ベット一つしかない!」
「え?大丈夫だよ!寝れる!」
ま、まぁ。キングサイズだし寝れるけど、2人でいいのかよ。
こうして2人は深い深い眠りにつきました。
ピピピッピピピッ
「んっ…。んー!」バン!
目覚まし時計を強く叩きすぎた…。
目を覚まし起きると、目の前には天使の笑顔がっ!か、可愛すぎる!
私は可愛いものは何でも好きだ。
よくお眠りになられていることだ。
「お風呂入ろう。」
今は10時。今日は詩織のお金を取り戻すため学校は休んだ。
お風呂に入り、下着姿で部屋に戻ると詩織が起きていた。が、ものすごくオドオドしている。
「詩織?どうした?」
「玲菜ちゃんー!玲菜ちゃんがいなくて、怖かった。」
昨日のこと、まだ吹っ切れていなかったんだな。
「そうか。それはごめん。お風呂に入ってこい。」
「う、うん…。」
「あっ!詩織って、何カップだ?」
「な、なんで?!」
私が普通に聞くと、顔を真っ赤にさせて慌てだした。なんつー純粋さ…。
「着替えだ。下着とかの。」
「あ、あぁ。Cカップだよ?」
「そうか。わかった。」
詩織が風呂場に向かった瞬間動揺した。
そのサイズのブラを持ってねぇ!
私はEカップだからまず無い!買いに行かないと。
もう、お店は開いているな。
ガラガラガラッ!
「詩織ー!」
脱衣所のドアを開けて、お風呂場に向かって叫ぶ。
「なぁーにー?」
「ちょっと買い物行ってくるなぁ!」
「え?!私も行きたい!」
「え?!あ、あぁ!わかった!とりあえず今日の詩織の服買ってくる!」
「わかった!」
まさか、一緒に行きたいというとは。
とりあえず急ごう。
近くにある、洋服専門店や下着専門店に行って詩織に似合いそうな服を数着買って家に戻る。
こんなことなら、体のサイズだけじゃなくバストも測っておくんだったと今更後悔。
「ただいま。詩織ー!服置いておくぞ!」
「うん!ありがとう!」
ガラガラッ!勢いよく扉が開き、詩織が飛び出してきた。
「ねぇ、玲菜ちゃん!この下着カワイイよー!玲菜ちゃんセンスいい!」
そう言いながら下着姿で出てきた。桜色がベースになった白色のボーダーの下着のセット。確かに似合ってはいるが…
「服を着なさい!風邪ひくぞ。」
「はぁーい。」
詩織は脱衣所に戻っていった。
はぁ、異常になつかれた気がする。
「玲菜ちゃん。この服どお?」
詩織が着てきた服は私が買ってきた白のワンピースだった。
膝上あたりの長さですごく清楚な服だ。
「それだけ?カーディガンも買ってあったはずだけど…?」
「え?これしかなかったよ?」
あれ?買わなかったっけ?
「ほら!ないよ?」
私が渡した袋を持ってきて言った。
「そっか。私の着る?少し大きいかもしれないけど。」
クローゼットを開けてレモン色のカーディガンを渡した。
「来てみな。」
「着たよ!でも、少し大きいね…。ふふ」
だろうな。私は160㎝で、詩織は150㎝ちょっと。
「まぁ、可愛いし良いんじゃないか?」
「そう?ありがとう!
玲菜ちゃんはどんな服着るの?」
「んー?これだけど?」
ハンガーにかけてあった服を見せた。
「カッコいい!私とは真逆の服だね!」
例えば、詩織は清楚系で私はストリート系と言うべきか。
詩織は、白のワンピースに黄色のカーディガン、桜色のヒール。
なのに対して、
私は黒の短パンに白の半袖ロゴT、黒のスニーカー。
その服に着替えて、服装に合うメイクを軽くした。
「詩織、ちょっと来て。」
「なにー?」
「座って。」
詩織にも服装に合わせて軽くメイクをした。
「じゃあ、行こうか。」
「うん!」
初めに詩織の家へ向かった。
親戚は詩織が帰ってきた瞬間に目の色を変え、迫ってきた。
「今日は、お話がございます。」
詩織の言葉に誰もがお金の話と思い、一瞬にして静まった。
「私は、誰のお家にもお世話になる気はございません。
私の隣にいる方にお世話になります。」
詩織の言葉に親戚一同血相を変えて怒った。
“優しくしてやったのに”とか“金はどうなるんだ”とか我が保身のため、金のため。
これが親戚か…。
「うっせーな!金のことしか頭にねー奴が人を幸せにできるわけねーだろう‼」
その場はシーンと静まり返った。キレてしまった。
最近、短気になった気がする。
「お金も会社も全て詩織のもんだ。そうだろう?秘書さん」
私の問いに丁寧に答えてくれた。
「はい。全て詩織さんのものです。会社は潰そうが何しようと詩織さんの自由となります。」
その言葉で、親戚の人たちは帰って行った。
詩織は会社を残すと決めていたらしく、会社を継ぐらしい。
秘書さんはまだ、会社に居ていいと詩織が言った。もし、新しい仕事場を探すなら全然いいし、会社にずっと残っても良いと。
「今まで、お母さんを支えてくださってありがとうございます。これからは、私たちの秘書としてお願いします!」
詩織は会社に残りたいと言った秘書さんにお礼を言った。
でも、一つ疑問がある。
「“私たち”ってなに?私も入ってるの?」
「うん!もちろん!社長は玲菜ちゃんで私が副社長!」
この子は馬鹿だ。
「はぁ、私は来月くらいには死ぬんだぞ?」
「死なせない。ずっと一緒に居てもらう!」
「気持ちだけね。ほら、買い物行こう。」
「うん!」
生きれるなら生きたい。詩織のためにも。
でも、命の限界を日々感じざるおえない。日に日に悪くなってる。
だから、私は今を楽しむ!
