「ずるいな、その子」
「え?」
「何でその時に出会ったんが、俺じゃなかったんやろ。
俺やったら、華ちゃんがわかるまで迫って、後悔なんてしやんし、させやんけどな」
そんな風に言われたって、自分は何も言えるわけがない。
でも、角野先輩の言ったそれは少し違うだなんて、冷静に考えた。
「でも…」
もしあの時代に角野先輩が居たとしたら、今、こうして会話していることもなかったんじゃないか。
「過去」がもしも違っていたなら、当時にとっての「未来」の現在も、きっと全て違っただろう。
そんなことがあったら、現在で角野先輩と出会っていなかったのだから。
それは自分が辛くて、仕方がない。
自分も、周りも不安定だったあの頃に、角野先輩が居なくて、むしろ良かった。
自分で、少しは整理がつけられる様になった現在で出会えたからこそ、良かったんだと思う。
「やっぱり先輩は、今の先輩が…好きです」
そう言った途端、角野先輩は目をキョロキョロとさせてから、そっか、と小さく呟いた。
そんならしくない先輩が可愛く思えて、笑ってしまった。