お金は現金でもらうことになった。私の家の金庫に私のお金と一緒にしまうことにしたのだ。
「玲菜ちゃん!服見に行こう!」
「あぁ。」
この笑顔ももう少しで見れなくなるんだな。初めてだ。死ぬのが怖いと思ったのは…。
今は、今を楽しもう。
詩織はたくさん服を買って、アクセサリーも買って色々買っていた。
「玲菜ちゃん。おそろいのネックレス買おう?」
「あぁ。分かった。買うならいいのを買おう。」
また、可愛い笑顔にやられておそろいをすることになった。
せっかくお揃いで買うなら、長持ちのするいいモノを買った方がいいと思い、専門店に行った。
私がよくピアスを買うところだ。信用できる。
「いらっしゃいませ」
お店に入ると店員さんの声が聞こえてきた。
「あら!玲菜じゃない!お久しぶりねぇ。」
お店の奥から社長の“関谷 安佳里”(せきや あかり)さんが出てきた。
「安佳里さんご無沙汰しております。」
「今日は、どんなピアスを作りに来たの?」
「いえ。今日はピアスではなくペアのネックレスを」
「後ろの子と?」
「はい。妹のような感じです。笑」
「あらそうなの?おほほ
お名前はなんていうのかしら?」
安佳里さんは詩織に興味を持ったのか目がギラギラとしている。
「や、山口詩織です!よ、よろしくお願いします!」
「おほほ!面白い子ね!詩織ちゃんね!よろしく。私のことは安佳里さんって呼んでね。」
「はい!」
「で?どんなネックレスにしたいのかしら?」
どんなネックレスが良いのだろう。
私にも詩織にも似合うネックレス…。
「うーん。これと言ってないんですよ。」
「あら、やっぱりノープランなのね!」
「はい。いつもすみません。」
「じゃあ、こんなのはどう?これは誰にも勧めたことのない特注品。」
渡された紙に載っていたのは社長のデッサンだった。
リングとリングがつながっている。
「すごい。きれいだな。」
「でしょ?まぁ、お値段はお高くなるけどこの世に一つしかない。
私のデザインよ。色は自由でいいわ。文字も彫れるわよ。どう?」
「詩織。これ、どうだ?」
「わぁ!カワイイ…。これが良い!」
「じゃあ、決定ね!各自、彫りたい文字とネックレスの色を決めるわよ。文字はお互いに相手のリングに彫るからね。」
「じゃ、先に詩織でいい。
安佳里さん話があるんでどこか開いている部屋ありますか。」
詩織を先に行かして社長に聞いた。
「あら?どんな話かしら?」
「ピアスの話」
「わかったわ。私の部屋で聞くわ。」
安佳里さんの社長室に入ってすぐ話を切り出した。
「安佳里さん。ピアスを作ってほしいんです。詩織の誕生日まで私は生きられない。詩織の誕生日は9月なんです。」
「貴方の寿命はもうそんなにないの?」
私は頷くことしかできなかった。
「ネックレスの件とピアスの件急がせるわ。他にも注文待ちお客様はいるけどみんな貴方のことは分かってくれるわ。」
「ありがとう。安佳里さん。」
「ピアスのデザインはどうするの?」
「もう決まってるんです。」
「あら、初めてのことね。いつもノープランなのに。」
「あはは、すいません。
デザインを描いてもらってもいいですか?」
「いいわよ。」
そう言うと、ペンと紙を取り出し構えた。
「色は誕生石のサファイヤ、形は……。星型。」
言い終わった後、安佳里さんは目を見開いた。
「貴方…!その言葉は!」
「うん。青星の話だろう?」
昔、安佳里さんに言ったことがあった。
““もし、死ぬまでに命に代えても守りたいと思う友達ができたら、絶対に渡したい言葉があるんだ。
『青星』って言って、太陽を除けば地球上から見て最も輝いている恒星なんだ。
私の選んだ友達は最高に輝いているって意味なんだよ。””
「もう先が長くないからさ、私の全てを詩織にあげるつもり。
そのくらい大事な子。」
「そうか。わかった。ネックレスの色と、言葉はどうする?」
「色は、シルバー。詩織のネックレスに入れる言葉は…。
From"R"
I'm with you, always
(僕がついてる。いつも。)
これでお願いします。」
「わかった。ピアスとネックレスは、どんなに急いでも一週間はかかる。まぁ、特注品だから。全部現金払いでいいわよね。」
「もちろん。来週取りに来る。あとで払う」
「詩織ちゃんが待ってるわよ。」
「はい。では、お願いします。」
社長室を出て詩織のもとに向かった。
「詩織!終わったか?」
「うん!」
「スーパー行くぞー。」
「はぁーい!」
『何を考えているのか知らないけど、焦りすぎよ。玲菜
貴方はなんでも一人で抱え込みすぎなのよ。まだ希望はあるはずよ。』
安佳里が密かにそう思っているとは知らぬ玲菜であった。
「詩織。今日の夜ご飯は何を食べる?」
「んー。和食!肉じゃがとか食べてみたい!」
笑顔でそう言った詩織に疑問が頭をよぎった。
「ん?和食食べたことないのか?」
「ううん。あるけど、いつも外食で和食って言っても料亭のお料理しか食べたことない。」
「あぁ。料亭と庶民的では味は違うからな。」
「うん!庶民的なのを食べたい!」
「わかった。」
食材を買って、家に帰ると時計は5時を指していた。
まだ5時か。水神の倉庫に行くか。
「詩織、ちょっと水神の倉庫に行こうと思うんだが、来るか?」
「え?行っていいの?」
「あぁ、いいぞ。だが、私のことは話すなよ。」
「うん!もちろん、当たり前でしょ!」
私は変装の準備を済ませ、水神の倉庫に向かった。
向かっている途中で詩織が気になっていたのか、聞いてきた。
「ね、ねぇ。玲菜ちゃんってどうして変装してるの?」
「んー?鬼ってバレないためだ。あの髪色は暗黙のルールで鬼しかやってはいけないことになってるからな。」
「そうなんだ。玲菜ちゃんは大変だね!」
「そうでもない。詩織、水神の前では私のことを怜奈と呼べ。」
「?うん。分かった。怜奈ちゃんだね」
「あぁ。着いたぞ。」
水神の倉庫の前に着き、詩織の第一声は…。
「うわぁ!すごい大きい。暴走族の倉庫ってもっと汚いのかと思った。」
「あはは、それは偏見だな。入るぞ。」
「うん!」
中に入ると、下っ端の人たちが挨拶をしてくる。
私は頭を下げているが、詩織はまだ暴走族が怖いのか私の手に掴まって離れない。
奥に行き、階段をのぼり扉を開けた。
「来ましたよ。」
怖いのか、詩織は黙ったまま私の手に掴まっている。
「わぁ!怜奈ちゃん!今日、迎えに教室まで迎えに行ったのに休みってどういうこ…と…。って、後ろのかわいい子誰?!」
美希は興奮気味に私に怒っているけど、私の後ろを見て大声を出した。
「し、詩織です。よろしくお願いします。」
私の後ろに隠れながら挨拶をした。
「私は、桐本美希!美希って呼んで!詩織ちゃん!」
「は、はい!美希ちゃん。」
美希に警戒心を解いたみたいだ。
「美希。葵衣とお話したいことがあるので、詩織をお願いしてもよろしいですか。」
「うん!詩織ちゃん。話そう!」
「は、はい!」
詩織が美希といるのを確認してから葵衣のそばに行き耳打ちをした。
『話したいことがある』
「わかった。総長室に来て。」
葵衣の後ろをついていき、総長室に入った。
何もないとは思うが、一応すぐに逃げられるように扉にもたれかかった。
「話って何ー?」
「お願いがあるの。姫じゃなくてもいい、詩織を守ってほしい。
私のいない間だけでいい。お願い!」
「どうして?怜奈ちゃんが守ればー?」
「これから、私は忙しくなる。詩織だけは一人にしたくないの。
お願い!」
「じゃあ、この質問に答えてくれたらいいよ。」
「わかった。」
「本名は?」
答えたくない。でも、詩織のためなら…。
「ッ!ま、松本玲菜」
「へー!かわいいねー。じゃあ、契約成立ねー。」
「ありがとう。詩織を頼む。」
それだけを言い、部屋を出て幹部室に戻った。
そしたら、満面の笑みを浮かべて詩織が美希と話していた。
なんか、寂しいような嬉しいような。複雑な気持ちだ。
「詩織。帰るぞ」
その声に気づいた詩織は私に抱き着いて、元気に『うん!』と言って美希にバイバイ!と言って私の後を歩いた。
葵衣に本名を教えたが、いくら調べても重要なことは出てこない。
厳重にロックをかけているから…。
(水神の葵衣side)
正直、驚いた。
1人の女のためにあの怜奈が頭を下げるなんて。
余程大切な友達なのだろう。
まずは、怜奈の本名を聞き出したことだし調べますか。
カチッカチッ
しばらく、パソコンと睨めっこをしていた。
「だめだ!情報が出てこないにしてもほどがあるだろう!」
これでも俺は、世界№3のハッカーだぞ!
これは、旬でも無理という事か…。
まぁ、一応頼んでみるか。
ガチャッ
幹部室のドアを開け、旬を呼ぶ。
「なぁ、この名前ハッキングしてくれるか?」
「あ、あぁ。分かった。」
旬が部屋にこもったから、幹部室で待つことにした。
「ねぇ、葵衣。詩織ちゃんって姫にできないの?」
美希がそう聞いてきた。
「それは無理。姫は居ればいる程困る。」
「そっかぁ。詩織ちゃんってさぁ、怜奈ちゃんの話をすると笑顔になるんだよね~。」
「どんな話をしてた?!」
あの子は最も怜奈に近い存在。あの子から情報を聞き出せば…!
「それがね、詳しく聞こうとすると話してくれないんだけど、家でのちょっとした事とかだと話してくれるの。」
あの子、見た目に似合わず口が堅いのか。
なら聞き出すのは無理だな。
「はぁ。そうか。」
ガチャガチャ!バンッ!
「葵衣!ちょっと来い‼」
怖い顔をしながら部屋に入ってきたのは旬だ。
すぐに旬の後を追い旬の部屋に向かった。
「これ!見てみろ!」
パソコンの画面を覗き込んだ。そこに書いてあったのは“松井玲菜”は“鬼”として活動していると書かれていた。
「これって…!」
「これ誰の名前なんだ!」
「桜木怜奈の本名だ。これしか出てこなかったのか?!」
「あいつの?!あ、あぁ。頑張ってもこれしか無理だった。」
「そうか。このことは誰にも言うなよ。」
「あぁ。分かった。」
あいつが、あの鬼?
俺たち水神の命の恩人だというのか?
俺たち水神が作り立ての時だ。
毎日喧嘩して、武器などを使う薄汚い暴走族を潰しまわっていた時だった。鬼に助けられたのは…。
まだ、人数も数えるほどしかいなくてランクの低い汚い族を潰していた時だ。
№27の暴走族の傘下のチームを潰していた時、№27が応戦に来たんだ。
人数も少なく勝てるはずもない。
潰されそうになった時、敵でも味方でもない赤のパーカーを着た男が俺たちの相手を1人で潰した。
その時に言われたんだ。
『お前らは強くなる。もっと練習して頂点を目指せ。』
「ま、待ってくれ!名前を教えてくれ!」
『名前?周りは皆、俺を“鬼”と呼んでいる。』
「また、会えるか?」
『さぁーな。3年以内に逢えなければもう、会えないだろうな。』
それだけを言って風のように去っていった。
あの言葉の意味はいまだに分からないが、あの日から俺らは強くなった。頂点も獲った。
あとは、鬼に会えれば…。
最近、鬼は女だと言われてきている。
もし、怜奈が鬼ならつじつまは合う。
あいつを監視する必要がありそうだ。
(水神の葵衣side・END)
あの、葵衣に頭を下げた日から一週間。
一週間の間に詩織が私と同じ学校に入ってきて、クラスも同じになって毎日が楽しかった。
倉庫に行って、詩織を倉庫に残して鬼として活動した。
水神とはそこそこ仲良くなった。詩織は全員と仲良くなったみたいでよかった。
今日は、詩織とネックレスを取りに行く日だ。
詩織と店に向かった。
「いらっしゃい。待っていたわよ!
はい、これ!」
完成した物を見た。
私はシルバーで詩織のは薄い桜色だ。
「詩織は桜色にしたんだな。」
「うん!前に、玲菜ちゃんが桜色が一番似合うって言ってくれたから!」
「そうだったか。つけてあげるから、後ろ向きな。」
詩織の首に桜色のネックレスが光る。
「これってどういう意味なの?」
リングの裏側に彫ってある文字を見て聞いてきた。
「From"R" I'm with you ,always.
(僕がついてる。いつも。)
って意味だ。」
「わぁ!いつも守ってくれているみたい!」
自分のをつけて、リングの裏を呼んだ。
「From"S" stay by me side forever.
(ずっとそばに居てね。)
詩織、ありがとうな。居れるだけ詩織のそばにいるつもりだ。」
「うん!」
「詩織、先に行っていてくれ。すぐに追いつく。」
「わかった!ゆっくり歩いてる。」
詩織が出たのを確認して安佳里さんにお金を渡し、ピアスを受け取った。
「安佳里さんありがとう。」
お礼を言って走って詩織のもとに向かうと詩織はナンパされていた。
「おい!お前ら何してんだ!」
すぐに詩織の腕をつかみ自分のもとへ引き寄せる。
「あぁ?なんだテメェ。」
「は?お前がなんだよ。
帰ろう。詩織」
詩織に帰ろうと促し、倉庫へ向かおうと進路変更し歩き出すと、
「てめぇ!調子に乗ってんじゃねーぞ!」
バコッ!
鉄パイプで後頭部を殴られた。
「いってーなぁ…。殺すぞ。」
殺気を出した。今日は鬼の格好ではない。
どうするか…。まぁ、やるしかないんだけど。
「覚悟はできてるよな?おい。」
バコッ!
私を殴ってきた男の肩を鷲掴みし、殴った。
「お、おい!こいつ、鬼だ!あの鬼だぞ!
あの髪色と耳に光る大量のピアス…。鬼だ!」
そういって、逃げて行った。
はぁ、フードなしでもバレるのか。やばいな。
「詩織、行くぞ。」
「う、うん。玲菜ちゃん、頭大丈夫なの?」
「あぁ。大丈夫だ。」
それだけ返して歩いた。
倉庫の前に来て、詩織に行った。
「病院に行ってくるわ。迎えに来るから絶対に水神といなよ。」
「うん!わかった!」
バスに乗って病院に向かった。
病院についてすぐに医院長室に向かう。
コンコンッ
「はい。」
中から孝介先生の返事が聞こえた。
「孝介先生ー。玲菜」
「は?玲菜?!」
ガチャッ!
「入るよー。」
「おまえ、連絡の一つくらいよこせよ。」
「はいはい。」
「で?最近はどうなんだ?」
「ますます悪くなっている気がする。
いつ倒れるかわからない。」
「そうか、もしかすると1か月も持たないかもしれない。」
「は?どういうこと?!具体的にどのくらい?!」
「おい、興奮するなよ。落ち着け。
まぁ、大体一週間程度だな。」
「一週間?!どうして、どうして私が…!」
「入院するか?そしたら、もっと…」
「いい。一週間でけりをつける。」
「そうか。来週には入院だぞ。」
「うん。わかってる。
今日は、帰る。」
どうしよう。急がないと。
もう、計画を実行するしかない。
「あっ、詩織を迎えに行かないと。」
水神の倉庫の前に来た時、誰かに声をかけられた。
「おい。どこまで知ってるんだ。」
「どこまでって?」
話しかけてきたのは、西ノ宮龍生だった。
「とぼけるな。俺の過去のことだ。」
「あぁ、あなたの過去のことは全て知っていますよ。」
「知って、どう思った?」
「どうと言われましても…。文章で読むだけじゃわかりません。
もし、良ければ聞かせていただけませんか?無理にとは言いませんが…?」
「どうせ、知られているんだ。隠す必要はないだろう。」
「じゃあ、話してくれるんですね。」
「おれさぁ、昔は両親と仲良かったんだ。
でも、父親の会社が倒産した日を境に両親のギャンブル依存症、アルコール中毒が始まって、虐待された。
それが、小3の時だった。
それで、虐待から二年たった時マンションの隣の住人が夜中の物音が激しいって警察に通報したんだ。それで、両親の虐待がわかって俺は養護施設行き。
中学になるころには、荒れて、喧嘩ばっかりやってた。
その流れで、水神に入ったんだ。」
西ノ宮龍生の過去は壮絶だ。実の親からの虐待。
きついだろうな。
「へぇ、そう。話してくれてありがとう。
文章より頭に入ってくる。」
「おまえは、同情しないんだな。」
「そんなのしてどうするの。されたくないでしょ。
同情は一番腹立つ。」
「そうか。俺のことは龍生って呼べよ。俺も怜奈って呼ぶから。」
「う、うん。ねぇ、龍生。詩織呼んでくれない?」
「帰るのか?」
「うん。時間がないから。」
「そうか。じゃあな!」
ドキッ!
そう言って、満面の笑顔で倉庫の中に入っていった。
なんか、懐かれた?今のドキッってなんだ?
「玲菜ちゃんー!帰ろう!」
龍生が入って、すぐに詩織が来た。
「あぁ。夜ご飯はどうする?」
「んー。オムライス!」
「わかった。」
部屋に入り、キッチンに向かいオムライスを作った。
10分後
「詩織!できたぞ」
「はぁーい。」
詩織はソファーに座り、オムライスを食べている。
この顔を見られるのはあと何回くらいなのだろう。
「ん?どうしたの?
ジッっと私の顔見て。」
「んー。可愛いなって思って。」
「な、なにそれ!」
「なぁ、詩織。今日病院に行っただろう?」
「うん。ごちそうさまでした。」
食べ終わりお皿を片付けに行った。
「もう、一週間くらいしかまともな生活ができないらしい。」
「え?それ本当?」
「あぁ。もう、時間がない。
いつ倒れるかわからない。」
「そっか。じゃあ、残りの時間は全部玲菜ちゃんと過ごしたい。」
「あぁ。そうだな。風呂入って寝るか!」
「うん!一緒に入ろうー。」
「しゃーねぇな。」
ごめんな。詩織。
できるなら、もっと一緒に居たかった。
龍生とももっと話したかった。
ん?どうしてここで龍生が出てきたんだ?
まぁ、とりあえず計画を実行しないと。
みんな。ごめんね。
あと3日しか残ってない。
今日は普通に学校に行ったが、行かなければよかったんだ。
朝の時点で気が付くべきだった。
朝から体調は良くなかった。あの鈍感な詩織に心配されるくらいだ。
その状態で学校に行き、普通に授業を受けていたときだった。
「はぁ、はぁ。うっ、ふぅ。はぁ。」
これはちょっとやばい。
「玲菜ちゃん大丈夫?」
前の席に座っている詩織が小さな声で聞いてきた。
「いや、やばい。保健室行ってくる。
先生に言っといて。」
「わかった。気を付けてね。」
ガラガラガラッ!
やばい。これはマジでダメなやつだ。
「はぁ、はぁ。」
胸が苦しい。心臓が痛い。
保健室に行くのには階段を下りないといけない。でも、そんな余裕はない。
このまままっすぐ行けば職員室だ。そこに行こう。
ガラガラガラッ!
「はぁ、はぁ。この、大学、病院の…医院長…を、はぁ、呼ん、でもらえ…ます…か?はぁ」
「え、えぇ。わかったわ!」
戸惑っていたが、迅速な対応をしてくれたおかげで倒れる前に孝介先生が来た。
そのまま、大学病院に運ばれた。
「はぁ、無理はするなと言っただろう。」
「ごめん。でも、あと3日。
明日にはけりをつける。」
「わかった。入院の準備しとくぞ。」
「うん。ありがとう。」
その日は、詩織に連絡をして病院に泊まり、次の日の朝、家に帰った。
家に着いた時には9時を過ぎていた。
詩織はもう、学校に行ったみたいだ。
詩織のことは水神に任せたから大丈夫だろう。
もし、詩織に何かあれば水神を許すことはできない。
詩織は学校にいるから、今のうちに計画の準備をしよう。
準備が終わったら学校に入院のことを言いに行こうと思っている。
計画は明日の朝に実行する。
計画の準備を終えて、学校に向かった。
今は授業中だから、誰にも会うことはないだろうから人目を気にしなくていい。
職員室前に着いた。
コンコンッ
「失礼します。」
「どうかしたの?昨日は大丈夫だった?」
クラスの担任が目の前に来た。
「はい。迷惑をおかけしてすみませんでした。」
「迷惑なんて!」
「実は、大切なお話があってきました。
昨日の時点で察してらしたかもしれませんが、日常生活が危うくなってきました。
明日、入院することにしました。今日を持って、学校を退学します。」
「そっか。私は、少しでも長くあなたが生きていられることを祈ってます。」
「はい。ありがとうございます。
あの、病気の件もも退学の件もクラスの人たちへの報告は先生に任せます。でも、明後日まで誰にも言わないでください。お願いします。」
「明後日まで…?何か、理由があるのね。
分かったわ。明後日みんなに全てはなさしてもらうわ。」
「なにも、挨拶できず申し訳ございません。
他の先生方にもお礼を言えていないので、申し訳ないのですが、先生方に伝言をお願いします。」
「え、ええ。ちょっと待って、録音機持ってくるわ。」
そう言って、自分のデスクに録音機を取りに行き、戻ってきた。
「はい。いいわよ。」
『“先生方、直接言えなくて声のみになってしまい、申し訳ございません。
私は今、日常生活が送れないくらい危うい状態です。
もう、入院をしなければならなくなってしまいました。
このような形で報告してしまってすいません。
こんな私を学校に受け入れてくださって、ありがとうございます。
先生方には感謝してもしきれません。ありがとうございました。
もっと、この学校で先生方の授業を受けたかったです。
もう、会えないかもしれませんが、会ったときは声をかけてください。
本当にありがとうございました!
・・・・・・
先生、全部言い終わりました。”』
「言い残すことはもうない?」
「はい。ありがとうございました。
本当に最後ですね。それでは、失礼します。」
「頑張ってね。」
「はい。」
お辞儀をして、学校を去った。
家に帰り、葵衣に電話をした。
プルプルップルプルッ
「もしもし、なにー?」
葵衣ののんきな声が聞こえてきた。
「あのさ、明日の朝9時に話があるの。
幹部みんな集めておいてほしい。」
「話ってなにー?」
「明日の朝言うわ。」
「そっかー。じゃあ、明日ねー。」
「うん。」
プチッ
これで、最高で最悪の死の舞台が完成した。あとは明日、仕上げをするだけだ。
今日はまだやることが残っている。
“鬼”としてではなく、1人の女として喧嘩をしに行くのだ。
7時まで待って繁華街に向かう。
今は、体自体が弱ってしまっている。もしかすると、犯されるかもしれない。それほどの覚悟。
歩くだけでも疲労を感じる。
繁華街に着き、いきなり絡まれてしまった。
「おい、そこのねぇーちゃん。
ここに来たってことはヤられに来たってことだよなぁ?」
ニヤニヤしながら男3人が向かってくる。気持ちの悪い奴ら…。
「いいよ。やろうよ。」
「ハハハ、そうか!それじゃあ遠慮なく!」
その声とともに、3人一斉にかかってくる。
ヒュッ!バキッン‼
2人を避け、後ろの1人の顔面にパンチをくらわした。
「う”ぅ”…。」
バキッ!
もう1人を殴る。だが、
バコッ!
私の頭を鉄パイプで殴ってきた。振り向くと、最初に殴った男が後ろにいた。
「調子に乗りやがって!」
その男に気を取られていると、ガシッ!っと、もう一人の男に羽交い絞めされ、身動きが取れなくなってしまった。
まぁ、今日の本来の目的は殴られること。
理由は、明日分かるよ!
でも、これはやばい。
バコッ!ボコッ!
鉄パイプで殴られまくっていると、もう一人が起きた。
「イッテェー。このクソ女…。」
バコッ!
顔面殴られたんですけどー!いや、いいけど痛いよ!
ダメだ。このままだと気絶しちゃう。
いい加減反撃しないと…。
グリッ!
羽交い絞めしている男のみぞおちを肘でえぐった。
声にならないうめき声をあげながら、倒れた。
前の男に回し蹴りをして2人同時に吹っ飛ばした。
帰ろう。これはさすがにやられすぎた。
家に帰ると、すでに詩織が帰っていた。
何もなかったかのように装った。
「ただいま。」
「玲菜ちゃん!おかえり。ご飯作ったよ!」
詩織がエプロン姿でお出迎えしてくれた。
「そのエプロン似合ってるな。」
「そう?!ありがとう!美希ちゃんがプレゼントしてくれたの。」
「そっか。よかったな。」
「お鍋作ったの!簡単なもしか作れないから!」
「そうか。詩織が作ったのなら食べよう。」
「本当?やったー。」
リビングにはお鍋が置いてあった。
「「いただきます(!)」」
「うん。おいしいな、上出来だ。」
「やった!玲菜ちゃんに褒められた!」
詩織とはもう、一緒に居れないな。今日で最後か…。
「詩織、今日は水神の倉庫に行ったのか?」
「行ったよ!でも、すぐに帰ってきたの。
玲菜ちゃんが帰っているかもしれないと思って‼」
「1人で帰ってきてないよな?」
「うん!送ってもらったよ!」
「そうか。あっ、明日も水神の倉庫に行くよな?」
「うん!行くよ。」
「明日、みんなに話があるから、昼から来てくれないか?」
「え?話?」
「あぁ。大事な話だ。」
「そっか。分かった!」
「じゃあ、もう寝ようか。」
「うん!」
明日の朝、すべてのけりが付く…。
計画実行は明日の朝だ。
朝8時に自然に目が覚めた。
今日が、計画実行日。そして…何もかもなくなる。
8時30分に家を出て、水神の倉庫に向かった。
計画が終われば、最悪の死を待つだけの入院が待っている。
私の計画の内容はこうだ。
↓
現姫の美希ちゃんを裏切り者に仕立て上げる。でも、水神は美希ちゃんを信じるだろう。
そうして、私はみんなに嫌われる。
ただそれだけだ。昨日のけがもそのためにのものだ。
もう、体の自由が利きにくくなっている。
もう、そろそろ危うい。
倉庫に着き、中に入った。
朝が早いせいか、下っ端の人たちが寝ていたりいない人が多かったからか、いつもより幹部室に着くのが早い気がした。
「あ、あの…。」
部屋に入ってすぐ、声をかけた。
幸い、美希ちゃんは居なかった。
「お話とは何ですか?」
旬が聞いてきた。
「あの、実は美希ちゃんのことで…。」
「美希がなんだ?」
私の言葉に続いて、雅也が聞いてきた。
「私、言おうか迷ったんだけど…。
昨日美希ちゃんが男の人たちを使って、私をケガさせたの。」
「はぁ?美希がそんなことするはずないだろう?!」
雅也が反抗した。
「怜奈。大丈夫か?けがの手当てをしよう。」
旬が私のけがの手当てをしてくれた。
「旬、ありがとう。
雅也の言う通りかもしれない。もしかしたら、私のか違いだったかもしれない。
でも、赤いリボンをつけていたからそうだと思ったんだけど…。」
「赤いリボン…。あっ!」
雅也が反応した。
それもそのはず、赤いリボンは昨日美希ちゃんがつけていたから私には知るはずもないもんね。
まぁ、学校から出ようとしたら美希ちゃんを見かけたから知っている。
ガチャッ!
「みんなー!ヤッホー…!
…。どうしたの?怜奈ちゃん!」
突然美希ちゃんが入ってきた。
手当てをされている私を見て驚いている。
「どうしたの?って、美希ちゃんが男の人たちにさせたんでしょ?!」
「え?私そんなことしてない!」
「う、嘘つかないで!」
「なぁ、美希。裏切ってないよな?」
雅也が美希ちゃんに聞いた。
「私じゃない!」
「でも、美希ちゃん私に言ったよね?
姫は私だけでいいの!水神にもう、関わらないで!そう言ったよね?!」
「言ってないよ!みんな信じてよ!」
「美希、もう一度聞く。裏切ったのか?!」
雅也が、力強く聞いた。
「私は裏切ってない‼」
美希ちゃんも力強く言い返した。
これは、もう信じるだろうな。
「そうか。俺は信じる。」
雅也は信じた。
「はぁ、もういい加減にしなよ。玲菜ちゃん」
「「「「玲菜ちゃん?!」」」」
葵衣の言葉にみんなが叫ぶ。
「どういうことだ?怜奈。」
一番初めに聞いてきたのは龍生だった。
「ごめんね。龍生
玲菜は私の本名。桜木怜奈は偽名で、本名は松井玲菜よ。」
「どういうこと?怜奈ちゃん
私いじめてないよね?どうしてうそをついたの?」
美希は悲しそうな、でも怒りを含めた声で強く言った。
「どうして?そんなの決まってるでしょ?
姫になりたかったの!フフフ
ごめんね?みんな」
私が軽く言うと、
「はぁ?!ふざけんなよ!
心配したこっちの気持ちも考えろよ!」
雅也が激怒した。
「あんた、ふざけんのも大概にしろよな。」
私の手当てをしていた旬も、静かにキレた。
「はいはい。すいませんでしたー!私は姫になりたかっただけよ。
じゃあ、もうここには一生来ることはないけど…。
じゃあねー!」
そう言って、足早に倉庫を去ろうとした。
倉庫を出たあたりで誰かに肩を掴まれた。
「な、なに?!」
叫んで、後ろを振り返るとそこにいたのは葵衣だった。
「なに?葵衣」
「玲菜ちゃんは、嘘つくの下手になったね。」
「はぁ?なんのことよ。」
「姫のこと。なろうと思えばなれたでしょ?
俺が姫にならないかって言ったとき、断ったのは玲菜でしょ?」
「あぁ、確かに。まぁ、いいじゃん。なんでも。」
「俺には教えてよ。」
「簡潔でよければ。」
「理解ができれば何でも」
早く、孝介先生のところに行かないといけないのに。
「入院しないといけなくなったの。だからよ。」
「あぁ。それで…!ねぇ、君って“鬼”だよね?」
バレてんじゃん。ハッキングしやがったな。
「そうだけど?あっ、詩織のこと頼んだよ。もし、何かあったら連絡して。」
「ハイハイ。分かってるよ。」
「あっ、あと。この手紙を美希ちゃんに渡して。
で、この袋を詩織に渡して。もう少しで来るはずだから。
龍生たちに全部話してもいいよ。じゃあね。」
「わかった。」
急いで、孝介先生のもとに行き車に乗り込んだ。
「ちょっと本気でやばいかも。」
「どんな状態だ。」
「呼吸がしづらいのはいつものことだけど、歩くのにも疲労を感じてる。何をするのも辛い。」
「そうか、相当進行しているな。病院に戻ったら検査だ。」
「うん。分かってるよ。」
この日から、退屈な退屈な恐怖の死を待つだけの入院生活が始まった。